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zoom RSS Dear ジュリー 2

<<   作成日時 : 2013/11/16 13:37   >>

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次の日、私は悩みながらお店の手伝いをしました。
朝の掃除の時にアレクサンドロさんが来たら、もう一度「行けない」と言うつもりでいたのですが、今日に限って彼が来なかったのです。
私はアレクサンドロさんの住所を知りません。
こうなっては、どうにか都合をつけて行くか、完全に無視を決め込んで一日を終えるかの、どちらかです。
でも、おばさんに向かって「カフェに行くので手伝いを休ませて下さい」とは言いにく、アレクサンドロさんが待っていると思うと無視なんて残酷な仕打ちもできません。
どちらを選ぶべきか、私はお店が開いてからもずっと悩みました。
お店の柱時計を見るたび、アレクサンドロさんの「カフェで待っている」という言葉がちらついて、胸が苦しくなりました。

そうした私の態度に、おばさんは何かしら感じたのでしょう。

「ジュリー、ちょっとおいで」

開店直後の忙しさが引いた頃、おばさんがお店の奥に私を呼びました。

「あなた、何だか様子がおかしいわよ。一体どうしたの? 具合でも悪いの?」

私はしばらく、もじもじとうつむいていました。
正直に全てを話したら、おばさんはどんな顔をするのでしょう。何を言うでしょう。
そう考えるとちょっと怖いような、恥ずかしいような気がしました。

「話してくれないのね……私のこと、信用できない、かな」

寂しそうなおばさんの言葉に、私は驚きました。
引き取ってもらって、育ててもらって、お店の仕事を教えてもらって……こんなにお世話になっている人を信じていないなんて、そんなことは絶対にありません。

「ち、違います! その……」

私は、ぐっとお腹に力をこめました。
勇気を出さなくては。
たとえどんな態度を取られるとしても、信用していると証明するためには正直に明かすしかありません。

「私、実は昨日、男の人にカフェで待ってるからって言われて……」

緊張のあまり、私の声はかすれて震えていました。
おばさんは、「は」と息を吐いたっきり、何も言いませんでした。
もしかして、怒っているのでしょうか?
おそるおそる顔を上げてみると、おばさんは目を真ん丸くして口をぽかんと開けていました。

「それで、今、その人がカフェで待ってるんだって思うと、ええと、落ち着かなくて……」

話しているうちに、だんだん自分でも何が何だかわからなくなってきて、私は着ているシャツのボタンをいじくりました。

「その人は会った時からずっとカフェに行かないかって言って来て、でも私はお店の手伝いがあるからって断ってて、なのに昨日、もう二十回目だから答えてくれないかって、いつなら良いんだって言われて……」
「わかった!」

その時、おばさんが私の両肩に手を載せてきました。

「ようするに、デートに誘われたってことね!」

デート。
その三文字の言葉に、私は真っ赤になりました。
デートというのは、男の人と女の人が二人っきりで会ったり、どこかへ出かけたりすることです。
でもこれはデートなんかじゃなくて、待ってるからと言われただけで、そもそもアレクサンドロさんに対する私の気持ちは……どうなのでしょう?

「デ、デートじゃなくて、カフェで待ってるって言われただけですっ」
「でも、相手は男で、二人っきりで会うんでしょう? やっぱりデートよそれは」

おばさんは目をキラキラさせて、興奮気味でした。

「いやー、そうかそうか、デートに誘われたのか。さすが私の姪っ子! 十五にして男からデートを申し込まれるとはね」

だ、だからそんなんじゃ……。
私はなんとかして否定したかったのですが、顔がどんどん真っ赤になっていくばかりで、ちっとも声が出ませんでした。

「ま、こっちの都合を聞かないあたりはちょっと強引だけど……あなたは大人しい子だから、引っ張ってくれる人が良いのかもね」

だ、だから、そんなんじゃ……。
妙にうれしそうなおばさんを前に、私はひたすらおろおろするばかりでした。
それにしても、こんなにうれしそうなおばさんを見るのは久しぶりです。
お客さんと話をしている時にもおばさんは笑っていますが、その時の笑顔は作り物という感じで、本当に笑っている風ではありませんから。

「よし、店の手伝いはここまでで良いから、今から着替えてカフェに行きなさい」
「ええっ、でも!」
「相手は待ってるんでしょ? 待たせ続けて悪いなって思ってるんでしょ?」
「それはそうですけど……」
「じゃ、行くべきよ。どうでもいい相手なら、どれだけ待たせてても平気なんだから」

そう言うと、おばさんは小走りにカウンターの中に入り、後ろの棚をがさごそと物色し始めました。

「初デートなんだから、あんまり遅くならないようにしなさい。それから、近いうちにお店に連れて来ること。どんな奴が私の甥になるか、見てやらなくっちゃ」

おばさんは後ろの棚から小さな箱を出してきました。
それは、色とりどりのリボンが入った箱でした。
プレゼントにつける物とは違う、髪を飾るための柔らかいリボンです。

「記念にリボンをあげるわ。髪に結んで行くと良いわよ。そうね……赤なんか似合うんじゃないかしら?」

おばさんは赤いリボンを取り出すと、私の髪に当てました。

「うん、赤の方がずっと映えるわ。これにしましょ。さ、着替え着替え。ついに、よそ行きのワンピースの出番ね」

大はしゃぎするおばさんに背中を押されて、私は自分の部屋へと入りました。
私の持っている服は大半がおばさんからのお下がりですが、よそ行きのワンピースだけは違います。
ふんわりしたスカートの、水色のワンピース。
十五歳になった記念にと、街の仕立て屋さんに作ってもらった物なのです。
「こういう物が、そのうち必要になるから」と。
寸法を測ってもらい、二人でああでもないこうでもないと言いながら布やデザインを選んで……あの時も、おばさんは大はしゃぎしていたっけ。

さっきまでのゆううつですっきりしない気持ちは、もう消えていました。
何だか頭がふわふわして、くすぐったいような感じがして――幸せな気持ちでした。

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