プラスマイナス1

アクセスカウンタ

zoom RSS 現場不在証明

<<   作成日時 : 2014/01/25 16:34   >>

トラックバック 0 / コメント 2

「そんでよお、俺、そのバッグのために必死こいてバイトしたわけよ。たかがバッグなのに平気で百万とか超えてんたぜ? もう馬鹿みてえ」

マンションの部屋。
我ながら実にシンプルに質素にまとめられた室内で、俺はでかい図体の男と向かい合って缶ビールをあおっていた。

「でも振り向いて欲しいからさあ、頑張ったんだよ俺。でも、そのバッグプレゼントして告白したら『うわっ、キモ!! 近寄んじゃねえよ!』って、取り付くしまもないって感じで……」

……うっとおしい。泣き癖のある酔っ払いは非常に迷惑な存在だ。
目の前で酔っ払いながらぐずぐず泣く大男にうんざりしながら、俺は自分のビールに口をつけた。
こいつは俺とは中学時代から付き合いのある奴だ。
大学生になった今や、女にフラれるたびに俺のところに来てはこうしてぐちぐち言いながら酒を飲むのだ。
一応、自分の都合で他人の部屋に押しかけて泣くという行為の迷惑さ加減を自覚してはいるようで、俺の分の酒やつまみもちゃんと用意してやって来るが。

「俺、何が悪いんだろうなあ。結構尽くすタイプだと思うんだけどなあ」

そうかそうか、フラれる原因が知りたいか。
なら教えてやろう。

「顔だな」
「ひどっ!!」

傷ついた顔でこっちを見る。
いや事実だからな。
美人のたとえで「玉子に目鼻」なんて言うが、こいつは「じゃがいもに目鼻」と表現するのがしっくりくる顔だ。
それもメークインじゃなくて男爵いもの方で。

「見た目的に釣り合いの取れねえ女ばっかり惚れるからだろうが。鏡見ろ鏡。主観抜きであくまで客観的にだぞ。高望みできる顔か?」
「う、うう、うるさいっ、俺は美人じゃなきゃ嫌なんだ!」

おいおい。

「その顔で美人がついてくるわけねえだろ。とにかくその面食いなのをどうにかしねえ限り、絶対彼女できねえぞ」
「妥協とあきらめは人生を殺すんだ!」
「あーはいはい。時には妥協もあきらめも大事ですよ」
「これが俺の生き様だ!」
「……無謀って言葉、知ってるか?」

と、急に意識がにごってきた。
ああ、眠いんだな、俺。
……この瞬間を待ってたんだ。

「おい寝るなよお、話まだ終わってねえんだぞお」

泣きながら体を揺すってくる酔っ払いのどアップを最後に、俺は意識を手放した。

――気がつくと、俺は雨の降る夜の道の上にいた。
おおここだ、ちゃんと来れたな。
俺は目的地にたどり着いたことを確認すると、目当ての人物――というか自動車が通りかかるのを待った。
相手は自動車が好きなようで、この時間は愛車を飛ばしているのだ。
時間的にはもうじき、ここを通るはず。

と、前方から自動車のライトがまぶしい光を放ちながら近付いてきた。

来たか。

俺は前進してくる自動車のボンネットに飛び乗ると、運転席へと乗り込んだ。
普通なら出来ないどころか、跳ね飛ばされるような行動だ。
だが俺にはできるのだ。ちょっとしたわけアリで。

目の前には俺と変わらないぐらいの年の運転手。
俺のことなど気付きもしない様子で自動車を飛ばしている。
顔立ちや髪の色を見る限りはその辺にいる奴らと大差ないが、着ているのは高級そうなスーツだし、はいている靴だってピカピカに磨き上げられている。
何をやらかしたかは知らないが、俺が出張るぐらいの恨みを買ったんだからろくでもない奴だろう。

まあ、こいつの素性はどうでもいい。仕事をさっさと終わらせるだけだ。

スピードは……結構出ているが、もっと出しておいてもらおう。
俺はアクセルペダルにかかった足を押し、少しずつ少しずつ……だが確実にスピードメーターの針を動かしていく。
次のカーブだ。そこまでに充分なスピードにしておかなければ。

と、運転手が不意にスピードメーターに目をやる。
思いがけないスピードにちょっと驚いたようで、わずかに目を見開いている。
まだだ。
俺はブレーキペダルを踏もうとする足を、車体側から押し戻した。
片手でアクセルを踏む足を押し込み、もう片手でブレーキを踏む足を押し戻すかっこうだ。

