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zoom RSS カルネ村にて 28

<<   作成日時 : 2013/09/14 20:34   >>

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「あれ、は……」

カレンの腕の中で、リーザが目を見開いている。

「クララさん……ですよね?」

震える声で呟き、リーザが強くしがみついてくる。
カレンは無言のまま、小さくうなずいた。
美しい少女が、同じぐらいの大きさのカマキリに似た化け物に変貌してしまう――こんな異常な事態を目の当たりにして、何を言えば良いのかわからなかった。
カレンもリーザも、すっかり怯えきって固まるばかりだ。

「なんだ、ただのでかいカマキリじゃねえか。ぶっ潰してやる!」

ただ一人、ギールだけは違った。
傷だらけになった体をクララの頭上高くまで長く伸ばし、一気に急降下する。
さながら金槌が釘を打ちつけるがごとく。

クララが、その鎌のような腕を横一線に凪いだ。
ギールの体が二つに切れ、ずどう、と土煙と共に地に落ちる。
断面から噴き出した大量の体液が、辺り一帯に吐き気をもよおすような悪臭を漂わせる。
カレンは思わず「うっ」とうめいて顔をしかめた。

これで全て、終わったのだろうか。

カレンはしばらく息をひそめ、様子をうかがった。
クララは見る間にまた少女の姿に戻り、先ほど遺髪を食らっていた虫達の元へと向かう。
そして、スカートのすそをつまみ、ぱさぱさと振っている。
村長の家から逃げる時にしていたのと、同じ動きだった。
見る間に虫達は苦しみだし、柔らかい体をねじるようにしてもがきながら、体液を吐き出して動かなくなっていった。

「リーザ……リーザよぉ……」

ギールは体を切り離されながらも、まだ生きていた。
弱々しくリーザの名を呼び、力なく腕を伸ばして地面をかいている。

「ギール、さ、ん」

リーザがカレンから手を離し、ギールの元へと一歩踏み出す。

「や、やめなよ。危ないよ」

しかし、止めるカレンの言葉も聞かず、リーザはおぼつかない足取りでギールに近づいていく。

(もうっ! 何かあったらどうするのよ!)

カレンはきょろきょろと見回し、シャベルを手に取った。
何かあった場合、丸腰ではまずいと思ったからだ。

その時、ひしゅん、と何かがカレンの頬を叩いた。
触手だ。
切り離されたギールの上半分の体に残っていた細い触手が一本、カレンを叩いたのだ。

「痛っ!」

弱りきりながらも攻撃をするとは、なんてしぶとい奴なのだろう。
カレンは頬を押さえ、ギールを睨んだ。

だがそれは、カレンを狙ったものではなかった。

「え……」

頬を押さえるカレンの前で、はらり、とリーザの顔の左半分を覆っていた布が落ちる。
途端、何かがでろりと彼女の顔半分を覆うようにして垂れ下がった。
リーザの顔の左目部分、本来なら眼球が収まるべきくぼみから、それは垂れ下がっていた。
その垂れ下がった物体は、白いぶよぶよとした体に黒い線が入った――村に来てからすっかり見慣れた、ある生き物の特徴をそなえていた。

『一つだけ約束して下さい。私の体のことを詮索しない、って』
リーザの言葉がよみがえる。
それが何を意味していたのか、カレンは理解した。

「ひ……い……っ、いやあああっっ!!」

リーザが悲鳴を上げ、両手で必死に顔を、垂れ下がった虫の体を隠そうとする。
だが虫の体は隠し切れない大きさで、両手を使ってもまだこぼれていた。

「見ないでぇ!! お願い、見ないで下さいっ、嫌っ、いやあああ!」

リーザはうずくまり、悲痛な声で泣きわめく。完全に錯乱状態だ。
顔を隠した手からこぼれた虫が、辺りの様子をうかがうようにして頭をもたげる。
どうやら虫は、リーザの意思とは無関係に、独立して生きているらしい。

「お前だけ平穏無事な人生なんて送らせるかよ……ほら、よく見てもらえよ、これがお前の顔だってなあ……ハハ、ハハハ、ヒャーアハハハッ……!!」

ギールが楽しそうに笑っている。
この世にこれ以上楽しいことなどないと言わんばかりの、笑い方だ。
――不快な声だった。

(こいつ……っ!!)

カレンの頭に血が上る。
八十年前の事件で冤罪で殺された被害者だとか、父親の仇であるとか、そんなことは頭に浮かばない。
理由や事情など、もうどうでも良い。
こいつは最低な男だ。
一人の少女を傷つけ、あまつさえ隠したがっている部分をさらしものにしてあざ笑うなどと、あまりに陰湿だ。
この歪んだ性格が生来のものか、それとも事件後に形成されたものなのかという点に興味はない。
そんなことは関係ない。今こいつが誰に何をしているか、それが全てだ。
許してはいけない。このまま、緩慢に死を迎えさせてはいけない。
ただその純真な怒りが、カレンを動かした。

カレンはなおも笑い続けるギールに猛然と駆け寄ると、顔面めがけてシャベルを思い切り振り上げた。
シャベルの面は偶然にも、平面ではなく垂直に立っていた。

「最っ低!!」

カレンは、シャベルを渾身の力で振り下ろした。
鈍い音と共に、固い物を殴りつけた衝撃が手を伝わってくる。
それっきり、不快な笑い声は聞こえなくなった。

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