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zoom RSS 花子さん現る

<<   作成日時 : 2014/08/16 12:43   >>

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昨日、学校の女子トイレに花子さんが出たという。
放課後、部活の帰りにトイレに寄った女の子が見たという。
三番目の個室のドアを開けたら、うちの学校のとは明らかに違う古めかしいセーラー服を着たお下げの女の子がいて、すうっと消えたそうだ。

ドアを三回ノックしたり、「花子さん」と呼びかけたりしたわけじゃないなら、それは花子さんじゃなくてただの幽霊のような気がするんだけど……とにかく、次の日の朝には校内でその話で持ち切りだった。
さすが女子高。女だらけの空間じゃ、噂の広まる速度が段違いだ。

ただ……面白がって噂しているのが大半だけど、中には間に受けちゃってる人もいるわけで。

「ねえ、ハナちゃん。トイレ付き合ってくれない?」

昼休み。私は声をかけられて読んでいた本から顔を上げる。
そこにいたのは、セーラー服姿のいかにも大人しそうな清楚な女の子。私と仲良しの田中さんだ。
ちなみにここは家庭科室。
次の授業が家庭科でここを使うから、私は早めに来てダラダラしていたのだ。
移動教室の席順は自由だから、良い場所は早い者勝ちだ。後からのんびりなんて言ってると、先生の真ん前に座る羽目になる。
家庭科担当の先生、ヒステリーなおばさ……いやいやお姉さまなんだよな……。ヒステリーさえなきゃいいのにな……。

「いいよ」

私はそう答えて、本にしおりをはさんだ。

「ごめんなさい。本読んでたのに」
「別にいいよ」

田中さんは数少ない、噂を間に受けて怯えているタイプの人だ。
生来の真面目さからか、しょせん噂だし、と笑い飛ばせないらしい。

「大丈夫だよ、早く行ってきなよ」

その気質のせいだろう、トイレに到着してもまだ、田中さんは入り口で様子をうかがっていた。
怖がりというか、想像力が豊かすぎてもっと恐ろしい方向に考えちゃうんだろうなあ。

「でも……」
「私がついてるんだから大丈夫。ほら早く、休み時間終わっちゃうよ」
「う、うん」

田中さんはそろそろと個室に入る。
私は別に行きたくないから、手洗い場の鏡で身だしなみを整えて待つことにした。

うちの学校の手洗い場は洗面台が三つ並んでいて、前の壁に一枚、大きな鏡がついている。
鏡の前に立つと、黒くてまっすぐなロングヘアにセーラー服姿の私が映る。
髪の毛、ここまで伸ばすの苦労したんだ。やっぱり髪を伸ばすとイメージ変わるよなあ。
はねた所はないし、ゴミもついてない。じゃあ、枝毛がないかちょっと見ようか。
髪をひとふさつまんで毛先を見つめたその時、ぴしり、と小さな音がした。
途端に襲ってくる嫌な感覚――強いて言うならざらざらしたものに肌をなでつけられるような感覚――に、私は髪を離して顔を上げた。

顔を上げた時に目に入った鏡の中に、違和感があった。
なんと私が着ている物とは明らかに違う、古めかしいデザインのセーラー服姿のお下げの子が、うつむいて立っていたのだ。

「ちょっと」

私は振り向くと、お下げの子に詰め寄った。
すると、お下げの子はびっくりしたように顔を上げた。

「あなた、どこの花子さん? ここ、私の住みかなの。だから出てって」
「あ、あなたがここの花子さんなんですか」

お下げの子はおどおどした様子で私を見つめた。

そう、私はこの学校のトイレの花子さんだ。
普段は生徒のふりをして生活しているけれど、正体は妖怪なのだ。
別段珍しい話じゃない。どこの学校でも花子さんはそうやって暮らしてる。

「そう。だから出てって」
「そんな、お願いです、悪いことしませんからここにいさせて下さい。私、今までいた所が廃校になっちゃったんです」
「知らないわよそんなの。空いてる学校探しなさい」

私はしっしっと手を振る。
住みかにしていた学校が廃校になったことは、素直に同情する。
だって、花子さんにとって学校が廃校になるってことは、存在が消えるってことだから。
学校の花子さんというのは、そういう運命なのだ。

だから素直に運命を受け入れていれば良いものを、それを拒んで空いている学校――他の花子さんがまだ住み着いていないっていう意味だ――を探して移り住む花子さんがいる。
ところが最近は学校自体が減ってしまい、なんとも図々しいことにすでに他の花子さんが住み着いている学校へ押しかけるやつもいるのだ。