「く、くそっ、なんだよこれっ!」

運転手は慌てふためきながらも尚、ブレーキペダルを踏もうとする。
無駄だって。あんたは俺に触れないんだから。

やがて道路灯の明かりが迫ってきた。
道路灯っていうのは見通しの悪いカーブや交差点、大きな橋の上や両端なんかに設置されているものだ。
この先には長い橋がある。

俺はブレーキの方から手を引っ込めてやった。
ここぞとばかり、運転手がブレーキを踏み込む。
……猛スピードの状態で急な操作をすると、かえって危険なことになる。
スピードが上がれば上がるほど、ほんのちょっとハンドルを動かしただけで大きく動いたりするのだ。
その上今は雨が降っている。濡れた道路の上で急ブレーキを踏んだら、一体どんなことになるか。

車体は回転して横向き状態になり、運転席の方から橋へと突っ込んだ。
そこに至って、俺は運転席から抜け出した。

自動車はけたたましい音を立てながら落下防止用の防護柵にほとんど垂直の状態で突き進み、ようやく止まった。
見るからに危なっかしいバランスで橋の上に留まっている。
もう少し後ろに重みがあったら、橋から落ちていただろう。
確かめてみると運転席はめちゃくちゃに壊れ、中にいる運転手はハンドルにぐったりと突っ伏していた。
よく見れば壊れて取れた柵らしい鉄の棒が体に刺さっていて、血まみれだった。

仕事、完了。
俺はしばらく、ひしゃげた車体をじっと眺めていた。

「おーきーろー!」

ぐわん、と揺さぶられるような感覚と共に、目の前の風景が一変した。
夜の道路から、見慣れた俺のマンションの部屋へ。
そして酔っ払いのドアップ、再び。

「悪い悪い、俺あんまり酒強くないからよ。飲むと寝ちまうんだ」
「強くないんなら、飲まないで話聞いてくれよお」
「お前が飲んでるんなら付き合わないわけにいかないだろ」
「お、お前……持つべきものはやっぱり友達だよな!」

酔っ払いは勝手になにやら都合のいい解釈をして感激している。

いや違うから。
この方が好都合なんだよ。
なんてことは言えるはずもなく、俺はおつまみ用の一口チーズのフィルムをはがした。

俺にはちょっとした特殊能力がある。
寝ている間に体を抜け出して、どこへでも好きに行けるし物に触れたり動かしたりなんてこともできてしまうのである。
誰にも俺の姿は見えないし、触れることもできない。
お得な幽体離脱みたいなもんだ。
ただしどういうわけか人体には触れられない。
着ている服や靴は触れるのだが、素肌に触れられないのだ。
だから寝ているお嬢さんを好き放題に触りまくる、なんてムフフなことはできない。
それが判明した時にはがっかりしたものだが、すぐに別の使い道を思いついた。
俺の能力は嫌がらせにはもってこいだった。
最初は個人的に恨みのある奴に嫌がらせを繰り返していたが、とある組織が俺の能力に気付き、スカウトしに来たことで生活が一変した。
そういった特殊な能力のある奴ばかりを集めた暗殺組織だ。
組織が指定してきたターゲットを始末すれば、たんまりと報酬がもらえる。

実体がないから怪しまれずに接近できるし、指紋だって残らない。
つい今しがた終わらせてきた仕事だって、単なる「ハンドル操作を誤っての事故」としか見なされないはずだ。
もしも俺を疑う奴がいたとしても心配ないが、俺は念には念を入れ、毎回アリバイを作ることにしていた。
アリバイを主張する場合、「部屋で寝ていました」だけでは心もとないのだ。
いつもはネットカフェに泊まったり、カプセルホテルで他の客と係わり合いになって印象付けたりしているのだが、一番良いのはこんな風に誰かと飲むことだ。
自分以外の人間が、確実にアリバイを証明してくれるから。
酒に弱くてすぐ寝てしまう体質も、俺には好都合だった。

今回も俺には鉄壁のアリバイがある。

「今日は夜通し付き合ってもらうからな。よし、次は思い出話だ。俺が彼女と出会ったのはー……」

適当に相づちを打ちながら、俺は密かに笑った。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
読ませていただきました。
意外な展開でした。てっきりうざい友人をどうにかするのかと思ったもので。
しかし、こんな人間がいたら無敵ですね。私もつい仕事を頼んでしまいそう。いくらだろう。
面白かったです。次回も楽しみにしています。
火消茶腕
2014/01/25 17:19
感想ありがとうございます。

この友人はウザイけどきっと悪い人じゃないですよ。
時々ものすごくイラッとするぐらいで。
人の分のおつまみと酒持ってきてくれるし。
……利用している主人公の方が間違いなく悪人だよな……。

今のところこの主人公は無敵ですけど、将来、霊感のある人に見破られてピンチになったりしてそう。
私もちょっとこの手の依頼をしたくなる瞬間が……ごほごほ。

ではまたお暇な時にでもいらしてください。
鈴藤由愛
2014/01/25 20:13
現場不在証明 プラスマイナス1/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる