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zoom RSS カスタマイズ・ミリー

<<   作成日時 : 2014/09/27 13:33   >>

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帰ったら、リビングにいたママから呼び出された。
何だろう。お説教だったらいやだなあ。
渋々向かうと、ソファに座るママのそばに、へんてこりんな物体が突っ立っていた。
見た目は、大昔に作られていたというブリキのおもちゃのロボットそのものだ。
ドラム化みたいな体に目らしき四角いランプのついた頭と鉄の棒をつなぎ合わせたような腕と足がついていて、Cの字の手がキュイキュイと音を立てて回ってる。

嫌な予感。
そういえば今日だっけ。私専用のお世話ロボットを支給される日って。
十八歳になると政府から支給される、身の回りの世話をさせるためのロボット。高卒で働く人は卒業時の成績で。上の学校へ行く人は受験の結果次第で支給されるお世話ロボットのランクが決まるんだよな、確か。

……苦い記憶がよみがえる。
私、本命の大学、落ちちゃったんだよな……。
それでこんなロボットが支給されちゃったんだな。何という格差社会だ。

「これが今日からあなたのお世話をするロボットよ」

ママがそう言った。
やっぱりそうか。今日だったのか、すっかり忘れてたよ。

「ハジメマシテゴ主人サマ。ワタシ、ロボットノミリーデス」

うわあ、音声出力も前時代的だよ。なんて古臭いんだ。

「ええ〜っ、これが私のお世話ロボット〜!?」

不満たらたらで、思わず叫んだ。

「仕方ないでしょ。あなた、本命の大学の入学試験、落っこちちゃったんだもの」

ママがため息をつく。
するとすぐさま、ママのところへピンク色の、もう少し人間的な形のロボットが飛んできた。
ママ専用のお世話ロボットだ。

「ママ様、脈拍と呼吸に乱れが生じておりまするっ」
「ありがとう、一時的な物だから心配いらないわ」

うう、ママのお世話ロボットみたいなのが良かったよお。
じとーっとした目でママとロボットのやり取りを見ていたら、

「そんなに不満なら、自分で色々カスタマイズしなさい」

ママがあきれたように私のロボット……えーと、ミリーだったか、を指差した。

「カスタマイズ?」
「自分でロボットの制御プログラムを組んだり、外装パーツを交換したりしていくのよ。やりようによっては、政府から支給されたのよりも性能のいいロボットを持つことができるんですって」
「それて違法じゃないの?」

私は首をかしげた。
お世話ロボットは政府から支給されているもので、改造しちゃいけない決まりになっているはずだ。
そうじゃないと、入学試験の結果次第で支給されるロボットを決めている意味がなくなるから。
故障したらどうするかっていうと、政府に申請して引き取ってもらって直してもらう仕組みだ。ちなみに全部無料でやってくれる。

「自分で自分のロボットをいじる分には違法じゃないらしいわよ。政府に連絡すれば、欲しいパーツやプログラムを配布してもらえるそうよ」
「そうなんだ」

それなら選ぶだけで、ちょっと楽かも。

「ただし、長ったらしい個体ナンバーを毎回言わなきゃいけないんだけどね」
「どこに書いてあるの?」

私はミリーの体をきょろきょろ見回してみたけど、番号らしいものなんてどこにも見当たらなかった。

「吾輩のナンバーはここでございまする」

ママのロボットが背中を向ける。
背中の真ん中ぐらいのところに小さな四角い扉がついていて、ママがそこを押すと、ぱかっ、と開いた。
扉の中には長ったらしいアルファベットと数字を羅列した白いシールが貼られてる。これが個体ナンバーってやつらしい。

私はミリーの背中に回ってみた。
ママのロボットと同じように、小さな四角い扉みたいなのがついてる。だけど扉はねじで留められていて、押せば開く仕組みじゃなさそうだった。
今時ねじってアンタ。毎回ねじ回し持ってきて開けろっていうのか。

「ママ様! もっとママ様のお役に立てるよう、ぜひ吾輩もカスタマイズして欲しいでございまするっ」
「私はやらないわよ。プログラムなんてちんぷんかんぷんだもの」
「ママ様〜」

私は、ミリーのドラム缶そのものな冷たい鉄の体に触れた。
こんなのが私のお世話ロボットだなんて、人に知られるのは嫌だな。
よーし、頑張ってカスタマイズして、皆がうらやましがるようなロボットに生まれ変わらせよう!

