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zoom RSS 明け方の戯れ言

<<   作成日時 : 2013/11/02 23:47   >>

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ふ、と目が覚めた。
薄暗い中で見回すと、自分が何だか見覚えの無い道にいることに気付いた。
この空の色からすると、今の時間は明け方ってところか。
一体何があって俺はここにいるんだか……ああ、そういや、一人で飲みにいった覚えがあるな。
酔っ払って帰り道で寝ちまったのか。
はてさてここは家から見てどの辺りだろう。
確認しようと思って起き上がってみると、俺のそばに、ぼんやりした奴が立っていた。
見た目としてはまあ、気弱そうなくたびれた五十代手前のサラリーマンだ。

だが、異常なのはその体全体の色だ。
全体的にぼわーっと、青白く光っている。
普通の人間は、青白く光ったりしない。
ってことはコイツ、人間じゃないってことだろうか。

「いやあ、やっと見つけましたよ。すみません、探し出すのが遅くなってしまいまして」

叫ぼうと思ったら、先手を打って幽霊が頭を下げた。

「ええと……私、見てのとおり、普通の人間じゃありません。四日前に死にました。幽霊ってやつです」

見りゃわかる。
その幽霊がなんで俺のそばにいるんだ。

「実は私、死んだものの、どうにもあきらめられない思い残したことがありまして」

幽霊いわく。
自分は気弱で仕事もできない駄目な男で、奥さんに愛想をつかされ離婚したのだという。
子供は奥さんの方に引き取られ、その後一度も会っていない。
だからあの世に行く間に、別れた奥さんと子供に一目会いたかったのだという。

言っておくが、俺はこのおっさんとも、その別れた奥さんや子供にも、まーったく面識なんぞ、ない。
なのに、なんでおっさんが俺の前に現れたのかというと。

「うちの女房も子供も、霊感なんかありませんから。この姿じゃ話もできないんです。それで……」

おっさんは、酔っ払って道端で寝ていた俺に取り憑いて勝手に体を使った、というのだ。
選んだ基準は「何となく、取り憑きやすそうだから」だそうな。
奥さんと子供は、知らない男がいきなり現れて「お父さんだよ」なんてことになったわけだから、さぞびっくりしたことだろう。
おっさんの方だって、信じてもらうのに苦労したに違いない。

「おかげさまで、二人に会うことができました。本当なら、体をお借りする前に許可をもらうべきなんですが、何せ焦っておりましたので……」
「あー……まあ、別にいいっすよ」

俺は目をこすった。
寝ている間に勝手に自分の体を使われたのは不快だが、まあ過ぎたことだ。
もう思い残すことはないだろう。すみやかに成仏していただきたい。

「んじゃこの辺で成仏してもらえます? 俺寝たいんで」

俺はとりあえず両手を合わせておいた。
早く家に帰ろう。帰って風呂入って、もうちょっとだけ布団で寝よう。
明日……というかもう今日だろうか、とにかく仕事に行かねばならんのだ。

「あの、それで……」

おっさんが、申し訳なさそうにうつむいた。

「家から出た途端、帰り道、ここへ戻る道道がわからなくなりまして」
「あ?」
「うろうろさまよっていたら、トラックがこう、ぐわーっとこっちに向かってきまして」

ぐわーっ、の部分でおっさんが腕を広げて前のめりの姿勢になった。
トラックのつもりらしい。

「……はあ」
「そのトラック、居眠り運転だったんです。ろくに休めないような、ひどいシフトを組まされていたとかで。きっと、シフトを断ると仕事がもらえないって思ったんでしょうね。不景気って辛いですよね」

何が言いたいんだ。
妙に長々と話し始めたのでにらみつけると、おっさんは視線をさまよわせた。
明らかに動揺しているというか、うろたえているというか、何かを隠しているというか、そんな感じだ。
そして、しばしの沈黙の末。
意を決した、といわんばかりの顔で、おっさんが口を開いた。

「その〜……トラックに轢かれて、ぐっちゃぐちゃになっちゃったんです、あなたの体」

……何?

「すみません、本当に申し訳ないことを……」

それ、すみませんで済む話じゃないだろう!

