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zoom RSS 魔女の住まう森 エピローグ

<<   作成日時 : 2013/02/09 14:39   >>

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とある小さな村で、早朝に火事が起きた。
焼けた家は以前、老人と孫二人の三人が暮らしていたのだが、今は老人が一人で住んでいた。
村人達が消火にあたったものの家は全焼し、老人は無残に焼け焦げた死体となって見つかった。

「いったい、どうしてこんなことに」
「あのじいさん、金にだらしないところがあったからねえ。それでばちが当たったのかもしれないよ」

まだくすぶる焼け跡を前に、村人達はひそひそと噂した。

この一件には奇妙な点があった。
老人の孫娘、メグが現場近くにいたのだ。
老人にとってもう一人の息子であり、彼女にとってはおじにあたる人物の元へ引き取られていたはずの人物が。

メグはまだ幼く、さらに精神的なショックを受けていたようで会話にひどく苦労した。
それでも辛抱強く聞き取りをした結果、次のことが判明した。

メグは兄のピートと共に、引き取られたおじの下でひどい暮らしをしていた。
しかしついに耐えかね、夜中に二人で逃げ出したのだ。
村人達は、彼女が心身ともにひどく傷つけられたことをたちまち悟った。
何せ、「不思議な森に暮らすおばあさん」や「言葉を話すにわとり」が登場する冒険譚を口走るのだから。
そのため、メグの発言はひどい暮らしで心を病んだための妄言、と片付けられた。
おそらく逃げる途中で世話になった老婆がいて、その諸々が彼女にはそう映ったのだ、と。

心を病んだことは哀れに違いないが、それでも村人達には訊かなければならないことがあった。

「それで、ピートはどこへ行ったんだい?」

だが、メグはその質問に一切答えなかった。
その話を振られると貝のように口をつぐみ、しまいには泣き出してしまうのだ。
その反応から、ピートが犯人なのではないかと誰もが疑った。
メグはその瞬間を目撃していて、幼いながらも必死に兄をかばっているのだろう、と。
ピートの年齢を考えれば、決して不可能な話ではない。

その後、メグを囲んで村人達は話し合った。
ピートが犯人であれ無実であれ、行方不明なのは事実だから、隣町の役人あたりに届けを出さねばなるまい。
残る問題は、メグである。
今やこの子の身内はおじしかいないが、そこへ送り返すのは忍びない。
村へ置いてやろうにも、引き取れるほど余裕のある家はない。
ならばどこかの孤児院にでも――。

メグには、大人達の話している内容はよくわからなかった。
しかし、自分の存在が大人達を悩ませていることだけは悟った。
居心地の悪さから、メグは大人達の輪から離れて花を眺めていた。

そこへ、一人の女が近寄ってきた。

「メグちゃん」

顔を上げたメグは、目をぱちくりさせた。
逆光の中で見た女の顔は、見知った村の人間のものではない。
その顔は、死んだ母親にそっくりだった。

「あなた、一人なの?」

そう問いかける声までも。
……メグは、小さくうなずいた。
自分を一人ぼっちだと認めるのはとても辛いことで、胸の辺りがずきりと痛む。

「そうなの。それじゃ、私と一緒に来ない?」

メグはまた、こくり、とうなずいた。
自分がいなくなれば大人達は悩まずに済むのだし、何より優しそうな、母親そっくりなこの人と一緒にいたかった。

女は近くにいる大人達に何も言わず、メグの手を取って歩き出す。
お別れするなら、村の人達にあいさつをしないと。
メグは「さよなら」と言おうとしたが、どうしても声が出てこなかった。
大人達はこちらの行動に気付いていない。
まるで何も見えていないかのようだ。
黙って行ってもいいのかと迷っているうちに、メグは女に連れられて村の外へ出てしまった。

「メグちゃん、森で不思議なおばあさんに会ったんだって?」

歩きながら、女が微笑みとともに問いかけてくる。

「うん」
「それはきっとね、魔女っていうのよ」
「まじょ?」

メグは首をかしげる。

「魔女ってね、いろんな魔法が使えるの。魔法で何でもできちゃうのよ」
「なんでも?」
「そう、何でも。たとえば――何かに化けたり、ね」

優しい眼差し。優しい声。あたたかい手。
怖がる要素などどこにもないのに、それでも何かが恐ろしく思えて、メグは女の顔をまじまじと見つめた。
そして、女の顔に母親との違いを見つけた。
どこもかしこも母親そっくりだと思ったが、目の色は違っていたのだ。

女の目は、暗い緑色をしていた。





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