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zoom RSS カルネ村にて 8

<<   作成日時 : 2013/04/27 21:51   >>

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カルネ村の入り口には、ロープと木でできた橋がかかっている。
その下を深くて流れの速い川が流れていて、橋ができる前は向こう岸まで渡されたロープを頼りに歩いて川を越えたという。
冬の間と雨で増水した時は川に入らないのが鉄則だったが、急病人を医者の元へ運ぶ時などのやむを得ない事情がある場合は死の危険を侵して川を越えた。
そうして幾人もの命が落とされた末に、ついに村人が金を出し合って橋を作るに至ったのだ。
もしも、村がもっと大規模で人の行き来も多ければ、頑丈な石造りの橋にしようという意見も出ただろう。
だが、あと十数年もすれば消えてしまうだろうという村は、現状維持、という無難な運営方針を長年維持しているのだった。

「着いたよ。この橋が、カルネ村の入り口」

その橋の前までやって来たところで、カレンはクララにそう伝えた。

(補修は……終わってるのかな)

カレンは橋をざっと観察し、推測する。
橋の構造に詳しくないカレンでも、橋に敷かれた板が新しくなっていることぐらいはわかる。
想像だが、おそらくそこは橋の中で一番最後に修繕するところではないだろうか。

橋の補修が終わったのなら、仕事はもうないはずだ。
なのに帰ってこないなどと、父親は一体どこで何をしているのだろう。
もしや別の稼ぎ先を見つけて、そこへ向かったとか。

(まさか、ねえ)

家族にも言わずになんてことはないと思うが……一年も連絡をよこさなかったこともある人間のすることだ、あり得ないとは言いきれまい。
もっともそれは、カレンが生まれる前のことだが。

(お父さん……)

もう少しまめに連絡してくれてもいいのに、とカレンは思った。

「まあ、小さな村なのね」

クララは興味津々といった様子で、橋の向こうにある村を見つめる。

(近い近い近い!)

カレンは内心慌てた。
ただでさえ手をつないでいて近い位置にいるというのに、クララはさらに身を寄せてきたのである。
今の二人の間には、ほとんどすき間がない。
くっついていると言った方が正しいかもしれなかった。
クララの髪がふわりと風になびき、花のような香りとともにカレンの頬をくすぐる。

「そのうちなくなっちゃうかも、って言ってたぐらいだから」

カレンは何気ないふうを装って、そっと後ろに引いて距離を開けた。
内心警戒している相手だというのに、こんなに近寄られたら、心臓がどうにかなってしまう。
現に今、カレンの心臓は忙しなく動いていた。

隣にいるクララを、ちらりと見る。
ここまで、本当に手をつないで来てしまった。
緊張して浅い呼吸を繰り返し、変な汗をかきながらの、普段の倍以上にも感じられた道のりだった。
これでもとっとと解放されたくて、可能な限り早歩きしたつもりだ。

とにかくこれで「道案内」という役目は果たした。
あとは野となれ山となれ、カレンの関知するところではない。
早く手を離してくれないかな、とカレンはつないでいる手を軽く振った。

「そう、ここが……」

なのに、クララはこちらの意図には全く気付いていない様子で、向こう側をじっと見ている。
何を見るかは本人の勝手だが、それなら手を離してから思う存分やって欲しいとカレンは思った。

「あのさ、手……」

気付いて欲しくて口に出してみると、

「え?」

何のことだ、と言わんばかりにクララがきょとんとした顔をする。

「手、いつまでつなぐのかな、って」

つないだ手を少しばかり上に上げ、「そろそろ離して」とアピールしてみる。

「…………」

すると、クララは何も言わず、カレンをじっと見つめてきた。

(……何よ)

こちらの発言に何ら問題はない。
つまり堂々としていていいはず、とカレンは見つめ返した。
手をつないだのは、あくまでも案内に支障が出るからで、そもそもつないできたのはクララだ。
道案内という役目を終えた以上、手をつなぐ必要はもうないのである。

(ほら、やっぱり私、間違ってない)

確信したその時、クララがとても悲しげな顔をした。

(え)

「……嫌なの?」

やがて、ぽつりとクララの唇からもれた、かすかな声。
涙声に聞こえたのは、気のせいだろうか。

「わたし、あなたとお友達になれるかもって思って……」

消え入りそうな声に、胸がずきりと痛んだ。

(って、なんで私が悪いことしたみたいな気持ちになるのよ!)

間違ったことはしていない、と自分に言い聞かせてみるものの、効果は薄い。

「カレンは、わたしのこと、嫌い?」

なんとも答えづらいことを尋ねられ、カレンは「う」と小さくうめいて悩んだ。
恐ろしいと思うのは、本当だ。まったくの真意だ。
だが、嫌いなのかと言われたらよくわからない。
少なくとも、見た目だけなら嫌悪の感情は抱かない。
ただ、それを「好いている」とは絶対言わないわけで、と考えると、頭がごちゃごちゃしてくる。

「……わかんない」

カレンは、深刻に悩んだ表情を浮かべて首を振った。
怖いから、とは言い出せなかった。
今目の前で悲しげにしている相手を、さらに突き落とす言葉を口にするのはためらわれたのだ。
本当に嫌いなら、嫌い抜いているなら平気で口に出せるはずの言葉を。
単にカレンの良心の問題だったのかもしれないが。

「なら、時間をかけて仲良くなれば、お友達になれるのね」

クララの表情が、ぱっと明るくなった。

(何言ってんのよ、もうお別れでしょ?)

カレンは内心首をひねった。
案内役はもう終わったのだから、これ以上一緒にいる理由はないのだ。
それなのに、時間をかけて、とは。

(村にいる間も一緒にいようね、ってことかな?)

だが、それだって長い時間ではないのだ。
カレンは父親を探し出したらすぐに家に戻るつもりなのだから。
それなのに妙な言い方をする子だ、とカレンは結論付けた。

「行きましょう。カレンのお父さんを探さなくちゃ」
「あ、ちょっと」

結局手を離してもらえないまま、カレンはクララに手を引かれて橋を渡った。

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