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zoom RSS 魔女の住まう森 10

<<   作成日時 : 2012/10/19 19:56   >>

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「あんたの妹、メグのことだけどね。あの子、まだ熱が下がらないんだよ」

昼食。
ピートの作った大きなオムレツをたいらげながら、老婆はそう言った。
玉子を二つも使用したため、人の顔ほどもあるオムレツだ。

「だから、メグの熱が下がるまでここに置いてやろうと思ってるんだけど」
「え……」

ピートは、何も言葉が出てこなかった。
メグの体調を心配したり、そんなご迷惑はかけられませんと遠慮したり、いろいろと言うことはあるはずなのに、一つも思い浮かばなかったのだ。
おじの家でこき使われていた疲れと、昨日から立て続けに起きている環境の変化のせいかもしれない。

「熱を出してる女の子を放り出すほど、あたしだって非道じゃないさ。あんたにはその間、家のことをさせるつもりだし」
「はあ」
「はあ、じゃないよ。それで良いのか悪いのかぐらい、ちゃんと言いな。自分のことだろ」

あ、とかすかに声を上げ、ピートは意見を問われていたのだと気付いた。
同時に、頭が状況に追いついてくる。

ここで断って、メグと共に老婆の元を去ったとしよう。
故郷の家まではまだ遠く、その間、熱を出している女の子を連れて歩く余裕は無い。
ろくな持ち物もなく、薬を買う金もない状態で、容態が悪化でもしたらことである。
ここは、老婆に頼るしかないだろう。
……しょせん、自分は無力な子供なのだと思い知らされる。
おじの家を逃げ出した後のことなど、何も考えてはいなかったのだ。
それほど追い詰められていた、とも言えるのだが。

「もうしばらく、お世話になります」

ピートは、頭を下げるしかなかった。

「かまいやしないよ。じゃ、後片付けの後は、今朝方寝てた部屋で昼寝でもしてな。用事ができたら呼びつけてやるよ」

老婆はスプーンで皿をひっかき、最後の一口分のオムライスをたいらげた。
ピートはきょとんとした。
こき使ってやると言っていたので、まさか休ませてもらえるとは思っていなかったのだ。
掃除だとか、草むしりだとか、言いつけようと思えば仕事はいくらでもあるはずだ。
それをしないのは、どうしてだろう。
単に面倒なのか、あるいはもしや、気づかってくれているのだろうか。

「あの、メグに会わせてもらえますか」

ピートは控えめに食い下がった。
昼寝できるほど暇があるなら、メグの顔を見たい。
健康な時ならまだしも、熱を出しているという今は、ただひたすら心配である。

先ほど、外で聞いたような気がした女の子の笑い声。
あれがメグのものだとはっきりすれば、少しは安心できるのに。

……結局のところ、メグを気づかいながらも、実はピートが不安を打ち消したいだけなのだ。

「駄目だ。熱が下がるまでは会わせられないね。あんたまで熱を出されちゃ、こっちが看病で手一杯になっちまうよ。それこそ迷惑だ」

迷惑、の単語がピートを怯ませる。
否定され通しな環境にいた者にとって、誰かの重い負担になることは恐怖に等しい。
面と向かってであれ、影でひそひそささやかれるものであれ、一体何を言われるかと思うとぞっとする。
どうせ否定されるならと開き直れる勇気があれば、状況は変わるのだろうが。

「……すみません」

ピートはうつむいた。
ふん、と鼻を鳴らし、老婆は目を閉じる。
やがて聞こえる、規則正しいかすかな寝息。
なんて寝つきのいい人だろう、と思いながら、ピートは後片付けを始めた。
昼食の残りはない。つまり、食べる物はないということである。
真っ青な実を食べておいて正解だった、としみじみ思う。
あれがなかったら、ピートは昼食抜きの憂き目を見るところだったのだから。


――昼食の後片づけをした後、ピートは昨晩あてがわれた部屋のドアを開けた。
ドアを開けて真っ先に目についたのは、ベッドの上に置かれた自分の上着。
脱いだままにしておいたと思ったが、やはり記憶違いではなかったようだ。
どこかにかけておく所はないか、と部屋を見回しながら上着を拾い上げると、かしゃ、と小さな音がした。
ポケットを探ると、小さなマッチの箱が出てくる。
おじの家を出る時にくすねた、使いかけのマッチ。
昨日、老婆の家に連れてこられるまでの間、自分と妹を暖め、照らしていたもの。
全く無駄ではなかったが、何故こんなものをくすねたのだ、と我ながら疑問に思う。

残り少ないことだし、取っておいても仕方が無い。
夕食の支度をする時の炊きつけにでも使ってしまおう、と戻してから、ピートはズボンのポケットに突っ込んだ紙切れのことを思い出した。
おじの家を逃げ出した時、紙切れなんて持っていなかった。
おそらく老婆が落とした物だろう。

(何が書いてあるのかな)

ふと湧いてきた好奇心。
見てみたい。しかし、うっかり見た内容が衝撃的なものだったらどうしよう。
でも、大事なメモだったら老婆に届けなければ。

(確認、確認するだけだから)

ドアを閉め、ピートはベッドに腰かける。
一つ深呼吸をすると、ポケットから紙切れを取り出し、そっと開いた。

そこには、力強い、だが乱雑な筆跡で走り書きがされていた。
読む相手のことを考えていないのか、よほど急いで書いたせいなのは定かでないが、読みづらいことは確かだ。
おまけにあちこちの字がにじんだり、何かの染みで隠れていたりで読みづらさに拍車をかけている。
判別のできる部分の字体を見るに、男性が書いたもののようだ。

(女は……を……って……せる……)

ピートは紙切れを日の光にかざしつつ、一文字一文字、丹念に字を目で追っていく。
どのぐらいそうしていただろう、やがて書かれていた文章が明らかになった。

紙切れを持つ手が震え出す。
そこには、こう書いてあったのだ。

魔女は 炎をもってのみ 滅ぼせる
だが あの魔女は ただの炎では死ななかった
あの魔女は 異界の炎でしか滅びない

 

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
明日は飲み会なんで今日のうちに更新しときます。
ぐああ、飲み会嫌いなのにいいいい
一次会で逃げてこようっと。
鈴藤 由愛
2012/10/19 19:58
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