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zoom RSS この世はあたしが回してる

<<   作成日時 : 2014/10/18 14:49   >>

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あたしには特殊な能力がある。
自分の好きなように時間を進められる、という能力だ。

残念ながら、時間を止めたり戻したりはできない。あくまでも時間の進むスピードを調整できるだけだ。
まるで早送りとスロー再生しか反応しなくなったDVDプレーヤーみたいだな、と考えてげんなりしたこともあるけど……まあ、便利な能力には違いない。

科学的な話となるとさっぱりわからないけど、その時間の流れの中であたしはちゃんと参加してそれなりに行動していたことになっているようで、ずーっと動かないけど何あいつ、なんて怪しまれたことは一度もない。
人にそれとなく探りを入れてみたら、動きがトロくなって反応がやたらと鈍い時がある、と認識されているらしかった。

今日は日曜日。
夜の間遅くしておいた時間の速さを元に戻して、あたしはベッドから起き上がる。
うーん、よく寝たあ。さて、ご飯食べておしゃれして出かけなきゃ。
今日は友達と二人で遊びに行く予定だ。待ち合わせは駅前。
待ち合わせの五分前に着くように、あたしは家を出た。

……遅い。何やってんだか、もう。
あたしはイライラしながらスマホの画面で時間を見た。
何よ、もう待ち合わせの時間過ぎちゃってるじゃないの。
なのに友達はまだ来ない。
寝坊でもしたか、それとも約束事態を忘れたのか。
仕方なく電話してみると、

「ごめん、今起きたとこ!」
「は?」

起きたとこってアンタ。

「アラームのセット忘れててさあ、今電話来て目が覚めたの。ごめんね、今速攻で準備してるとこだから」
「……あのさ、待ち合わせ場所、ちゃんと覚えてる?」
「覚えてるわよ。駅前でしょ」

まあ、約束事態を忘れたわけじゃないのね。うん。

「つーわけで、後で何かおごるから許して! じゃ!」

通話の切れたスマホをにらんで、あたしはじっと考え込んだ。
今から準備して、こっちに来るってことは……最低二十分はかかるんじゃないの?
うわあ、二十分も待ってろっていうのか。
こっちは五分前に着くようにちゃんと支度して来てるっていうのに、何でそんな思いを……。

仕方ない、スピードを上げよう。
ため息をついて、瞬きを抑える感じで前を見つめて、意識を集中させると――途端、世界が早送りの画面のように動き出す。
目の前を行く人々がせわしなく歩き出して、話す声のピッチが上がって間抜けな感じに聞こえる。
しばらくすると、雑踏の中に友達の姿が見えた。

うん、もう良いな。
ふっと息を吐くと、時間の流れる速さが元に戻る。

「ごーめーん!」

あたしを見つけた友達が、申し訳なさそうに苦笑いしながら駆け寄ってくる、その背後で異変が起きた。
急にアクセルを踏み込んだ時特有の、タイヤがきしむ音。
悲鳴。右へ、左へと飛ばされていく人。逃げ惑う人。倒れる人。
やがて姿を現す銀色の車体。
車高が低くてあんまり物を積めそうにない感じの……スポーツカーって言うんだっけ? あんな感じのデザインだ。

あたしはとっさに、時間の進む速さを限界まで遅くした。
悲鳴や、苦しそうなうめき声や、車のエンジンの音が、恐ろしく間延びして飛び交う。
はね飛ばされた人がじりじりと空中を進む。じわじわとアスファルトに向かって落ちていく。
体の一部を車に巻き込まれた人が、少しずつ少しずつ、車体の下に沈み込んでいく。

あたしは友達に向かって駆けだした。
何をするかって? 決まってるじゃない、助けるのよ。
このままじゃあいつはひかれちゃう。無事じゃ済まない……どころか、最悪、死ぬ羽目になるかもしれない。
目の前で友達が死ぬなんて、そんなの嫌だ。何もしないでなんていられるもんか。

休日の人出の多さが恨めしい。これじゃ、ほぼ肉の壁だ。
あたしが人波を必死にかいくぐって友達の所にたどり付いた時には、車は友達のほとんど背後まで迫っていた。
友達もさすがに異変には気付いたらしく、背後に迫ってきた車を見て驚いた顔をしていた。

「こっち!」

あたしは友達をぐいぐい引っ張って、車の前から移動させにかかる。
……残念ながら、この能力には一つ、欠点がある。この状況だと致命的な欠点だ。
時間の流れる速さを変えている間、元の速さで動けるのはあたしだけ。他の物は変えられた速度相応でしか動けないのだ。
たとえあたしが干渉したとしても、だ。
だから今、こうして車の前から移動させるにも苦労しなくちゃいけない。

友達がゆ〜っくりした動きでこっちに顔を向けて、間延びした声であたしの名を呼び始める。
たぶん、彼女にしてみたら、離れた所にいたはずのあたしがいきなり目の前にいて驚いたんだろう。瞬間移動したように見えたに違いない。
力一杯ぐいぐい引っ張っていると、ようやく友達の体がこっちに傾き始めた。

よし、もうちょっと! がんばれ、がんばれ、がんばれ、あたし!

友達のスカートのすそに、車のバンパーが触れている。

お願いだから、間に合ってよ――あたしはいつの間にか、涙ぐんでいた。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
読ませていただきました。
今回は少し毛色が違うというか、結末は読者の想像に任せるタイプの話なんでしょうか。私は友達は助かるだろうと思いますが。
ところでこの主人公、瞬間移動のような早さで動いて、後で筋肉痛にはならないんですかね。それなら欲しい能力ですね。
火消茶腕
2014/10/18 23:17
感想ありがとうございます。

最初に書きあげた時は友達が死んで自分に車が向かってきて……って具合な話でしたが、さすがに人としてどうかと思ったのでこのような形になりました。
主人公の力は科学的なあれこれ関係ないので、筋肉痛にはなりません。便利ですね。
そもそも時間の流れる速さを操ったら光にも影響が出て視界も……う゛っ、難しいことを考えたら頭が!

ではまた、お暇な時にでもいらして下さい。
鈴藤由愛
2014/10/19 12:06
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