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zoom RSS お姉さんとの思い出

<<   作成日時 : 2014/10/11 13:45   >>

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お姉さんと出会った時のことを、今でもはっきり覚えています。
私達は、村の外にある森の中で出会いました。

村の大人達には「森に行ってはいけない」と言われていましたが、私は意地悪な子達に出くわすのが嫌なあまり、森へと入ったのです。
大人達への罪悪感から初めのうちは入口の辺りにいたのですが、もしかしたら見つかるかもしれないと不安になって、私は日に日に奥へと踏み入るようになりました。
そうしたことが続いたある日、私は森の中ほどを過ぎたところで一軒の家を見つけたのです。
家は白い石を積んで作られた物で、村にはない珍しい外観でした。
私はたちまち興味を抱いて、家の周りをぐるりと見て回ることにしました。
こっそりと窓から中をのぞいてみると、人の気配こそないものの、中は真っ暗で何も見えませんでした。

少しがっかりしながら家の裏手に回ってみると、見たことのない小さな青い実をつける植物で一面の畑があり、一人の若い女性がその中に入って何やら摘み取る作業をしているところでした。
日を浴びてきらきらと輝くまっすぐな亜麻色の髪を垂らしたその人は、当時村一番の美人だと褒めそやされていた娘さんよりもずっと美しく思え、私は思わず見とれてしまいました。
と、見つめる私の視線に気づいたのでしょう、その人はハッとした様子で顔を上げ、私に目を向けました。
そう、それが私とお姉さんとの出会いでした。

お姉さんは少し怖い顔をして、私に「あなた、どこの子?」と尋ねました。
私が森の外にある村の子だと答えると、「帰りなさい。二度とここに来ては駄目」と厳しい声で告げました。
でも私は帰りたくないとべそをかきました。意地悪な子達にいじめられるから、と。
お姉さんはそんな私を見て困ったように頭をかき、しばらくの後「じゃあ、この青い実を摘むのを手伝ってちょうだい」と小さなかごを差し出してきました。
お姉さんは美しいだけではなく、困っている人を見捨てない優しさを持つ人でもあったのです。
私は夢中になってお姉さんのお手伝いをしました。
やがてかご一杯に青い実を摘み取り終えると、空はもう夕暮れの色に変わっていました。
「もうお帰りなさい。それから、二度とここへ来ちゃ駄目よ」とお姉さんに諭され、私は家に帰りました。

その後、私は毎日のようにお姉さんの所へ行きました。
この人のことは自分だけが知っているのだと思うと妙にうれしくて、私は甘える子猫のようにお姉さんに付きまといました。
「二度と来ちゃ駄目と言ったでしょう」と、私を見るたびお姉さんはあきれたような、怒ったような顔をしましたが、だんだん何も言わなくなりました。
季節が一つ変わる頃には、私はお姉さんの家に上げてもらえるようになっていました。

お姉さんの家には変わった物がたくさんありました。
何に使うのか見当もつかないような道具や分厚い本などが大量にあって、見ているだけでわくわくしたものです。
今にして思えば、お姉さんは何かの研究を専門にする人だったのでしょう。

私を家に上げると、お姉さんは毎回、不思議な味のシロップをくれました。
シロップは畑で摘む青い実で作られた物で、材料の実と同じ色をしていてほんのりと甘い味でした。
それまで甘味と言えば果物のそれしか知らない私にとっては、新鮮な味わいでした。
私はたちまちシロップの虜になり、何度もお代わりをせがみましたが、お姉さんは「これはお代わりするような物じゃないの」と絶対に二杯目をくれませんでした。
それならせめて青い実を持って帰って、母に作ってもらおうとも考えましたが、お姉さんは青い実を持って帰ることを許さず、作り方もがんとして教えてはくれないのです。
どうしたら作り方を教えてくれるのかと尋ねると、「あなたが大人になったらね」という答えが返ってきました。
大きくなったら何がしたいか、という将来の夢が、その時私にできました。

そのシロップの正体を教えてもらう機会は、ついに来ませんでした。
私が十三になった年の春、お姉さんは「魔女」として捕らわれ、公衆の面前で焼き殺されてしまったのです。
――私がいけないのです。
意地悪な子達に、森へ入るところを見られてしまったから。
そして、後をつけられてしまったから。

