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zoom RSS Dear ジュリー 4

<<   作成日時 : 2013/11/30 20:05   >>

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私は、おばさんに全ての事情を話しました。
アレクサンドロさんとお店の前で話すようになっていたことも、会う度にカフェに行こうと言われていたことも、全て。
話を聞いたおばさんは「女の子を待ちぼうけさせるなんて!」とアレクサンドロさんのことを怒りました。

「でも、からかわれたのを私が真に受けただけかも……」

そう、実はよく見れば冗談だとわかる話だったのに、私が見抜けなかっただけなのかもしれませんから。
私がそう言うと、おばさんは「だとしたらますます許せないわよ!」と怒りの炎を燃やしました。

「今度そいつが来たら、とっちめてやるわ! 年頃の女の子をからかった罪は、重いんだから!」

明くる朝、おばさんはしばらく仕事を休んでも良いと言ってくれました。
きっと、昨日のことで私が参っていると思ったのでしょう。

「大丈夫です、私、平気ですから」

私はつとめていつも通りの声で言い、ほうきをつかんで外に出ました。
お世話になっている身の上で休むなんて申し訳ないし、それに……確かめなくちゃいけないことがあったから。

ただ、決意はしたものの、いつも通りの仕事ぶりというわけにはいきません。
何となく元気が出ずため息ばかりついてしまい、掃除はいつもよりずっと時間がかかりました。
そうしてようやくごみを集め終えた頃……後ろの方から、靴音が近付いてきました。
ああ、これはアレクサンドロさんの靴音。
私は思わず、ほうきを両手で握りしめました。
振り向くのは正直、怖いです。
彼が一体どんな顔をしているかと想像すると、このままお店に戻ってしまいたい気がします。
でも……いつもみたいに会いに来たということは、少なくとも悪意があってあんなことをしたわけではないのでしょう。
そう思うと、私の心はほんの少し軽くなりました。

さあ、昨日のことを彼に確かめなくちゃ。
カフェに来なかった理由を。

私は唇をきゅっと引き結びました。

「ジュリー」

私が振り返る前に、アレクサンドロさんが声をかけてきました。
私は、あれ、と内心首を傾げました。
アレクサンドロさんの声は、本当にいつも通りの、罪悪感も何もないものだったのです。

「ジュリー、明日カフェに行かないかい」

私は振り返り――しばらく、アレクサンドロさんの顔を見つめました。
アレクサンドロさんの顔に浮かぶ表情は、声の通り、本当にいつも通りのものでした。
申し訳なさそうな雰囲気なんて、かけらほどもありません。
からかったわけではないとしても、人を待ちぼうけさせたのだから少しは罪悪感があるでしょうに。

「アレクサンドロさん」

私は彼の顔をまっすぐに見上げました。
アレクサンドロさんは微笑を浮かべて、じっと見つめ返してきました。

「私、昨日、カフェに行きました」
「え……」
「カフェに行ったんです。でもアレクサンドロさんはまだ来てないっていうから、その後ずっと、お店が終わる時間までいたんです。昨日、どうして来れなかったのか教えてください」

その時、お店のドアが勢い良く開きました。

「あなたね? 昨日、うちの姪にひどい仕打ちをした男は!」

中から飛び出してきたおばさんが、アレクサンドロさんに詰め寄りました。

「よくもまあ、のこのこ顔を出せたもんね! どういうことなのか説明してもらいましょうか!? 言ってごらんなさいよ、許してあげるかどうかは別として、聞いてあげるから!」

おばさんはものすごい剣幕で怒鳴りながら、アレクサンドロさんの胸倉をつかんで揺さぶります。

「まさか、からかったのをジュリーが間に受けただけだ、なんて言うんじゃないでしょうね……っ!」
「お、おばさん、落ち着いて」
「ジュリー、あんたは引っこんでなさい!」

でも、放っておいたらおばさん、アレクサンドロさんに手を上げそうなんだもの……。
私はおろおろしながら、おばさんのエプロンのひもをつかんでいました。

「ジュリー?」

揺さぶられるままだったアレクサンドロさんが、不意にかすれた声を上げました。
その顔は、恐ろしいほど無表情でした。

「ジュリーのおばさん? 違う、ジュリーにはおばさんなんか、いない」

おばさんに胸倉を掴まれた状態で、ぶつぶつと呟いています。
なんだか様子が変です。
私はおばさんと顔を見合わせました。

「違う、違う、違う! ジュリーは死んでない! あいつは死んでない、生きてる! 生きてるんだよ!」

突然、アレクサンドロさんが大声を上げました。

「ジュリー、嫌だ、死なないでくれジュリー! うあわああああ!!」
「な……何よ、一体」

おばさんが青ざめながら、アレクサンドロさんを離しました。
アレクサンドロさんはしりもちをつき、その姿勢のまま、震えていました。

「ジュリー……どうして、どうして……」

騒ぎを聞きつけてきたのでしょう、人が集まってきました。
でも皆、この光景に異様さを感じているらしく、遠巻きに見ているだけでした。

「おい、一体どうしたんだ」

声をかけてきたのは、配達の途中で通りかかったらしい配達屋さんでした。
荷物を載せた自転車にまたがったまま、こちらを見ています。

「わ、わからないわよ。いきなり騒ぎ出して……」

おばさんが困りきった顔で両手を広げます。

「そうか。とりあえず警察……いいや、医者かな」

配達屋さんはちらりとアレクサンドロさんを見ると、「とにかく呼んでくらあ」と自転車をこいで行きました。
アレクサンドロさんは、もう騒いではいませんでした。
でも、その目は虚ろで、目の前にある物全てを見ていない風でした。

「……あんたは店に戻ってなさい」

おばさんが、私の背中をそっと押しました。

「でも」
「いいから。ここは大人に任せなさい。そうね……今日は臨時休業にしましょ。お店のカーテン、閉めといてちょうだい」
「は、はい」

もう一度背中を押されて、私はお店に戻りました。
お店の窓のカーテンを閉めて……その途端、涙がこぼれました。

アレクサンドロさんは、何度も「ジュリー」と言いました。
でもその「ジュリー」は、私のことではないのです。
おそらく……彼は、名前が同じ別の誰かを、私に重ねていたのではないでしょうか。
ということは、アレクサンドロさんが毎日「カフェに行こう」と言っていた理由は。

私は、カーテンに顔を押し付けました。
無性に胸が痛くて痛くて、涙が止まりませんでした。

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