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zoom RSS カルネ村にて プロローグ

<<   作成日時 : 2013/03/03 11:08   >>

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カルネ村のはずれにある絞首台に、男が立たされた。
涙と鼻水が乾いて張り付き、殴られて出来たらしいあざの目立つ、げっそりとした土気色の顔。
唇は乾いてひび割れ、目の下に青黒いくまが浮いている。
それでもまだ抵抗する気力は萎えていないと見え、男は肩まで伸びた金色の髪を振り乱し、後ろ手に縛られた手を解こうともがいていた。

「ギール。ハンナを暴行、殺害した罪で縛り首とする」

絞首台のそばに立った上等な身なりの初老の男が宣告を下す。
目の部分に穴を開けた袋をかぶった処刑人が、彼の首に吊りひもを回し、結び目をつくる。

かくて、彼の運命は決した。
あと一歩踏み出した位置にある落とし戸の上に立てば、それで全て終わるのだ。
否応なしに。

殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
集まっていた野次馬から次々と声が上がる。
中には子供も混じっているが、親とおぼしき人間は遠ざけることも帰るようさとすこともない。
この残酷な見せ物には、悪い事をした人間はこうなるのだ、という見せしめの意味もあるからだ。

「人殺し! ハンナを返せ!」
「首吊りぐらいじゃ済まさないよ! あんたが死んだら、腹をかっさばいてやる!」

最前列で、ひときわ大声を上げている年老いた夫婦がいた。
男――ギールをにらむ目は憎悪に燃え、責め立てる声は悲痛さを伴っている。

「違う、俺は殺してない! 俺は何もしてない、無実なんだ!」

ギールはつばを飛ばし、夫婦に向かってわめき散らした。
夫婦に負けないぐらいの悲痛な表情と、切羽詰った声だった。

「俺は本当に何もやってない! ハンナには会ったけど、話をしてすぐ帰ったんだ! 神に誓ったっていい!」
「恥知らずめ、神の名までも汚すつもりか!」

ギールめがけて小石が投げられた。
小石はギールの顔に当たり、足元に落ちる。
それを合図としたように、小石が次々と投げつけられた。
ののしる声と石のつぶてが、ギールの体を苛んで行く。

「ええい、うっとうしい。さっさと済ませてしまえ」

先ほどギールの処刑を宣告した初老の男は、両腕で己をかばいながら処刑人に告げた。

「頼む、村長! もう一回調べ直してくれよ、俺は本当に無実なんだ。真犯人がどこかにいるんだ!」

ギールは、当たった石で切れた額から流れる赤い血をそのままに、足元にいる初老の男に向かって叫ぶ。
だが初老の男――村長は、しらけた顔をするばかりだった。

「うるせえ奴だな。村長は全部知ってんだよ」

ギールの背後に回った処刑人が、吊りひもの結び目の具合を確認しながらつぶやいた。
小さな、かすれた声だった。
野次馬の怒号の中、うっかりしていたら聞き逃していたであろう、その程度の声。
おそらく聞かせるつもりはなかっただろう。
しかし、妙に鋭くなっていたギールの聴覚は、その声を拾い上げていた。

「な、に……?」
「……金と権力ってのはな、男と女より強く結ばれちまってるのさ」

処刑人のかぶった袋の穴からのぞく目が、笑っている。
ギールはしばらくあ然とした後、理解した。

村長は真犯人を知っている。そして、真犯人と何らかの取り引きを行ったのだ。
結果、自分は真犯人の代わりに捕まり、処刑されようとしている。
何故自分が選ばれたのだろうと考えると、ギールの目に悔し涙が浮かんだ。
身内も恋人もおらず、畑を耕して細々と生きている自分が一人いなくなったところで困る人間などいない。
犯人としでっち上げても、さほど罪悪感にとらわれずに済むのだろう。

あ然としている間にも、淡々と処刑のしたくは整えられていった。
やがて全てのしたくを済ませた処刑人は、落とし戸の方へとギールの体を押した。

「冗談じゃないっ!」

だがギールは足を踏ん張り、際どい位置でとどまった。

「おい、手間かけさせるんじゃねえっ」

後ろから、処刑人が強い力で押してくる。
ギールは決して前に行くまいと、必死になって抵抗した。

「俺は犯人じゃない! 人殺しじゃない! 村長、あんた犯人を知ってるんだろ、くそっ、お前ら全員呪ってやる、絶対許さ――!」

ギールが最後まで叫び終える前に、その足が落とし戸の上に乗った。

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