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zoom RSS 魔女の住まう森 13

<<   作成日時 : 2012/11/10 20:29   >>

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不意に、体が自由になった。
ピートは飛び起き、体にまとわりついている枯れ枝を振り払いにかかった。
それは、はた目には「錯乱」と映るような動きだった。

「やめろ……やめろ!! 離せぇえええっ!」

めちゃくちゃに腕を振り回し、叫び、ののしり、わめき……勢いあまって半回転し、ベッドに顔から倒れこむ。
ぼふ、と固いマットレスに鼻をぶつけたところで、ピートは少しばかり落ち着きを取り戻した。
そして、やや冷却した頭で思い至る。

なぜ、急に体の自由がきくようになったのだろう。
率直に考えれば、巻きついていた枯れ枝がなくなったからである。
なら、何故枯れ枝は自分を放したのだろう。
てっきり、あのまま殺されるものとばかりピートは思っていたのに。

(助かった……のかな……?)

ピートは恐る恐る起き上がり、己の体をあらためた。
……体のどこにも、あの枯れ枝は巻きついていない。
部屋のどこかに枯れ枝の残骸が落ちていそうなものだが、床にもベッドにも見当たらない。
あれが現実だったのだと確信させる物は、一切なかった。

(夢……だったのかな……?)

ベッドに突っ伏した姿勢で、深く息を吐く。
まったく、悪夢にもほどがある。
あまりの恐ろしさに、震えが止まらない。
震える腕をさすった瞬間、ピートはぴたりと動きを止めた。
思わず眉をしかめる。
左の二の腕に、出っ張った感触があったのだ
夢の中で枯れ枝がもぐりこみ、骨を折った場所に。

(まさか……)

おそるおそるシャツを脱ぎ、左腕の様子を確かめる。
拳、腕と順繰りに視線でたどっていき、二の腕に到達した途端、ピートは言葉を失った。

二の腕に、何やら赤いあざのようなものが広がっている。
そして、先ほど感じた出っ張りの部分だろう、とがったように盛り上がっている部分を見つけた。
そっと触れてみると、痛みこそないものの、妙に硬い。
虫さされやにきびのような、弾力を持ったふくらみ方ではない。
硬くて細い物が、内側から張り出しているような感じだ。

――震える手を、そっと二の腕から離す。
何がどうなっているのかなんて、ピートにはわからない。
このことが自分にどう影響するのかも、わからない。
だが、一つだけ確信を持って言えることがあった。
あれを「悪い夢」の一言で片付けるわけにはいかない――ということだ。

「おい、大丈夫か、兄弟!」

そこへ、窓の方から慌しい羽音と共にクックの声がした。
見ると窓の木戸は開け放たれていて、ばたつく白い羽がちらちらと見える。

「クック?」

おずおずと窓に近寄ったピートは、クックが窓に上ろうと飛び上がって失敗し、地面に転がる様を見た。

「おおっ、ピート! 無事かっ?」

ピートの姿を見て、クックは慌てて起き上がる。

「どうしたの、クック」
「どうしたもこうしたもあるか! お前の叫び声が聞こえたから、こうして駆けつけてやったんだよ。で、何かあったのか?」
「う、ううん。何ともないよ。ありがとう」

枯れ枝のことや、左の二の腕の異常をどう説明していいかわからず、ピートは弱々しく笑う。
クックはそれを、首をかしげて見つめ返してきた。

「そう言う割に元気ねえな。お前、具合でも悪いのか」
「そんなことないよ……ちょっと、悪い夢を見て……」
「悪い夢だあ?」

クックが、あきれたような声を上げる。

「お前、こき使われてるんだろ。居眠りしてる暇なんてあるのか?」
「おばあさんが、ちょっと時間をくれたんだ。用事ができたら呼ぶから、それまで……」

部屋にいろって言われたんだ――ピートはそう続けようとした。
しかし、その言葉を発する機会は失われた。
なぜなら。

「うふふ……」

そこへ、少女の――おそらくはメグの、楽しげな笑い声が聞こえたためである。
はっとした表情で、ピートは言葉を切り上げて辺りを見回す。
外でまき割りをした後に聞いた時より、遠い位置から聞こえた気がする。
この部屋から遠い位置にある場所。
真っ先に浮かぶのは、台所の食器棚の後ろに隠されたドアだ。
やはり、メグはあのドアの向こうにいるとしか思えない。

「お? お前とばばあ以外に誰かいるのか」

クックが興味しんしんといった風で首を伸ばし、部屋の中をのぞこうとする。
窓の位置は、到底、彼がのぞきこめる高さではないのだが。

「うん、僕の妹。メグっていうんだ」
「へえ。お前、妹と一緒にここへ来たのか。どれ、ちょっくら会わせろよ」

ピートはクックの顔を困った顔でしばらく見つめ、ゆるゆると首を横に振った。

「駄目だよ。会えない」
「はあ? 何でだよ。意地悪なんかしねえぞ」

クックが、むっとした様子で声を上げる。
何か行き違いが生じかけているようだ。

「違うよ。おばあさんが、メグは熱を出してるから、会っちゃいけないって言うんだ。うつったら大変だ、って」
「それならますます会わにゃならんだろ。兄弟分の妹なら、俺の妹も同然だ。見舞いに行くぜ」
「だけど……」

煮え切らないピートを、クックがじとっとした目つきで見上げる。

「お前、妹のこと心配じゃねえのか?」
「心配だよ。決まってるじゃないか」

ピートはすぐさま言い返した。
妹は、今の彼にとって身近にいる唯一の肉親なのだ。
大事に思わないはずがない。
何より、あの苦境を共に耐えて生きた同士でもあるのだから。

「なら、会えばいいだろ」
「でも、病気がうつったら、おばあさんに迷惑がかかっちゃうし……」
「だから、熱出してる妹のことをほったらかすってのかよ? 病気にかかると、心細いんだぜ」

クックの言葉は、ピートの胸を突き刺した。

そうだ。メグは今、熱で苦しんでいるのだ。
時折聞こえる笑い声だって、熱で頭がおかしくなっているせいかもしれないのだ。
それを、うつるからという理由で放っておくなどと。

まだ幼いメグにとって、今、安心して頼れるのは自分しかいないのだ。
その自分が、いつまで経っても会いに来てくれないとなったら、一体どう思うだろう。

(僕、間違ってた。メグはたった一人の妹なのに、大事なはずなのに、本気で心配してなかったんだ)

「……僕」
「ん?」

たとえ、メグの病気がうつって、高熱を出して老婆に迷惑をかけることになろうとも。
勝手な真似をしたと怒りを買い、ねちねちと嫌味を言われることになるとしても。

「僕、メグに会うよ」

後になって、メグを放っておいたことを悔やむよりはずっといい、とピートは考えた。

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