それが今、目の前にいるお下げの子というわけだ。

「お願いです、私、もうよそへ行く力がないんです。このままじゃ消えちゃう……」

お下げの子は涙目で私にすがりついてきた。両手で私のセーラー服のそでをつかんでくる。
ええい、離せ。

「駄目なものは駄目」

振りほどこうとしたけど、お下げの子の手はしっかりそでをつかんでいて離れない。
何よ、力がないって言ってたくせに、案外力あるんじゃないの。

私は別に、意地悪してるわけじゃない。当然の主張だ。
ここは私の住みかなのだ。動物でいうとテリトリーだ。
動物が自分のテリトリーに入り込んだ同族にどんな扱いをするか、ちょっと考えればわかるだろう。
妖怪にとっても、テリトリーはとても大事なものだ。
各学校につき、花子さんは一人だけ。それでこそ私の能力も十分に発揮できるのだ。
もし他の花子さんまで住まわせたとなれば、たちまち私の能力が衰えてしまう。他の妖怪に食われる可能性がある。
私に、よそから来た花子さんを迎え入れる理由なんてないのだ。

……自分の力が弱くなるのを承知で、同居させてあげるお人よしな花子さんもいるらしいけど。

「あなた、それ以上主張するなら私とやり合わなくちゃいけないけど、どうするの?」

私はお下げの子に凄んで見せた。
私は共存を認めない。お下げの子はここに住みたい。それならテリトリーの奪い合いをするしかない。

「そ、そんな」

お下げの子は私のそでから手を離して、しくしく泣き出した。
住みかを持つ花子さんと、持たない花子さんでは力の差は明らかだ。お下げの子に勝ち目はない。

「わかったでしょ。痛い目見ないうちに出てってた方が身のためよ」

その時、トイレの水を流す音がして、個室から田中さんが出てきた。

「お待たせ。付きあわせてごめ……」

そそくさとこっちに向かってきた田中さんは、ぴたっと立ち止まった。
私を見た後――ぎぎぎっ、とぎこちなく、お下げの女の子を見る。

「きゃあああ! お、お化けーっ!」

田中さんは悲鳴を上げて――倒れた。
私は血の気が引いた。

「田中さんっ」

慌てて抱き起してみたけど、田中さんは完全に気を失っていた。
保健室運ばなきゃ。取りあえずおんぶして……ああ駄目だ、気絶してたら一人じゃ背負えない。
そうこうしている間に、トイレの外が騒がしくなってくる。
きっと田中さんの悲鳴を聞いて集まってきたんだろう。
で、ここにお下げの子がいたら……それを見られたら……。
まずい。除霊でもされたらたまらない。さすがにそうなったら私まで出て行かなくちゃいけなくなる。

「……手伝いましょうか?」

頭上から降ってきたお下げの子の声。
顔を上げると、さっきまで涙目だったはずのお下げの子は、勝ち誇ったような顔をしていた。

「べ、別におんぶじゃなくても、抱っこして運べば良いだけよ」
「私の姿を見られたこと、知ってますよねぇ? おまけに外から人も来ますしぃ? 大勢の人に私の姿を見られたら、どうなっちゃうんでしょうねぇ?」

全然態度が違う。さっきまでビクビクおどおどしてたくせに。

「じゃあとっとと姿を隠せば良いじゃない!」
「嫌です」

あっ、こいつ。良い笑顔でばっさりと。

「嫌じゃなくて、見られたらまずいって話でしょ!」
「除霊なんてことになったら、どうしましょう? あなたも私と同じ道を進むことになるんですよぉ? ああ、それともこの事が悪いうわさになって、ひょっとしたら生徒が集まらなくなって廃校、なんてことになったりして?」

じょ、除霊はまずい。除霊は、除霊は……。

「い、良いわよ……この学校にいても良いわよ。だから今すぐ姿消して!」
「ふふふ、じゃあサービスで私を見られた記憶と私の噂、消しておきますね」
「……そんなことできるの?」
「ええ、私、あなたより長いこと花子さんやってますから。住みかさえ確保できれば、後は色々できるんですよ」

「じゃ」とお下げの子が姿を消すのと、「どうしたの!?」と先生が飛び込んでくるのは、ほぼ同時だった。

……後日。
花子さんの目撃情報も噂話もきれいさっぱり無かったことになり、田中さんは貧血でトイレで倒れたことになり、お下げの子は「転校生」として私と一緒のクラスで授業を受け出した。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
読ませていただきました。

なるほど納得のオチ。一つ疑問があるんですが、男子校には花子さんは住めないんですかねえ。一郎さん的な何かがいて、縄張り主張しているのかなあ。
火消茶腕
2014/08/16 19:22
感想ありがとうございます。

あー、そういや男子校ってどうなるんでしょうねえ。
対象年齢的に、花子さんが出るわけにはいかない気がしますものねえ。
ということで次回はそれを書こうと思いました。ニヤリ。
たぶん一郎君か太郎君が出てきます。

またお暇な時にでもいらして下さい。
鈴藤由愛
2014/08/16 19:54
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