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zoom RSS Dear ジュリー 5

<<   作成日時 : 2013/12/07 20:19   >>

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アレクサンドロさんは、配達屋さんに呼ばれて現れた白衣の人達に病院へと連れて行かれました。
集まっていた人達はそれを見届けた後、ひそひそ話をしながら散らばりました。

「……きっと、頭のおかしな奴なのよ」

お店に戻ってきたおばさんは、そう言ってかぶりを振りました。
なんでもアレクサンドロさんは、連れて行かれる間じゅう、何かはっきりしないうわごとを言い続けていたそうです。

「まあ、たちの悪いからかいじゃないようだけど……いい? 次にあいつがお店に来ても、もう気にかけちゃ駄目だからね」

私の両肩をつかんで目線を合わせてくるおばさんに、私はこくりと一つうなずきました。
本当は、気にかけないなんてこと、できる気がしなかったけれど。

――次の日、アレクサンドロさんは姿を見せませんでした。
次の日もまたその次の日も、アレクサンドロさんは来ませんでした。

「今日はあいつ、来たの?」

おばさんの質問に「いいえ」と首を横に振りながら、私は正直、悲しいというよりもほっとしたような気持ちでした。
次に顔を合わせた時、一体どんな顔をすれば良いかわかりませんでしたから。

「そう。なら良いけど……ああでも、すっきりしないわね。あいつはあいつでかわいそうだって思うと、あまり悪くは言えないし……」

おばさんは難しい顔をして、爪をかみました。

「ジュリー、知ってる? この前のこと、ちょっと噂になってるのよ。そのうち収まるだろうけど、ひどいことを言われたらすぐに教えなさい。こっちが悪党にされちゃ、たまらないからね」

噂のことは、私も知っていました。
あの騒ぎに関しては、「頭のおかしな男がわけのわからないことを言って騒いだ」というふうに噂されていました。
戦争で心を病んだ男の、哀れな妄想に取りつかれた成れの果てだろう、と。

でも中には、「あの家のおばか姪っ子に捨てられて、あの男は頭がおかしくなった」だの「あの男はおばと姪っ子両方を手に入れようとしたのがばれて、見苦しく騒いだ」だの、事実とは違う心無い噂をする人もいました。
何故私が知っているかというと、わざわざ「そういう噂があるけど、本当のところはどうなんだ」と尋ねてくる人がいたからです。
尋ねてくる人はたいてい嫌な笑い方をしていて、私は軽蔑せずにいられませんでした。
一体どうして、自分の得た情報をそんな風にふくらませられるのでしょう。
「そういう連中は心が汚いから、汚い方向にしか考えが行かないのよ」とおばさんは憤っていました。

「人の噂も七十五日、なんて言うけど……」

おばsんがため息をついたその時、お店のドアが開きました。
お客さんが来たのなら、おしゃべりしているわけにはいきません。

「いらっしゃいませ」

ドアの方を向くと、そこにはハンチング帽をかぶった男の人が立っていました。
青白くやつれた顔に、申し訳なさそうな表情を浮かべたその人は、どこか……アレクサンドロさんに似ていました。

「え……」

見間違いや気のせいじゃありません。
何度まばたきをしても、その人の顔立ちはやっぱりアレクサンドロさんに似ていました。
この人は一体……? アレクサンドロさんの身内なのでしょうか?
見ているとアレクサンドロさんを思い出して落ち着かない気持ちになるのに、私は目をそらせずにいました。

「あの」

男の人は苦しそうにかすれた声を上げると、ハンチング帽を取りました。
アレクサンドロさんと同じ髪の色には、白髪がたくさん混じっていました。

「俺の兄が、大変な迷惑をかけました! すいませんでした!」

男の人は大きな声でそう言い、深々と頭を下げました。
弟……アレクサンドロさんの弟!?
私は息をするのも忘れて、その顔を見つめました。

「こうなると知っていたら、もう外出なんかさせなかったのに。本当に、申し訳ないことを……」

頭を上げた後の彼の顔からは、申し訳ないという表情だけではなく、面倒ごとに疲れている気配も感じられました。

「あの日、仕事場の奴に話を聞いて、慌てて病院まで走りました。何せ『女の子に手を出そうとしたらしい』なんて、仕事場の奴が言うもんだから……目の前が真っ暗になって」
「ばっかみたい! 本当に人の噂って、あてにならないわね」

吐き捨てるようにおばさんが言うと、弟さんは目を丸くしました。

「手を出そうとしたなんて、そんなのでたらめよ。あのねえ、あなたのお兄さんは、うちの姪っ子……ジュリーをカフェに誘ってたのよ。出会ってから毎日ね」

弟さんが私の顔を見つめてきました。
衝撃を食らったような、そんな表情を浮かべて。

「でも、根負けしたこの子がいざカフェに行ってあげたら、どういうわけかすっぽかされたの。で、どうも別のジュリーさんと混同されていたらしいってことはわかったんだけど……」
「ジュリー……君も、ジュリーっていうのか……?」
「は、はい」

私がぎこちなくうなずくと、弟さんの顔がくもりました。

「あなた、ジュリーという人に心当たりはある?」

おばさんが尋ねると、弟さんは「……あります」と辛そうに答えました。

「その人は、兄にとっては忘れがたい人です」

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