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<<   作成日時 : 2014/08/23 11:19   >>

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古めかしいデザインのセーラー服を着たお下げの花子さんが、「転校生の花園サツキです」と朝の教室で自己紹介をしてから数週間後、衣替えの時期が来た。
「通っていたところが廃校になった」と転校の理由を説明した花子さん……いや花園さんは、この頃にはすっかり良好な人間関係を築いていた。
花子さんなのに別の名前を名乗るなんて、人間からしたら変かもしれないけど、他の花子さんと区別したり、人間に混じって生活するにはこの方が便利なのだ。
私だってクラスじゃ花子なんて名乗ってないしな。

「はあぁ〜……」

日曜日ということで人気のない教室の机に突っ伏して、私はうめいた。
衣替えの時期になると、暑い。特に今日はどうにもならないほど暑い。
窓も教室の出入り口も全部解放しきってるのに、風がないからちっとも涼しくならない。
妖怪のくせに暑さ寒さを感じるのかって? 感じますよ。痛いのもかゆいのも感じますとも。

耳をすますと、グランドや体育館で練習している運動部の声や吹奏楽部のパート練習が聞こえてくる。
特に運動部はもうじき大会があるということで、合宿をしているところもある。彼女らには土曜も日曜も関係ない。

「都会の学校って風通し悪いんですよね、はあ」

隣で花園さんがセーラー服の胸元をつまんで、ばふばふさせてる。ちゃんと半袖の夏服だ。ただし古めかしいデザインに変わりはない。何でもこれが向こうの夏服だそうだ。
こだわりでもあるのか、周りに「まだ新しい制服が届かないんです」とか説明しつつ、頑なにこっちのセーラー服姿に化けようとしない。

花園さんの元いた学校がどんな所かは聞いたことがある。
何でもド田舎の山間部にあった木造校舎で、部分的な改修は何度かしたけど、丸ごと建て替える話はついに出なかったそうだ。廃校になる頃には教室のほとんどが物置状態で、ひどい所は床板を踏むと音がしたという。

「文明の利器に頼ろうよ〜、クーラーある教室行こうよ〜」
「何言ってるんですか、勝手に使っちゃまずいですよ」

花園さんの言うことももっともだ。
昔、熱帯夜に耐えかねてクーラーを使ったら、「誰が使ったんだ」って騒ぎになったからな。
あれからあんまり暑い時はプール入ることにしてるけど、今は人がいるから入れない。

「ぐあああ常時クーラー付けてる部屋はないのかあ」

机をガタガタ揺らしてぼやいていると、花園さんが顎に手をかけて考え込むそぶりを見せた。

「そうですねぇ……職員室なら、先生がいらっしゃれば使っているんじゃないでしょうか」
「職員室に居座るほどの用はねえええ」
「ハナさんこないだ数学の小テストひどい点数だったんですし、教えを乞うふりをすれば居座れると思いますよぉ?」

……あ、嫌な笑顔。

いかんいかん、こんなことで腹を立てては小物だぞ。
私は自分に言い聞かせる。

色々あったとはいえ、花園さんを「置いてあげる」ことにしたのはテリトリーの主である私の判断だ。
あくまでも、置いてあげるのだ。同居とか共存とかじゃなく、かわいそうな同族に情けをかけてあげたのだ。
この学校をテリトリーとしているのは私。そこに変化はない。つまり立場は私の方が上!
住みかを得たら花園さんには私以上に高い能力があると判明したけど、それとこれとは関係ない。だって先に住んでたのは私なんだから。世の中には先住権ってものがあるんだ。

そんなわけで、花園さんを置いてあげるにあたって、私はちょっと考えたのだ。
テリトリーの主にふさわしく、寛大な心と慈悲深さを持とうと。
だから、このくらいで目くじたら立てたりはしない。だって私は主なんだから。

このことは花園さんだって了承済みだ。
説明したら、にっこり笑って「はい、出しゃばった真似はしませんから」って言ってたもん。

「数学は愛せないのっ」

私は腹立ちまぎれにふくれっ面をしてみせた。
数学なんて大嫌いだ。
生徒のふりをして一緒に授業受け始めてから長いこと経つけど、いまだに良い点数なんか取った事ない。

「まあ数学さん、かわいそうに」
「そもそも数学の方が私を嫌ってるのよ。私に好かれたかったら、向こうから歩み寄ってくれるはずでしょ」

「相変わらず程度の低い話をする」

唐突に、女子校にあるまじき男子生徒の声がした。
ちょっとだけ顔を上げて教室の入り口を見ると、見知った顔の学ラン姿の短髪の少年がいた。
もちろんこの学校の生徒じゃない。そもそも人間でもない。
この学ラン少年は太郎君。近くの男子校で花子さん的な立ち位置にいる妖怪だ。花子さんの男版、と言ったらわかりやすいかもしれない。
詳しいことは良く分からないけど、男ばっかりの学校には花子さんは住めないのだ。逆もまた然り。私だってさすがに男子校に住みたいとは思わないけど。だって変態みたいだもん。

