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zoom RSS カルネ村にて 4

<<   作成日時 : 2013/03/30 16:33   >>

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冷えた空気の感触に、カレンは目を覚ました。
窓から差し込む淡い月明かり。夜の静寂に虫の鳴き声が響いている。

(なんで目が覚めたんだろ……?)

いつもは一度眠ったら朝までずっと眠れるのだが。
カレンは寝ぼけまなこで頭をかいた。
トイレに行きたくなったわけでもないのに目が覚めると、何となく損をした気分である。
とりあえずもう一度寝ようとした時、間近に母親の寝顔が見えて、カレンはあれっと思った。

(あ、そうだ。あの子がいるからこっちのベッドで寝たんだっけ)

すぐに昨日のことを思い出し、あくびを一つ。
隣で寝ている母親は口を開けたまま、静かな寝息を立てている。

(あーあ、口渇いちゃうよ)

この状態だと、目覚めた時に口の中や舌が乾いてざらざらになる。
だが、他人がどうしてやることもできないのもまた事実。
試しにあごを持ち上げて口を閉じさせてみたが、すぐに元通りになってしまった。

カレンは再びベッドに横になった。
早めに起きようとは思っていたが、明け近くではちょっと早すぎる。
もう一度寝直そうと寝返りを打つが、妙に目が冴えて寝付けない。
いつもと違う環境で落ち着かないのだろうか。
それならば、とカレンは今日これからのことを考えることにした。

(うーん……明日は起きたら朝食済ませて支度して、村に行って……帰ってきたら部屋に荷物戻さないと……)

やっぱり寝付けない。
カレンはあきらめ、身を起こした。
気晴らしに、木いちごで作ったシロップでも飲むとしよう。
確か、台所の床下の収納に入れてあったはずだ。
あくびをしつつ台所へ向かったカレンは、玄関のドアが少しだけ開いていることに気付いた。

(ゆうべ、ちゃんと閉めて寝たはずなのに)

カレンは首をかしげた。
家の窓も玄関のドアも、全てきっちり鍵をかけてから寝るのがこの家の決まりごとである。
一旦鍵をかけてしまったら、内側からしか開けられない。
ということは、夜中に誰かが外へ出たことになる。
カレンは何気なく、細く開いたドアのすき間から外を見た。
すると、月明かりを浴びてしゃがみ込んでいるクララの後ろ姿が見えた。

(何やってんだろ。具合でも悪いのかな?)

声をかけようと、カレンはドアのノブに手をかけ――クララの手先が動いたことに気付いた。
よく見ると、クララは足元の石をひっくり返し、露わになった地面を見つめているではないか。
具合が悪いわけではないようだが……そうなると今度は「何をしているのか」という疑問がわいてくる。

(眠れないのかな)

そう思って見ていると、クララはおもむろに地面に指を突っ込み、そこから何かをつまみ上げた。
つるりとした細長いそれは、地面から離れる間際に抵抗するかのように伸び、ぐにょぐにょと動いた。
動きといい形といい見慣れたそれは、ミミズだった。
クララは土中のミミズを掘り出しているのだ。変な暇つぶしである。

(……寝直そう)

具合が悪いわけじゃなさそうだし、とカレンがきびすを返そうとした時、クララがその手を口元へ近付けた。
ほじくり出したミミズを持ったままの手を。

(何、してるの……?)

クララのあごがゆっくりと上下に動き、手が下ろされる。
下ろされた手にミミズはない。
その一連の動きは、手づかみで何かを食べる時の人の動きそのものだった。

ということは……。

想像し、気色悪さに思わずうめき声が漏れたその時、急にクララがこちらに顔を向けた。
鼓動が一気に跳ね上がる。
カレンは慌てて扉に張り付き、身を隠した。
激しく脈打つ鼓動を聞きながら、カレンは息をひそめてじっとしていた。
頭にあるのは、気付かれたかもしれないという恐怖、それのみ。

夜明けにミミズをほじくって食べるなどと、まともな人間のすることではない。
もしかしたら、見てしまった人間に危害を加えるかもしれない。
気付かれてはまずい。何も確かなことなどないが、気付かれることはきっと、良い事態を招かない。
そう思うと、カレンは震えが止まらなかった。

(まともじゃない、絶対あの子、まともじゃない!)

しばらく待ったが、こちらに人が来る気配はなかった。
再びドアの隙間からのぞいてみると、クララはミミズをほじくる作業に戻っている。

(どうしよう……)

カレンは足音を立てないよう、細心の注意を払って母親の眠るベッドへと歩いた。
母親に知らせなければ。
頭にあるのはその一念だった。
自分一人ではどうすればいいかなんてわからないが、母親だったらきっと、どうすればいいか一緒に考えてくれる、と。

「お母さん、お母さん」

必死に声を殺しながら、寝ている母親を揺さぶる。

「ん……なんだい……」

顔をしかめた母親が、寝ぼけた声を上げる。

「ミミズ」
「えぇ……?」
「あの子、変だよ。まともじゃないよ。私見たの。あの子、ミミズ食べてた……!」

カレンは母親の目を見て、懸命に訴えた。
母親の目は、完全に寝ぼけていて焦点も定まっていない。

「……この世のどこに、ミミズを食う奴がいるんだい……夢でも、見たんだろ……」

あくびまじりの母親の声。
おまけに、ごろりとこちらに背中を向けてしまった。

「ちょっと、お母さんっ」

ほどなく、すうすうと寝息が聞こえてきた。
もう一度揺り起こそうかと手を伸ばしかけて、カレンは引っこめた。
こっちは真剣だったのに、話したことを否定されたのだ。
確かに、ミミズを食べる人間の存在など、すぐさま信じられるものではない。

だが……。

(もう、いいや)

カレンはベッドの中へ入ると、頭からすっぽりと布団をかぶって目をつぶった。

気晴らししようなんて起きなければ良かった。
起きなければ、あんなものを見ずに済んだのだ。

次から次へと、後悔が波のように押し寄せてくる。

カレンはもぞもぞと母親側に寄り、その寝巻きの背中の布地をつかんだ。
母親の体温を帯びた布は温かく、とても柔らかかった。
その感触に、じんわりと涙がにじむ。

……眠気はいつの間にか、カレンを包み込んでいた。

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