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zoom RSS 虫の神様を助けた私

<<   作成日時 : 2013/10/26 17:05   >>

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前略、田舎の実家にいるお父さん、お母さん。
私、虫の神様を助けました。
……どう見てもゴキブリの親戚みたいな昆虫の被り物をした女なんですが、本人がそう言い張るのでそうしておきます。
ヘタに突っ込み入れてしつこく絡まれても嫌なんで。

「いやあ、本当に助かりました。もうどうすれば良いか途方に暮れちゃって。ここ、誰も通りがからないし」

虫の神様とやらが人の良さそうな笑顔で私にぺこぺこしている。
どっからどう見ても、その辺にいそうなごく普通のお嬢さんだ。強いて分類するならおっとり系かな。
格好がものすごくアレだけど。

「別に感謝されるほどのことじゃ……」

そうだ。
だってこの人は夜の公園で数匹の野良猫に襲われていただけで、言うほどのピンチじゃなかった……と思う。
そこへたまたま仕事帰りに近道した私が通りがかり、野良猫達が驚いて逃げたから解放されただけのことなのだ。
私は本当になーんにもしてない。声すら出してもいない。

「まあ無事でよかったですね、じゃあ私これで。野良猫には気をつけて」

何にせよあんまり係わり合いになりたくない相手だ。
私はそそくさとその場を離れようとした。

「まあまあ、そう言わず。何かお礼をさせて下さい」

げっ。腕つかまれた!

「いえ結構です」
「そんなこと言わずに」
「いえいえお気持ちだけで充分です」
「感謝の気持ちをぜひ形にして伝えたいんです」
「目に見えないものを大事にする主義なんで」
「目に見えないものが形になるのって素晴らしいって思いません?」

しーつーこーいーなー。
私、さっきからうんざりした顔してるはずなんだけど、伝わってないのかな。

「じゃあもう、数あまたの虫達のうち、一つの種族をあなたの配下にします! それを感謝の気持ちとして受け取って下さい!」

何言ってんの、あんた。

「チョウチョでもハエでもしゃくとり虫でも、何でも良いですよ。さあ、おっしゃって下さい」

虫の神様とやらが、キラキラした目でぐいぐい近寄ってくる。
あー、もう面倒くさいっ。付き合ってやるか。
何か適当に言って逃げようっと。
えーとえーと、何か適当な虫の名前、虫の名前……。

「じゃあ……カツオブシムシ」

……私も何を言ってるんだ。
それって洋服につく虫の名前じゃないか。
なんでこんなややこしげな名前が口から出てくるんだ。
もっとこう、シンプルにチョウチョとかてんとう虫とかあるだろうに。
あれだ、昼休みに職場で防虫剤の話なんかたせいだ、きっと。

「わっかりました! あなたは今からカツオブシムシ一族の支配者です!」

いやだー、そんなものの支配者なんてなりたくなーい!
って、落ち着け私。
そもそもこれは適当に言って逃げようとしただけなんだから、真に受けることはないんだ。
頭のおかしな女の言い分なんか、現実になんてなりっこないんだから。

そうやって自分に言い聞かせている間に、いつの間にか虫の神様とやらはいなくなっていた。
……ま、いいや。頭のおかしな人のことなんか忘れてしまおう。
帰ろう帰ろう。さーて今日の晩御飯何にしようかな。
冷蔵庫には確か、豚肉とピーマンともやしがあったから、あれで肉野菜炒めでも……。
そう考えながら公園を通り抜けて道に出た時、どんっと前から何かがぶつかってきた。

「いってえなクソが!」

ぶつかってきたものの正体は、若いお兄さんだった。

「ご、ごめんなさい」

しおらしく謝ったけど、若いお兄さんは私をにらみ、「チッ」と舌打ちして去っていった。
……何よ、こっちが一方的に悪いみたいな態度取っちゃって。
だいたい、そっちの方が強くぶつかってきたじゃないのよ。
ムカムカムカムカ。
あんにゃろう、何か災難に見舞われろ。タンスの角に足の小指をぶつけるぐらいのレベルで。

「うわああっ、な、何だこれ!」

さっきのお兄さんの悲鳴が聞こえた。
何だろうと思って顔を向けると、お兄さんの着ている服がみるみるうちに穴だらけになっていくところだった。
開いた穴はどんどん大きくなって、布地が、布地の面積が大変なことに……。
このままじゃマズイ。お兄さんが公衆の面前で全裸になってしまう。
でも、一体どうしてこんな怪奇現象がっ!?

「キャー!」
「やだ、ヘンタイ!」

通りがかった二人組の女の子が悲鳴を上げてる。
その悲鳴を聞きつけてか、やたら色んなところから人が集まり始めた。
中にはケータイだかスマホだかを取り出して「もしもし」なんて通報している人まで……。
若いお兄さんはあたふたオロオロしまくって、手で色々隠したりしてたけど、結局わけのわからない声を上げて逃げて行った。

今後、誰かに腹を立てるたびに相手の服が消滅するという怪奇現象が続くことを、この時の私は知らなかった。

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