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zoom RSS カルネ村にて 19

<<   作成日時 : 2013/07/13 15:59   >>

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村長の家を出ると、庭のあちらこちらで幼虫が体をくねらせながらこちらを目指しているのが見えた。
動きこそのろいが、集団でうねうねと動く様は不気味だ。

(気色悪い……)

見ていると、なんだか口の中に酸っぱいものがこみ上げてくるような気がする。
カレンは口元を押さえ、顔を背けた。

「どうしよう。あいつらを追い払わなきゃ逃げられないよ」

あの幼虫どもがいる中を進むとなれば、踏んづけていかねばならない。
一匹二匹というならまだしも、群れとなっているものを踏み越えていくのは大変だ。
何より途中で体を這い上がってきたら、と思うとぞっとする。

「あれぐらいの数なら、なんとかなるわ」

クララがそう言い、おもむろに己のワンピースのスカートのひざ部分をつまんだ。
何をするのかと思って見ていると、彼女はスカートをぱさぱさと振り始めた。
まるでスカートについた砂でも払うかのような仕草である。

すると、幼虫達にすぐさま異変が起きた。
クララの近くにいた幼虫達が苦しげに体をくねらせ、やがて体を一直線に強張らせると次々に口から半透明な液体を吐き出して動かなくなったのだ。
その様はまさしくのた打ち回るようで、胸のむかつくような光景だった。
正視できず目をそらしたカレンは、クララのスカートのすそから白っぽい粉が出ているのを見た。
その粉はよく目をこらさなければわからない程度の濃さで、あたり一面に広がっていた。
それを浴びると幼虫は苦しみ出すのである。
それは、あらかた幼虫達が動かなくなるまで続けられた。

「さ、今のうちに行きましょう」

スカートから手を離し、クララが言う。
声が弱弱しい。顔から血の気が失せていて、具合が悪そうだ。

「あの……大丈夫?」

おずおずと声をかけてみると、

「ちょっとふらつくだけよ。大人しくしていれば、そのうち回復するわ」

そう言ってクララがカレンの腕にからみつき、頭を鎖骨のあたりに押し付けてきた。
カレンは驚き、身を硬くした。
だが、それは少し前のような理由のわからない恐怖や恐れを含まぬ、純粋な驚きだった。
ただし驚いたせいで、抱きかけていた疑問は全て吹っ飛んでしまった。
その粉は一体何なのか、どうしてそんな物を持っているのか、何故スカートを振ると出てくるのか……そんな疑問が。

「一人で歩けそうにないの。しばらく支えてくれないかしら」
「う、うん」

花のような良い香りが鼻先をくすぐって、カレンはどぎまぎした。

(お、落ち着かなきゃ。次やることを考えようっ)

目下のところ気になるのは、ここから一体どこへ行けば良いのか、というところである。
村長の家の敷地から離れるのは確定事項だが、そこから先の取るべき行動が全く思いつかない。
村の外へは出られないというが、だからといってこのまま村に留まるわけにもいかない。

「これからどうしよう」

取りあえず村長の家から離れながら、カレンは誰ともなく呟いた。
その後ろをリーザがついて来る。
一方に肩掛けカバン、もう一方に引っ付く人という状態は歩きにくいことこの上ない。
しかしクララの顔色を見ると「やっぱり離れて」とは言い出せず、カレンは幼虫がいようといまいとおかまいなしに歩を進めた。
足元で「ぶちゅり」だの「にゅるり」だのといった嫌な音がするたび、気分が萎える。
本当は踏まずに歩きたかったが、そんなことを言っていられる状況ではない。
絶対に足元を見ないよう、カレンは必死にあごを上げて歩いた。

「カレン、墓場へ行きましょう」

もう少しで村長の家の敷地から出る、というところで、カレンの肩に頭を押し付けたまま、クララが言った。
そのくすぐったさに、カレンは変な声が出そうになった。

「ど、どうして?」
「ギールとかいう男の死体を確認しようと思うの」
「……信じていないんですね、私の話」

後ろからリーザの声が刺さる。

(う……)

たちまち冷ややかな空気が流れ出し、カレンは口を一文字に結んだ。
口論になったらどうしよう、と内心びくびくしながら、そうっと二人の様子をうかがう。

「信憑性は高いと思うわ」

クララが小さくため息をつく。

「だけど、証言や日記だけではなく、もっと直接的な証拠を確かめない限り疑いの余地が残ってしまうのよ。悪く思わないでね」
「それで死体を、ですか」
「墓場のすみの穴に落としたっていう死体が無ければ、いよいよもってあなたの話が本当ってことでしょう」

リーザが黙り込む。
カレンはリーザの表情を盗み見た。
さぞ怒っているだろうと思ったが、彼女の表情は予想に反して明らかな変化を見せていなかった。
そのリーザの顔の、布で覆われた左側部分に違和感を覚えてカレンはじっと見つめた。
――何かのふくらみが布を押し上げている。
布越しではあるが、丸みを帯びた柔らかそうなふくらみだということはうかがえた。
顔がはれ上がっているのだろうか。いやそれにしては不自然なはれ具合ではないか。
そもそもそれ程はれていたら、痛くて痛くてたまらないはずだが。

「……何か?」

あまりにまじまじと見ていたためだろう、リーザが片目でにらみつけ、布をつかんでふくらみをごまかす。
犯人のことを教える代わりにつきつけられた、体のことを詮索しないという条件は今でも有効のようだ。

「何でもない。ごめん」

目をそらし、カレンは呟く。
ごめんと言ったのは、じろじろ見たことに対する詫びのつもりだった。
詮索するなというものに好奇の目を向けられれば、決して良い気にはならないだろうから。
冷ややかな空気が、今は気まずいものに変わっていた。

「……墓場へ行くっていうんなら、鍵が必要ですね」

リーザが家の方へと振り向きかける。
そう言われてカレンは、墓場の入り口に鍵がかかっていたことを思い出した。

「その鍵ってどこにあるの?」
「わかりません。でも、家にあるなら探せば見つかるんじゃないでしょうか」
「探しに行っている間に、また新手がやって来るわよ」

クララが眉をしかめる。
具合が悪いせいなのか、機嫌が悪いのか、あるいは両方か、カレンにはわからなかった。

「でも、鍵がないと入れないんじゃ……」
「壊せば済むことでしょう」
「壊すって、あのね」
「とにかく今戻るのはやめて。助けられないから」

言い終えると、クララが完全にカレンにもたれかかってきた。
クララは浅い息を繰り返しており、なんだかぐったりしている。
……助けられないというのは本当のようだ。

「行くしかないみたいね」
「……ええ」

カレンはもたれかかるクララに四苦八苦しながら、墓場へ向かうこととなった。

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