太郎君は私や花園さんとは違って人間とは接触していない。他の太郎君と区別するためにのみ、「柊太郎(ひいらぎ たろう)」と名乗ってる。

「きゃああーのぞきよー痴漢よー」

棒読みでそう言ってやると、太郎君が眉を吊り上げた。

「おのれ、人を不埒な輩呼ばわりしおって! 三年会わない間に顔を忘れたか、上妻(かみづま)ハナ!」
「フルネームでの呼称お疲れ様です、ゴンザエモン君」
「ふざけるな!」
「ハナさん、知り合いの方ですか」

花園さんが首をかしげる。

「うん。近くの男子校の太郎君。私達と同じ妖怪だよ」
「そうですか。初めまして、花園サツキと名乗っております」
「柊太郎だ」

微笑む花園さんに対して、太郎君の自己紹介は短い上に愛想もない。
決して嫌ってるわけじゃないだろうけど、初対面でこれじゃあ誤解されそうだ。

「で? 今日はわざわざ何の用? まさかあんたも住みかを追い出されたの?」
「ふん。噂が本当かどうか確かめに来ただけだ」
「どんな噂よ?」
「この学校の花子が代替わりした、と」

何ですとっ!?

「違ーうっ、色々あって置いてあげてるだけ! テリトリーの主は私! そこ、重要だからね? 変わってないからね!?」

慌てて否定すると、太郎君はしら〜っとした顔で私を見下ろした。

「……花園の方がよほど主にふさわしいようだが」
「それでも私が主なの!」

きいっ、憎たらしいなこんちくしょう! そもそも初めて会った時からこんな態度だったな!

「本当か?」

太郎君は花園さんに目をやる。

「ええ。私はただの居候です」
「その気になれば可能だろう」
「その気はありませんよ?」

花園さんが小首をかしげて、にっこり笑う。
……なんか含みがあるような気がするんだけど、気のせいかな?

「まあ噂は真実ではなかった、ということだな。打ち消して回ろう」

太郎君は一つうなずくと、

「おい、上妻」

急に私をじっと見つめてきた。

「何よ」
「髪を伸ばしたのか。だいぶ雰囲気が変わったな」

う。
いきなり何を言い出すのよ。

「……そりゃ、雰囲気変えてみたくって伸ばしたんだし」

なんで赤くなるのよ、私。
腐れ縁以外の何者でもない太郎君にほめられたって、うれしくとも何ともないでしょうが。
だいたい髪を伸ばしたのは雰囲気を変えたいっていうだけで、その、誰かに褒めてほしいとか見てもらいたいとか、そういう目的でやったわけじゃないんだから。

「どうせ似合わないって言うつもりなんでしょっ」
「そうは言わんが……いや何、ハナタレのハナも色を覚えたか、と思ってな」

…………。
ハナタレのハナっていうのは、私が生まれたての頃に付けられた嫌なあだ名だ。
今までの花子さんの中で一番能力が低かったので、近隣の花子さん達から嫌なあだ名をいただいてしまったのだ。
さすがに今はそんな風には呼ばれていない。呼ばせないために必死こいて、何とか並の能力ぐらいには成長したから。

それでも時々そう呼ぶのが太郎君だ。私がこのあだ名に泣かされたことを知っているはずなので、嫌がらせしているのは間違いない。
こいつ、もう許さん!

「とっとと帰れえぇ!」

私の放った蹴りは、太郎君には当たらなかった。
太郎君は蹴りが炸裂する前に、向こうへ帰ってしまったから。
私の足はさっきまで太郎君がいた場所を空振りしただけだった。
く、屈辱……っ。

「ばーかっ! ばーかっ! ばーかっ!」

仕方ないので、私は太郎君がいた場所の床を踏んづけまくってやった。
上履きのゴム底がペチペチと間抜けな音を返してくる。

「ハナさん、無意味ですよ」

後ろで花園さんがあきれてる。


――私がテリトリーの主にふさわしい寛大さと慈悲の心を持ち合わせる日は、当分来そうにない……。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
読ませていただきました。

太郎さん、随分大人みたいですね。それと、花子さん、暑さ寒さを感じるんですか。連日熱帯夜を記録するような地方の花子さんたち、熱中症対策、万全なんでしょうか。
 夜中、学校のプールで花子さんを見かけたら、別の名前がつきそうですが。格好は当然スクール水着?
 面白かったです。
火消茶腕
2014/08/23 16:04
感想ありがとうございます。

太郎君がハナさんより大人びているのは、人間と接触せず俗っぽくないからです。
むしろハナさんが変わり者なのです。

暑さ対策は何かであおぐか打ち水をするか、たらいに水くんで足を入れておくか、プールで泳ぐかぐらいのもんだと思われます。
でも妖怪だから死にはしません、大丈夫、きっと。
と書いてから、冬場の豪雪地帯の花子さんも大変そうだ、と思いました。
学校にあったかい場所、あったっけ……。

夜中のプールで泳ぐところを見られたら思いっきり学校の七不思議ですね。そして水着は当然スクール水着でしょうなあ。他の水着を知らないから。

よろしければまた、お暇な時にでもいらして下さい。
鈴藤由愛
2014/08/23 17:35
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