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zoom RSS 魔女の住まう森 1

<<   作成日時 : 2012/08/18 17:39   >>

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夜更けの森の暗闇を照らしながら、たき火が燃える。
その中に細い枯れ枝を放り込み、少年はため息をついた。
栗色の髪をした年の頃、十二・三歳ほどの少年である。
それに寄りかかるようにして、同じ髪色の五歳ほどの女の子が眠っている。
どちらも、こんな時間に森にいるのは不自然な年齢だ。
おまけに季節はまだ春先。暖かくなってきたとはいえ、夜になればかなり冷え込む。
森のあちらこちらには溶け残った雪があり、息を吐けば白く煙る。
それなのに二人の格好は、寒さをしのぐには心もとない物だった。

「……お兄ちゃん」

女の子が半分寝ぼけた声でつぶやき、うっすら目を開けた。

「まだ夜だから寝てなよ、メグ」

少年が肩をさすってやると、女の子――メグはとろとろとまぶたを閉じる。
メグが再び眠ったのを見ると、少年はふうっとため息をついた。

気がゆるむと、これまでのことが取りとめもなく思い起こされてくる。
考えたって仕方ないのは理解しているが、それでも、つらつらと物思いにふけってしまうのだ。
決してゆかいな感情は浮かんでこないのに。

二人は兄妹だ。ここからずっと離れた村で、両親と祖父と共に暮らしていた。
しかし流行り病で両親を亡くした後、多少の小金持ちであるたおじに引き取られたのだ。
生まれて以来、一度も見たことのないおじだった。
祖父の態度と口ぶりから、昔何かがあって深い溝ができたのだろうということだけはうかがえた。
「老人と子供だけの暮らしでは辛いだろう」と、いかにも親切めいたことを、おじは言った。

しかし、おじの家で待っていたのは、使用人以外の何物でもない扱いだった。
怒鳴られながら毎日きつい労働に追われ、いとこにあたるおじの子供達からはいじめられる日々。
子供らしい活発さは日を追うごとに失われ、そのうち返事をするのもおっくうになった。
付け加えて、食事も満足に与えられないというひどさ。
何せ、おじに飼われている犬の方が、よほど良い物を食べていたほどである。

こんなところ、出て行きたい。
でも、ここを出たところで一体どうなるのか。
祖父のいる村は遠く、たどりつくまでに金も時間もかかりすぎる。
少年はそう考えて必死に耐えた。
だが、メグは幼く、お腹が空くのを我慢できる年齢ではなかった。
メグは隠れて犬のえさに手をつけるようになった。
こっそりやれば、ばれずに済むと思ったのだろう。
しかし、「あの家では犬のえさを子供に食わせている」と噂が流れたことで発覚してしまった。
たまたま、近所の人間が見ていたらしい。

それからが大変だった。
そもそもおじが二人を引き取ったのは、慈善家だと周りにアピールしたいからだ。
そこへとんでもない噂が流れたのだから、ひとたまりもない。
噂を知ったおじはメグを何度もぶちのめし、怒りの矛先を少年にも向けた。
「お前がちゃんと見ていないからだ」という、わけのわからない理由で。
その時の恐ろしい形相といったら。
普段、せっかんされる自分達をにやにや笑って見ているいとこ達ですら、青ざめるような凄まじさだった。

このままここにいたら、いつか殺されてしまう。
少年は、ついに我慢の限界に達した。
祖父の元に帰るのが大変だから耐えようなどと、そんなことは言っていられない。
とにかく、早く逃げ出さなければという追い詰められた気持ちが、少年を動かした。
とはいえ、逆らえるほどの勇気も腕力も無い彼にできたのは、夜中にメグを連れてこっそり逃げ出すぐらいのことだったが。

故郷の村、祖父の住む家までの帰り道は、正直なところよくわからない。
何せたった一度しか通らなかったので、記憶はひどくあいまいなのだ。
とにかく殺されたくないという一心で、二人は取りあえずおじの家を背にして歩き出すこととなった。
そうしていれば覚えのある土地に出られるかもしれないという、はかない希望にすがりついて。
だが、現実は……この森をどう通ったかさえ不安なところだ。

少年は上着のポケットをさぐり、小さなマッチの箱を取り出した。
おじの所から逃げ出す時にくすねてきた物である。
火を起こそうと開けてみたら半分以上使われていて、使いかけではなく新品を選べば良かったと妙な後悔をした。
たき火を大きくするために何本もすったため、残りの本数は決して多くない。

ぐうう、と腹が鳴って、少年は不愉快さで満たされた記憶をたぐるのをやめた。
ゆううつそうに目を伏せ、胃のあたりをさする。
長いことまともに食べていないせいで、そこはぽこりとふくらんでいる。
あいにく、季節が早すぎるため、森には食べられそうな物はない。
森を抜けるまでは、ひもじさに耐えなくてはならないだろう。
幸い、水ぐらいは飲めそうだから自分は耐えられるかもしれない。
だが、メグはどうだろうか。

森を抜けたら、まず何より食べ物を手に入れなければならないだろう。
しかし、給金なんてもらえなかったのだから、金など持っていない。
つまりどこかで金をかせぐ必要がある。

(どこかで、働かせてもらわなきゃいけないな)

おじの元でこき使われた辛い生活が、頭をよぎる。
また、あんな思いをしなければならないのだろうか。
少年の心が鉛のように重くなる。
働くのはかまわない。両親や祖父と共に野良仕事に精を出す暮らしをしていたから。
だが、怒鳴られ罵られするだけの中で心身をすり減らすのは、もうたくさんである。

(父さんや母さんみたいに、病気で死んでいれば、こんな思いをしなくて済んだのかな)

惨めさに視界がにじんだその時、ぼんやりとした明かりが視界に入り込んだ。

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