……とは思ってみたものの、ミリーのカスタマイズはなかなか終わらなかった。
いや、なかなかってレベルじゃない。それは途方もなく、終わりの見えない作業だった。
ミリーは見た目も旧式そのものなら、中身……内蔵されたチップ一つから、人間でいう骨格にあたる基幹部分まで旧式で、最新式のプログラムを記憶させたり、外装パーツを外して付け替えれば済むようなレベルじゃなかったのだ。
ほとんど一からロボットを作るようなもので、私の大学生活は、大学での勉強とミリーのカスタマイズに費やされることになった。
何せちっとも終わらないのだ。恋愛だのサークル活動だのといった大学キャンパスならではのあれこれなんて構ってられやしなかった。
そんなわけでミリーが連れて歩けるような立派なロボットに仕上がる頃には、私の大学生活はほぼ終わってしまっていた。

でも全くの無駄ってことはなかった。
何故なら、政府のお抱えであるお世話ロボットを製作する機関に就職することができたからだ。
たいていの人は政府から支給された状態のをそのまま使い続けるか、ちょこちょこっとカスタマイズして終わりにしちゃう中で、旧式の状態から最新式に仕上げた腕前を高く評価された結果だ。
自分専用の個室で製作図面を作成するのが、私の毎日の仕事だ。

誇らしい仕事なんだけれど、ただちょっと、一つだけ困ったことがある。

「マスター。所長から図面の引き渡しを要求する連絡が来ております」

自分の個室に向かう途中、隣を歩く背の高い女性から連絡を聞いて、私はため息をついた。

「所長もあきらめないわねえ」
「それだけその図面が欲しいということでしょう」

その図面って、君のなんだけどね。
私は隣を歩く女性を見上げた。
黒い髪をポニーテールにした、スーツ姿のスレンダーな体型の女性。
そう。これが今のミリーだ。
ミリーはもう、ドラム缶に手足が生えたようなかっこ悪い見た目のロボットじゃない。
ほとんど人間と変わらないどころか、充分美人の範疇に入るような女性の姿をしている。

うーん、何度見ても、我ながらいい出来だ。ほれぼれしちゃうな。手間暇かけた甲斐があったわ。
やっぱり連れて歩くなら、見た目のいいロボットの方が良いもんね。
男だってきっと同じなんだろうな。
こういう女性に「マスター」なんて呼んで欲しいんだろうな。

だから所長が図面を渡せってしつこく要求してくるのは、仕方ないことなのかもしれない。
なんでも、ミリーを、というかミリー型を量産して世の男性のお世話ロボットにしたいらしい。
所長個人の思惑じゃなくて、方々からそういった要求が来ているんだそうだ。

……なんか嫌だ。ロクなことに使われない気がする。
そう考えると、図面を渡す気にはなれない。
こっちとしてはミリーは娘みたいなものだ。かけた手間と時間は半端じゃないんだから。

「マスター。現在の脳波、血流、体温の変化を測定した結果、強いストレスを感じているようです。このままでは作業効率の低下が危ぶまれます。休憩されてはいかがでしょう」

ミリーが冷静に報告してくる。
やっぱり所長の要求のことを考えると、ストレス感じるんだな。

「じゃあ部屋に戻ったら休憩しようかな。コーヒー入れてくれる?」
「かしこまりました」

そうだな、所長には……「出来合いの物を求めず、カスタマイズする方が愛着も持ててよろしいかと思われます」とでも言っておこうか。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
読ませていただきました。

お世話ロボットは同性のものが支給されるんでしょうか?
若い男に女性型ロボットを支給したら、徹底的にカスタマイズするような気がします。ネコミミつけるとか。メイド服着せるとか。あれとかこれとか。
男にはお世話ロボットは支給しないほうが平和な気がします。男はしょうがない生き物ですので。
火消茶腕
2014/09/27 20:41
感想ありがとうございます。

思考プログラムとしては同性ですが、見た目は性別不詳な感じのが来るんだと思います。
でもおっしゃる通りこだわる人はこだわるでしょうし、政府からもらえるパーツ以外に、色々と違法なプログラムや闇パーツもありそうですねえ。
思考プログラムの性別をこっそり異性のものに変えて、外見いじくって、好みのタイプに変えていって……はっ、少子化が止まらないっ!?
ちなみに、私だったら人間型じゃなくて猫型に……と思ったらそれはお世話ロボットとして役に立たないですね。残念。

それではまた、お暇な時にでもいらして下さい。
鈴藤由愛
2014/09/27 21:05
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