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zoom RSS カルネ村にて 21

<<   作成日時 : 2013/07/27 14:12   >>

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開けた袋の中には、紙にくるまれた細長い物体が一つあるだけだった。
カレンはその紙を指で広げ、中にあるものをのぞいて見た。

「ひっ!?」

驚いて袋ごと取り落とす。
中身は、人間のものと思われる白髪の束だった。

「な、何これ!」

気持ち悪い、とカレンが腕を引っ込めて顔を引きつらせていると、リーザが袋を拾い上げ、中身を見た。

「……人間の髪の毛ですね」
「何でそんな物がこんなところに!?」
「さあ……散髪したものを、袋に入れて壁にかけておく習慣があるのかも知れませんが」

(なんて嫌な習慣!)

カレンが思わず身震いしていると、

「ん?」

リーザが袋に手を入れ、しばらくまさぐった末に一枚の色あせた紙切れを取り出した。
その紙切れを見つめ、リーザが顔をしかめる。

「かすれてますけど、何か書いてありますよ」
「え、どれどれ」

カレンは顔を寄せ、紙切れを観察した。
紙が色あせている上にインクがかすれて消えかかっていて非常に読みにくいが、確かに文字が書かれている。

「ええと、私……の、髪、を……カル、ネ……村の、墓、地……に、埋め、て……くだ……さい……?」

消えかかったインクの字をたどって読み上げる。

「……故人の形見、ということですね」

リーザが小さくうなずいている。
これはただの髪の毛ではなく、遺髪ということだ。

「おそらく、この村ゆかりの方の物でしょう」
「そういえば、この家の旦那さんが村の出身だって聞いたけど、関係あるのかな?」
「村に戻ると聞いて、誰かが託したのかもしれませんね」

カレンはリーザの手に下げられた袋を見つめた。
墓に埋めてくれというのは遺言なのだろう。
しかし村に起きた異常でそれがかなわぬまま、今まで放置されていたのだ。

「……待って」

袋の口を閉じ、元通り壁にかけようとするリーザを、カレンは止めた。

「遺言、かなえてあげようよ」
「ええ? 埋めてあげようって言うんですか?」
「だって、どっちみち墓場に行くんだし……」

カレンを見るリーザの目は、「そんなことをする暇があると思うのか」と言いたげである。
確かに、今はそれどころではない。
村全体を覆う異常。おそらく墓場とて安全ではない。
だが。

「こんな所に置きっぱなしなんて、したくないよ」

視界がじわりとにじむのを感じて、カレンはうつむいた。
脳裏をよぎるのは、納屋に寝かせている父親の亡き骸だ。
放っておきたくないのに、この状況ではどうしてあげることもできない。それが心苦しくてたまらない。
そこへ「墓地へ埋めてくれ」という遺言のついた遺髪の発見である。
なんだか他人事とは思えず、放っておくことなどできなかった。

「……じゃあ、シャベルがいりますね」

ため息混じりにリーザがつぶやくのを聞いて、カレンは顔を上げた。

「その代わり、シャベルはあなたが持って行って下さいよ」
「ありがとう!」

リーザから遺髪の入った袋を受け取り、カレンは大事にそれを肩掛けカバンにしまった。

「じゃ、シャベル探してくるね」
「在り処がわかるんですか?」
「最初にこの家に入った時、台所で見たような気がするの」

おぼろげな記憶の中に、確それらしい物があったような覚えがある。
かまどの掃除用なのか、近くの壁にそれらしい物が立てかけてあったような気がするのだ。
かまどにかかっていた鍋の中身の記憶が強烈過ぎて、詳しく思い出せないが。

まあ、そこに無ければまた探すだけのことだ。
カレンは台所に続くドアを開けた。

「あれ」

カレンは瞬きをした。
寝室のベッドに寝かせていたはずのクララの姿があったからである。
クララはこちらに背中を向け、かまどに向かって何やらもそもそやっている。

「具合良くなったの? 起きてて大丈夫?」

声をかけてみるが、返事は無い。
ただし、途切れ途切れに荒く息をする音が聞こえる。
やはり具合が悪いのだろうか。
その体調不良を押してまで、一体何をしているのだろう。

「一体何をやって……」

カレンは後ろから、ひょいと覗き込んだ。

(え……)

自分の目を疑う、とはまさにこのことだった。
カレンは、自分の見たものをすぐに理解することができなかった。

クララは、虫の湧いた鍋の中身をむさぼるように口にしていた。
白く細長い指先でかきこむようにして、口に運んでいるのだ。
当然指先も口元も、腐った内容物とそれに湧いた虫にまみれている。
今のクララはまるで、飢えた人間が久々に食事にありついたかのようだった。

視界が一気に下へと落ちる。
どさ、という音。お尻に感じた痛み。
そこへ来て、カレンはようやく自分が腰を抜かしたことを知った。
足に力が入らず、がくがくと震えているのがわかる。

「クラ、ラ」

あえぐように声を上げると、ようやくクララがこちらに顔を向けた。
明確な表情の浮かばぬ青白い顔。
呼吸の荒さとは裏腹に、黒い瞳は生気を失っていた。

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