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zoom RSS 魔女の住まう森 2

<<   作成日時 : 2012/08/25 09:13   >>

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一体何の明かりだろう。
視界のにじみを取り除こうと、少年は目をこすった。
その明かりはゆらゆらと揺れながら、こちらに近付いてくるようだ。
――誰かが来る。
少年はとっさにメグを抱きしめた。
もしかしたら、自分達がいなくなったことに気付いて、誰かが探しに来たのかもしれない。
見つかったら連れ戻されて、おじにまたぶちのめされるのだろう。
容易にその様子が思い浮かんで、体が凍りつく。
もはや、目の前にあるたき火の暖かさもわからない。

(どうか、こっちに来ませんように)

少年は震えながら祈るばかりだった。

しかし、明かりは無情にもどんどん近付いてくる。
少年の祈りは通じそうもない。
どうやら神様は自分のことが嫌いらしい、と自嘲的な気持ちになって、少年は内心頭を振った。
何を今さら。そんなの、わかりきったことではないか。
両親を亡くしたあの時から、いやというほど思い知ったことなのに。

(今ならまだ、逃げられるかもしれない)

少年は音を立てないよう、ゆっくりと腰を浮かした。
明かりをにらみながら、メグの体を抱える。
むずかるメグに小さく「しっ」とささやいて、たき火から、一歩一歩後ずさる。

「あんた達、ここで何をしてんだい」

そこへ、出し抜けに知らない老婆の声がした。
あやうくメグを落としそうになって、少年は慌てて腕に力をこめる。

「あたしの森で勝手に火を起こしやがって。ここがどこか、どんな場所か知っててやったのかい」
「す、すみませんっ」

少年は縮み上がって頭を下げる。
申し訳ないという気持ちの表れというより、条件反射のようなものだ。
少しでも相手の機嫌を損ねたら、ひたすら平謝りして許しを乞う――おじの家にいる間にすっかり身に着いた習性だ。

「その様子じゃ、何も知らないようだね。まあ、素直に謝ったことだし大目に見てやろう」

どうやら許してくれるようだ。
ほっとした少年は、声の主である老婆の姿を求めて辺りを見回した。
すぐ近くで声がしたはずなのに、どこにもその姿は見当たらない。

「探しても無駄だよ。あたしは、ずっと離れた家の中からあんた達を見ているんだからね」

すーっと、明かりが少年の近くへ寄ってくる。
明かりは丸い形をしていて、ふわふわと浮いていた。
こんな物は見た事がない。
度肝を抜かれている少年の周りを、明かりがくるくると二度回った。

「この明かりは……?」
「あたしの目の代わりさ。時々、あんた達みたいに勝手に入り込む奴がいるから、こいつで見て回ってるんだ」

一体どんな魔法を使っているのかなど、少年にはちっともわからない。
だが、声の主である老婆に逆らえば痛い目にあうだろうということだけは理解できた。

「そういうわけだから、さっさと出てお行き。帰るところぐらい、あるんだろ」

少年にとっての「帰るところ」とは、故郷の家だけだ。
おじの家に戻る気は一切ない。
だが、故郷の家は森を抜けたぐらいでたどり着ける距離ではない。
今すぐ森を出て行けと言われたら、朝まで街道で休むしかなくなるのだが、それは森で休むより危険な行為だ。
街道には、さまざまな人間が行き交うから。

「あの、せめて夜が明けるまでいさせてくれませんか?」

少年は、震える声をしぼった。
人に何かを懇願するのは、久しぶりのことだ。
おじの家に来てからは、何を懇願しても無駄と悟り、ひたすら耐え忍んできたから。

「そりゃあまた、どうしてだい」
「僕達、あの……おじさんの家から逃げ出してきたところで……」

思わず口ごもった。
今しがた知り合ったばかりの、しかも声だけのやり取りしかしていない老婆に事情を全て話しても良いものか、迷う。

「……なるほど。訳ありってことかい」

明かりが、ふよふよとメグのそばへ近寄る。
照らし出されたメグの顔には、切れて血の流れた跡がある。
おじは、いつもなら顔や手足といった人目につく部分には手を出さないのだが、噂のことで完全に頭に血が上ったらしい。
明日には腫れたり、あざができていたりするだろう。
少年は気が重くなった。

「あんた達、あたしの家に来な」
「えっ」

思わぬ言葉をかけられて、少年は驚いた。

「森でたき火をされるよりは、ベッドを貸した方がまだましってことさ。もちろんただってわけにはいかないよ。家のことをしてもらうからね」

少年はメグを抱き直した。
森で野宿をするよりは、ベッドで眠る方が良いに決まっている。
たとえ固くてかびくさいベッドだろうと、体を伸ばして眠れるというのは魅力的なのだ。
何より、まだ小さいメグにとっては。

「……よ、よろしくお願いしますっ」
「じゃあ、この明かりについておいで。おっと、たき火は消しておいでよ。確実にね」

少年はメグの体をそっと横たえ、たき火消しに取り掛かった。
こき使われるのは慣れているから、どんなにきつい仕事でもどうにかなるだろう。
問題は、この声の主である老婆の人格である。
今は、おじのような性質でないことを願うばかりだった。

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