意地悪な子達の告発で、お姉さんは「魔女」にされてしまいました。
私は一生懸命、周りの大人にお姉さんは魔女なんかじゃない、と訴えました。
しかし、大人達は一度も耳を貸してくれませんでした。
いったん「魔女」と決まったら、もう覆ることはない――後から知ったことです。

お姉さんは私にシロップをくれた理由を、こう言っていたそうです。

「あの子を助けたかった。あと一年もしないうちに、恐ろしい病気がこの世界に蔓延するから」

お姉さんが魔女として焼かれた日のことを、私は忘れることができません。おそらく一生の傷として、死ぬまで覚えていることでしょう。
あの日、村の広場に積まれた大量の薪の上に立たされた――というより薪の上の十字架に縛り付けられたお姉さんは、かつての美しい面影を失っていました。
亜麻色の髪は刈り取られ、全身のいたるところに青あざと火傷の跡をつけたお姉さんは、見ているだけで胸の張り裂けそうな有り様でした。

「ご覧、お前を取って食おうとした恐ろしい魔女が焼かれるところだよ」

母はギラギラとした目で、薪の上のお姉さんを見つめていました。
母ばかりではありません。大人達は皆、お姉さんにギラギラした目を向けていました。
その形相の、おぞましさたるや。
私は、魔女とやらよりも大人達の形相の方がずっと恐ろしいと思いました。

子供達は侮蔑と嘲りの言葉を浴びせ、石を投げつけていました。
私をいつもいじめる意地悪な子達はもちろん、そうではない、普段は優しい大人しい子も、私よりずっと小さな子も、皆、どこか楽し気でした。

私は泣きました。
うずくまって震えて、必死に耳をふさいでいました。
怖い。辛い。嫌だ。
そんな感情で頭の中がぐちゃぐちゃになりながら、漂ってくる煙と臭いに何度もえづいて泣きました。

――お姉さん。
今はもう、誰もあなたのことを魔女だなんて呼んでいない。
あなたの言う通り、一年と経たないうちに世界規模で恐ろしい病気が蔓延して、毎日たくさんの人が死んでいるから。
人間というのは現金なもので、今やあなたは惨状を予言した聖女だそうです。

私は村の中でただ一人、生き残りました。
目をギラギラさせていた大人も、お姉さんに楽し気に侮蔑と嘲りの言葉を浴びせ、石を投げつけていた子供も、病気は平等に蝕み尽くしました。
私が生き残ったのはお姉さんがくれたシロップのおかげなのでしょう。他の村人と私との一番の違いは、シロップを飲んだかどうかだけですから。

私は誰もいない閑散とした村で、今日も畑に種をまきます。
お姉さんとの思い出の残る、あの青い実を付ける植物の種を。

お姉さんの家は丸ごと焼かれて何もかも失われてしまいましたが、植物は次の年、畑のあった場所からまた育って実をつけたのです。
私はそれを元に種を取り、空いた畑にまいて育てて、摘みってはシロップにして試しているのです。
今のところ、あのシロップとは似ても似つかぬ物ばかりですが……私はあきらめません。
シロップを完成させて、なおかつそれが病気に効くのだと証明する――それが今の私の目標です。
お姉さんが私にしてくれたことを、無駄にしないために。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
読ませていただきました。
それでお姉さんは何者だったんでしょうか?
病気の蔓延を予測できたのはどういうわけなんでしょう?
実は魔女で火炙りにされたふりして、どこかで生きている?だといいですね。
それから、主人公の彼は絶対シロップ作りに成功しますよね。ね。
火消茶腕
2014/10/11 16:16
感想ありがとうございます。

お姉さんは予知のできる人で、いわゆる「善き魔女」です。
病気の流行を予知して、魔女に伝わる薬草の知識でどうにかしようと奮闘していた模様です。
こっそり主人公で薬の効果を試していた部分も……。
でも皆の分ができる前に焼き殺されてしまいました。

ちなみに主人公の性別は決めずに書きました。
読む人に任せようと思ってたんですが、「彼」と取りましたか。
嫌すぎる初恋の終わり方ですが、アリですな。

主人公のシロップ作りは成功します。
でも、現代なら主人公からワクチン作って終わるんだろうな……。

またお暇な時にでもいらして下さい。
鈴藤由愛
2014/10/11 20:24
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