「人の体勝手に借りといて何やってんだよおい!」
「いえその……本当に申し訳ありません」
「きゅ、救急車、救急車呼んでくれえええ!」
「あ、それは必要ないですよ。ここ病院ですから」
「じゃあ手術だ、早く手術ぅ!」
「ええと、手術はしないんじゃないかと」
「何でだよ!」
「ぐっちゃぐちゃになった後、病院に運ばれたんですけど、あなた、ほぼ即死だったそうですから……」

そく、し?

「はあああ!? んじゃ何だよ、俺もう死んでるっていうのか!?」

ああっ、よく見たら俺の体もおっさんと同じように青白く光ってるじゃねえか!
死んでるって本当の話なのかよ、冗談じゃねえぞっ。

「……すみません」
「おいこら本当にふざけんなよ! 冗談じゃねえぞ、責任取れよコラ!!」

俺はおっさんんの胸ぐらをつかんだ。
ああ、視界に映る俺の手は青白く光ってるだけじゃなく、若干透けてるし……。

「そ、それはもちろん。責任は私にありますので」
「じゃあ今すぐ生き返らせろ!」
「それは……できないそうです」

……ショックだ。
怒りが急にしぼんで、代わりに果てない空しさがこみ上げてくる。
幽霊に勝手に体を使われた挙句死ぬなんて、そんな人生の終わり方あっていいのか? なあ。

「あなたがお亡くなりになったのは、私のせいですから……せめて責任を持ってあの世にお連れしようと。故人の過失で亡くなった場合、死なせた側が証言することで優先的に天国へ行けるそうですので」

天国に行けそうなのが唯一の救いっぽいが、はあ……俺の人生って一体。

「……あ」

おっさんが不意に小さく声を漏らす。

「あの世へ行く前に会いたい人だとか伝言しておきたいこととか、やりたいことって何かあります? 突然のことですし、悔いが残ってはいけませんからね。協力しますよ」

会いたい人は別にいないな。
伝言も特にないな。仕事は誰かがどうにかしてくれるだろう。
そもそもこんな状況で、冷静にやりたいことを思いつく奴なんかいるのか?
だいいち俺、もう死んでるんだぞ。全部無意味じゃないのか?

「そう言われても、もう俺死んじゃってるんだから意味なんかねえだろ。俺ってもう、霊感ない奴には見えないんだろ? 物を触ったりもできないんだろ?」
「その辺は私と同じようにすれば、大丈夫ですよ。人の体を借りれば、現世に干渉できます」
「酔っ払って道端で寝ちゃってる奴に取り憑けってことか? でも、酔っ払いに取り憑くとゲロ吐いて苦しみそうだしな……」
「いいえ、誰にでも取り憑くことはできるんですよ。とにかく寝ている人なら大丈夫なんです」

そうか、寝ている奴なら誰の体であっても取り憑いて自分の好き勝手に動かせるってことか。
ふーん……。

「俺、絶対にやってみたいこと一つだけあるわ」
「そうですか! じゃあ心残りがないようにしないといけませんね。今から取り憑く方法をお教えします」

俺はおっさんの説明に熱心に耳を傾けた。
そりゃ、大事なことだからな。

相手がどんな奴でも、とにかく寝ていれば取り憑けるってんなら……若くてキレイなお姉さんの体に取り憑けば、触り放題じゃないか!
ふへへへ。

「……というわけです。まあ、相性の問題もありますから、駄目な時はさっさと別の相手を探した方が早いですよ」
「おうっ、じゃあ行ってくるぜっ」
「私はここで待ってますけど……日の出まで戻ってこなかったら、強制的にあの世へ連れて行きますからね」
「はいよー」

かくして俺は、熟睡している若くてキレイなお姉さんを求めて真夜中過ぎの街へと繰り出した。
不純だろうが何だろうが、それが俺のやりたいことだ。死ぬ前にどうしてもやっておきたいことだ。
この、人生最後にやってきた大きなチャンスを活かさないでどうする。

ちなみに。
今が朝の五時半過ぎで、実は日の出まで一時間もないことを知るのは……二十分ぐらい後のことだった。

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