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zoom RSS カルネ村にて 2

<<   作成日時 : 2013/03/16 20:12   >>

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母親は、その美しい少女の申し出をあっさり了承した。

「こんな可愛らしいお嬢さんを、夜中に外へ放り出しておけるもんかね。遠慮はいらないよ」
「ありがとうございます」
「だけど、玄関で寝かせるなんてできないよ。ベッドなら一つ空けるから、それを使いな」

母親の言葉に、カレンは首をかしげた。

「どこのベッドを空けるのよ?」
「決まってるだろ。あんたのベッドだよ」

当然だろう、という顔をして母親が言い放つ。

「えっ、じゃあ私、今晩どこで寝るのよ」
「あたしと一緒でかまわないだろ。一人分空いてるんだから」

確かに、母親が使っているベッドは夫婦で寝るサイズなのでスペース的には申し分ない。
母親と久しぶりに一緒に眠るのだって、悪くは無い。
だが。

(今日、シーツと枕カバー取り替えたばっかりなのに)

それを思うと、カレンはちょっとだけ惜しい気持ちになる。
洗い立てのシーツや枕カバーのぱりっとした感触は、何物にも代えがたい心地よさなのだ。
何気ない日々の中での、ちょっとした楽しみである。

(……ま、いっかあ)

カレンは小さく鼻を鳴らし、あきらめをつけた。
どうしても譲れないというわけではないし、あの感触を味わう機会はまた巡ってくるだろう。

「本当にいいの?」

少女に見つめられ、カレンはぎこちなくうなずいた。
そのぎこちなさは、自分のベッドを使われる不満から来るものではない。
出会った瞬間から抱いている、根拠の無い恐怖心からだ。
嫌悪感などという生ぬるいものではない。

「なんだいこの子ったら。人見知りなんかして」

母親が苦笑いとともに、カレンの背中を軽く押してきた。

「人見知りなんかしてないっ」

カレンはむっとして言い返した。
これは人見知りではなく、警戒に近いのだ。
それを何て言い草だ、とカレンは内心ふくれた。

「シーツは取り替えたばっかりなんだけど、固いのはどうしようもないからね。我慢しておくれ」
「そんな、我慢だなんて。ありがたく使わせていただきますわ」

少女はカレンの母親に対し、微笑みながらていねいな口調で話している。

(あ、お母さんには礼儀正しくするんだ)

カレンは先ほど対面した時のことを思い出した。
声こそ静かで穏やかだったが、初対面の相手に対してあちらが目上であるかのような口調だった。
決して「こっちが(たぶん)年上なんだから敬え」とか「礼儀正しくしろ」というわけではないが、やや引っかかる。
年相応ではないという気がした。

「これから夕食なんだけど、良かったらあんたも一緒にどうだい?」
「まあ、よろしいんですの?」
「いいとも。ま、大したもんはないけどね」
「じゃあ、お言葉に甘えて、少しだけご馳走になりますわ」
「そんな堅苦しくならなくたっていいよ、さ、座って座って」

(……ひどい猫かぶりだったら、どうしよう)

母親にいすを勧められている少女を見ながら、カレンは妙なことを心配し始めた。
もしかしたら、自分は何か嫌な予感めいたものを感じていて、それで少女を警戒しているのかもしれない。

(で、でも一晩泊まるだけなんだし、明日まで近寄らないようにしてればきっと大丈夫よね)

ふっとよぎった自分の考えに、カレンは全力で同意した。
そうだ。どうせ明日にはお別れする相手なのだから――そう思ってかまえていれば良い、と。

「ほらカレン、ぼさっとしてないで、部屋を片付けておいで」

物思いにふけっていたカレンは、母親に肩を叩かれて我に返った。

「なっ! 私、そんなに部屋散らかしてないっ」

カレンのふくれっ面、再び。
すると母親はカレンにそっと耳打ちしてきた。

「見られたくない物がないってんなら、良いけど」
「あ」

そういうことか、とようやく納得する。
下着は部屋のタンスに入れてあるが、確かに客人が泊まるところに置いておきたくない。
……漁りはしないと思うが、心情的な問題である。

「ついでに、寝巻きのお古があるなら出しておきなよ。お嬢さんにはそれを着て寝てもらうから」
「はいよー」
「返事は『はい』だろ」
「はーい」
「まったく、この子ったら」

母親の呆れた声を背に、カレンはとっとと部屋に向かう。

「……仲がよろしいんですのね」
「まあ、仲が悪けりゃとっくにどっちか家を出てるだろうね」
「うらやましいですわ。わたしの家族は」

カレンはちょうどその辺りで自分の部屋のドアを閉めたため、その先を聞けなかった。

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