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zoom RSS 魔女の住まう森 4

<<   作成日時 : 2012/09/08 14:49   >>

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翌朝、ピートはベルのような音を聞いて目を覚ました。
ベルのよう、とは認識できたが、自分の知るそれとはちょっと違う響きである。
一体何の音か、と音のする方に寝返りを打ってみて、ピートはぎょっとした。
いつの間にか窓が開き、そこから植物のつるが入り込んでいて、先に咲いたいくつもの小さな白い花を揺らしているのだ。
ベルのような音は、ぶつかり合う花から発生していた。

「う、うわっ」

ピートは慌てて飛び起き、もつれるようにして部屋を出た。
部屋を出ると、老婆が目を閉じ、安楽椅子に揺られていた。
そのひざにすがりつくようにして、ピートは叫ぶ。

「あ……あのっ、部屋に変なものがっ」

すると、老婆は気だるそうに目を開け、こう言い放った。

「起きたのかい。ならとっとと朝食の仕度をしとくれ。台所は左の部屋だよ」

ピートの発言を全く気にとめていない。
今、確かに異常事態を伝えたはずだが……と、ピートはぽかんと老婆を見つめてしまう。

「それで、ベルみたいな音を立ててた奴のことだけどね。驚くことはないよ。あいつは、ああやって毎朝起こしてくれるのさ。別に取って食いやしないから、安心おし。まあ、いつまでも起きないとぶたれるだろうけど」

悪いものではないようだ――安心しかけて、いやいやと考え直す。

「植物が勝手に動くなんて……」

やはりおかしな話だ。
今までの人生の中で、植物が勝手に動くなんてことは一度もなかったし、そんなものがあるという話も聞いたことがない。

「あたしの森じゃ、こんなことは当たり前さ。いちいち驚いてたらきりがないよ」

それより早く朝食を、と言って、老婆はまた目を閉じる。
仕方なく、ピートは台所へ向かった。
台所には食器棚や、調味料の並ぶ作業用のテーブル、大きなかまどがあり、天井から吊られた干し魚が揺れている。
他に目につくのは、外へ続く扉だ。
窓から見ると、すぐ近くに井戸と、じゃがいもの植わった畑がある。
この干し魚とじゃがいもでスープを作れそうである。

ピートはおじの家で台所仕事もしていたので、一通りの物を作る技量を持ち合わせていた。
必要な材料を用意しながら、ピートは複雑な気持ちだった。
あんな暮らしをさせたおじに感謝をするなど、ぞっとする話だ。
しかし、料理の経験がなかったら、まずくて食べられないような代物を老婆に提供する羽目になっただろう。
怒りを買わずに済みそうなのは幸いだが、その理由を思うと……やはり、気が重い。

気の重さとは裏腹に、調理過程は順調に進む。
粉を探してパンを焼き、あとはスープの具が煮えるを待つだけ、という段階になって、ピートはふと辺りを見回した。
メグは、どこにいるのだろう。
昨日の記憶では、こちら側へ来るドアを開けて運ばれていったはずだが。
台所にはいなかったし、外で寝かせるなんてことはしない……と思いたいが、そうなるとどこにいるのかという疑問が残る。

(きっと、別の部屋があるんだ)

そうに違いないと信じて、ピートは他のドアを探す。
すると、食器棚の後ろに板のような物があった。
よく見るとそれは置かれているのではなく、壁に埋め込まれた物――ドアだと判別できた。
意を決して、そっと食器棚を横に押してみると、重たげに見えたそれは簡単に動いた。
床に細長い二本の鉄の棒が敷かれており、その上を移動できるように作られていたのだ。
現われたのは、鉄枠で囲まれた頑丈そうな木のドアだ。
他のドアは一枚板の簡素な物だったのに、場違いな作りである。

どうしてこんな所にドアがあるのだろう。
それも、食器棚で隠すような形で。

ピートは、そっとドアの取っ手をつかむ。
鍵がかかっているらしく、ドアは押しても引いてもビクともしない。
メグはこの先にいるのだろうか。
隠すようにして存在し、鍵のかかったドアの向こうに。

ふとよぎった嫌な予感に、鳥肌が立つ。
森で出会ったあの明かり。
あれは自分が操っているのだと、老婆は言っていた。
その時はそれ以上考えずに済ませてしまったが、よく考えたらそれは、普通の人間に可能なのだろうか?
世の中に自分の知らない便利な道具があって、それがあの明かりだったとすれば、何も不思議はないのだろうが……。

「ピート、朝食はまだなのかい?」

出し抜けに老婆の声がして、ピートは慌ててドアの取っ手から手を離した。
台所のドアを開けて入ってくるかもしれないと、食器棚を元の位置に戻す。
その時、乱暴に扱ったせいだろう、がちゃんっと中の食器がぶつかり合って音を立てた。

「ん? まさか食器を落としたんじゃないだろうね」

老婆の声に、不機嫌さが混じる。

「だ、大丈夫、何でもないです。今、持っていきます」

このドアを見つけたことが知られたら、まずいかもしれない。
ピートは、何事もなかったかのように振る舞うことを決意した。

「そこのテーブルを持ってきておくれ。あたしゃ、なるべく動きたくないんでね」

言われるがまま、部屋の隅に置かれた丸テーブルを老婆の前に運び、その上に料理を並べる。

「ふん、まあまあできるようだね」

料理を見た老婆が、ひくりと眉を動かす。
おもむろにスープをひとさじすくい、口に運ぶ。
何か言ってくれるかと思ったが、老婆は黙って料理を平らげていくだけだった。

「次は花に水をやっとくれ。それが済んだらにわとりの餌やりだ。卵があったら持って来るんだよ」

ちぎったパンでスープ皿をぬぐい、それを口に運びながら、老婆が仕事を言いつける。
ずいぶんとぞんざいな態度だが、おじよりましなものだった。

「そうそう、にわとり共のリーダーは生意気な口を叩くからね。腹が立ったら蹴飛ばしてやりな」

ここには勝手に動く植物だけではなく、しゃべるにわとりもいるようだ。
ひょっとして老婆は、見た目の印象通り魔女なのではないか……ピートはそう思わずにいられなかった。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
モーニングコールの花。そして隠し扉のレール。ハイテクな魔女館のようです。

小さなメグの行き先が気になるまま、ピートが次に遭遇するのはどんな不思議なんでしょうか。
路傍の石
2012/09/22 11:39
感想ありがとうございます。
隠し扉はロマンですよね。
どんな風に隠すか色々考えて、スライド式食器棚を採用です。
今なら食器もお付けして、なんと、このお値段!(通販かよ)

ピートは今度もぐじぐじうじうじ突き進みます。
タイトルに森って入れてるのに家と敷地内の話ばっかりなんで、どうにかしたいところです。
鈴藤 由愛
2012/09/22 15:53
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