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zoom RSS カルネ村にて 5

<<   作成日時 : 2013/04/06 13:11   >>

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「ほら起きな。いつまで寝てるんだいこの子ったら」

次にカレンが目を覚ましたのは、母親の呆れた声と共に布団をはぎ取られた後のことだった。
時刻は朝。
明るい日差しに包まれた世界は、まるでこの世が希望に満ちあふれているかのような印象を与える。

「あの子はとっくに起きてるよ。早く起きて支度しな。昨日、案内してくれって頼まれただろ」
「やだ、行かない」

カレンは奪われた布団をつかみ、引き戻そうとした。
夜中に見たものが頭をよぎる。
淡い月明かりの下で、美しい少女が土からミミズを引きずり出して口に入れる――とんでもない悪趣味な光景だ。
思い出すだけで悪寒が走る。

父親のことは心配だが、クララと一緒というのは嫌だ。
得体の知れない相手と道中一緒なんて、こっちの神経が持ちそうにない。

「行かないって、そういうわけにはいかないだろ。そんな無責任なこと許さないからね」
「一人で行ってもらってよ。村まではほとんど一本道だし、迷いっこないよ。大丈夫だよ」

そう言ってぐいぐいと布団を引っ張っていたのだが。

「……まさか、どこか具合でも悪いのかい?」

カレンは母親の言葉に、ぱっと布団を手放した。

(その手があった!)

「具合が悪い」……行きたくないから行かないと言うより、ずっと説得力のある台詞である。
問題は信じてもらえるかどうかだが。

「う、お母さん、実は私、さっきから何だか頭が痛くて、起きるのもつらいの」

カレンはベッドに力なく寝転がり、縮こまってううう、と小さくうめいてみせた。
風邪を引いて苦しんだ時のことを思い出しながらの、演技である。

「何だって?」
「この調子で道案内なんかしたら、途中で倒れちゃうかも……うう」

目をしょぼつかせながら、母親を見上げる。
確か、こんな感じだったなと思い出しながら。

「どれ、熱があるかみてやろう」

母親の言葉に、カレンはぎくりとした。
そんなことをしたら、ばれてしまう。
あいにく、仮病で都合よく熱を出せるほどの器用さは持ち合わせていないのだ。
だからといって上手い言い訳も思いつかず、そうこうしているうちに、母親の手がカレンの額に押し当てられた。
当然ながら熱などあるはずもなく、むしろ母親の手の方が温かいほどだった。

「……熱はないみたいだね。いつもと違うベッドで寝たから、調子が狂ってるんだろ」

母親はカレンの頭を軽くなで、手を引っ込めた。
仮病だと気付いている様子は無い。

「起きて何か食べりゃ、そのうち収まるさ。ほら、早く着替えておいで。スープが冷めちまうよ」

母親はベッドに布団を戻し、こちらに背を向けて部屋のドアへ向かう。
その背中をぼんやり見つめながら、カレンはふと考えた。

(お母さん、夜中に起こされたこと覚えてるのかな)

覚えているなら、クララのことを多少なりとも警戒するはずだ。
しかし、母親にそんなそぶりは見られない。
そもそもあの時の母親は完全に寝ぼけていた。
となると……。
カレンは確かめてみることにした。

「お母さん、あの、私が夜中に言ったこと、覚えてる?」

母親の足が止まる。

「……夜? 何かあったかねえ」

母親が視線を上に向け、考え込む。

「ほら、夜中にお母さんを起こしたじゃない」
「そうだったかねえ。何もなかったような気がするけど」

母親は本当に覚えていないようだ。

(寝ぼけてたもんな、お母さん)

あの時の眼差しを思い出し、無理もないなとカレンは思った。

「それで、夜中に何かあったのかい?」

カレンは身を起こし、表情を引き締めた。
夜中にクララがミミズを食べていた、という奇怪な話。
寝ぼけていたあの時とは違い、起きていて意識の明確な今なら、信じてもらえるだろうか。

「あの、ね」

緊張に震える唇を開き、浅く息を吸う。

「もしもし」

その時、ノックと共にクララの声がした。
何というタイミングだろう。
カレンはぎょっとして、口をつぐんだ。

「ああ、あんたかい。先に食べてて良いって言ったのに」
「いいえ。泊めて頂いた分際で、家人より先に食事だなんていけませんわ」
「お堅いねえ」
「それで、娘さんは? もしかして体調が優れず起きられないのでは……」

(……もしかして、話、聞いてたんじゃ?)

タイミングの良い登場に、カレンはそこを疑った。
どこから聞いていたかは不明だが、昨夜のことを話題にされそうになったので割り込んだのでは、と。

「ああ、何てことないよ。心配してくれてありがとね」
「何でもないなら幸いですわ」

ドア越しにひとしきり話をし、母親がこちらを見る。

「それで、何だって?」

カレンは困惑した。
ドア一枚隔てて話題の人物がいるというこの状況で、一体何が言えるだろう。

「何でもない。 大した話じゃないから」

カレンはゆるく首を振り、話をごまかした。
それ以外に何と言えばいいのか、さっぱりわからなかった。

「そうかい。ならいいけど」

母親が部屋のドアを開ける。
開いたドアの向こうには、静かに微笑むクララがたたずんでいた。

「それじゃ、早く着替えておいでよ」

母親はそう言い残すと、ドアを開けて出て行ってしまった。
ドアが閉まる直前、微笑を浮かべるクララの、温和そうに細められた目がすうっと開くのをカレンは見た。

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