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zoom RSS カルネ村にて 15

<<   作成日時 : 2013/06/15 12:45   >>

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その後、カレンが泣き止むまで、クララはずっとそばにいてくれた。
何も言わずカレンの背中をゆっくりとさすり、こちらが泣き止むのをひたすら待ってくれたのだ。
泣いている時に誰かがそばにいると、落ち着くのも早いものだ。
おかげで、カレンはどうにかしゃくり上げずに呼吸が出来るようになった。

「……もう、大丈夫、だから」

ようやくまともに話せるようになると、カレンはぐいっと目元をぬぐって立ち上がった。
その言葉は、自分に言い聞かせているようなものだ。
とてもじゃないが、今の気分は平気などとは程遠い。ほんの少し何かあっただけで、また簡単に泣いてしまうだろう。
だがいつまでも泣いていられない。自分は生きていて、色々とやらなければならないことがあるのだから。
言うなれば、傷口にうっすらとかさぶたができただけのような、そんな状態だった。

「さっきの話の続き、しても良いかしら?」

クララの言葉に、カレンは首を横に振った。

「……もう少し、後にして。私、やることがあるから」

カレンは父親の亡き骸に近寄り、ひざをついた。
父親の口から垂れ下がった幼虫の体が、嫌でも目に付く。
正直なところ、見たくもなければ触りたくもないものだ。
だが、たとえ死骸であれ憎たらしい幼虫をいつまでも父親の体内に残しておきたくない。徹底して追い出してしまいたかった。
その一心で、カレンは幼虫の残骸をつかみ、引き抜きにかかった。
ぬらぬらとした液体にまみれた体はつかみにくく、おまけに柔らかいため力の加減がうまくいかない。
それでもぐいぐいと引っ張っていると、ぶちっという音と共に幼虫の体が途中でちぎれてしまった。

それを見て、カレンは無性に悲しくなった。
幼虫の体は父親ののどの奥深い位置で切れたらしく、口の中をのぞきこんでも断片が見当たらない。
これでは、忌々しくけがらわしい存在を、父親の体から完全に取り除いてやれない。

「う……っう、う……」

そう思うと、引っこめた涙が再びこみ上げてくる。

「カレン……」

ふっと視界に影が差したと思ったら、赤いコートを脱いだクララが父親の口に手を突っこむところだった。
カレンはその時になって、クララのワンピースに袖がないことを知った。
クララは手どころか肘のあたりまで血で濡らしながら、父親ののどの奥を探る。
やがて、クララはその手をゆっくりと引き戻した。
その手には、幼虫の体の残り部分がしっかりと掴まれていた。

「……ありがとう……」

何せ、こちらは一言発するだけでも泣きそうなのだ。
カレンは礼を言ったつもりだったが、決して明瞭な発音ではなかった。

「気にしないで」

クララがそう言ったことから、一応はそう聞こえたようだが。

「これ……使って……」

ハンカチを差し出すと、クララはきょとんとこちらを見つめ返した。

「いいの? これだけの血を拭いたら、もう使い物にならないわよ?」
「いい……お父さんから虫を出してくれたんだもん、ハンカチぐらい、どうだって……」
「そう……」

クララがハンカチを受け取った後、カレンは肩掛けカバンの中を漁り、大判のガーゼを取り出した。
父親の顔を拭いてやるためだ。
大事な人の亡き骸を、血や幼虫の体液で汚れたままにしておきたくなかった。
ハンカチは一枚きりしか持ってきておらず、それもたった今クララに差し出したため、綺麗な布といったらこれしかない。
カレンはガーゼで父親の顔をきれいにすると、その亡き骸をできるだけそっと寝かせた。
座りこんだままの――おそらくは苦しみぬいて死んだ時の姿勢のままにしておくのは、忍びなかったのだ。
無論、死んだ人間は、その体をどう扱われようと知るよしもない。これは生きている側の気持ちの問題である。
できることならベッドに運んでやりたいところだが、あいにく父親の体は大柄で、カレンの力では持ち上げられない。

(ごめんなさい、後でちゃんとするから)

目を閉じ、心の中で父親に詫びる。

「もう、いいかしら?」
「うん……」

カレンはうなずき、いまだ内心にこもる「延々泣き続けていたい」という欲求をはねのけた。

「村長の家に戻りましょう。あそこに、説明に必要な物があるから」

クララはそう言い残すと、くるりと背を向けて去ってしまった。
それに続いて立ち去る間際、床に落ちた幼虫の残骸が目に付いた。
こいつが、お父さんを――そう思うとはらわたが煮えくり返る。

カレンは怒りの衝動のままに、幼虫の残骸を力いっぱい踏みつけた。
透明な液体を垂れ流し、中身を失った残骸が床にへばりつく。

(お父さんをこんな風にした奴が、どこかにいるんだ)

犯人がわかったら、絶対に探し出して仇を取ってやる。
カレンはそう決意していた。

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