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zoom RSS 中途半端な能力

<<   作成日時 : 2012/08/04 14:10   >>

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どういう理由かはわからないが、常に手が光るようになった。
ホタルのような、ぽわーっ、ぽわーっと点滅する光り方だ。
昼間や明るい場所でなら特に困ることはないが、問題は夜、外を出歩く時だ。
この手が目立たないはずがない。
手をさらして歩こうものなら、たちまち人の目が集まってくる。

さらに問題がある。
俺の手は、寝ている間もおかまいなしに光っているのだ。
寝ている時にどうも明るいと思って確かめたら、自分の手が光っていたのでそれとわかった。
まったくもって厄介な能力だ。
ピカーッと強く光ってたら照明として使えて、電気代を節約できそうなのに。

中途半端な能力に悲しくなりながら過ごしていたある日、友人に声をかけられた。

「お前、今度オープンするおばけ屋敷で働いてみないか?」

なんでも古い平屋の日本家屋を買い取ってテーマパークに移した物だそうで、静かながらおどろおどろしい演出を求めているらしい。
確かに、真っ暗な日本家屋の向こうから、光った手がひらひら手招きしてたら怖いだろう。
この能力で金が稼げるならと、俺は了承した。

おばけ屋敷の進行はだいたいこんな風だ。
入り口から、ある程度の部屋までは安っぽい人形を並べ、照明を点滅させる程度で済ませる。
おばけ屋敷担当の人いわく、軽いジャブだそうだ。
入ってすぐに恐怖のクライマックスがあると、もう進めなくなってしまう。それではまずいという。
確かに入り口で止まられちゃ、アトラクションとしては機能しないもんな。
しかし、このおばけ屋敷の恐怖の真骨頂は、一番奥の子供部屋(という設定の部屋)だ。
BGMとして、かすかにわらべ歌が流れるこの部屋には、家財道具一式の他、ずらりと市松人形が並べられている。
その人形も、おどろおどろしく見えるよう、血のりをつけたり髪の毛が伸びて見えるように毛を付け足したり、首をもいで床に転がしたりしてある。
客が来るとセンサーに反応して、「けけけけっ」と笑い声を上げてカクカク動くものもある。

俺は、壁をくり抜いた穴から手を出して、適当にお手玉したり人形をいじったり、まりをついたりする仕事を与えられた。
客が子供部屋のまん前に来た瞬間、音楽が消えて「ねえ、こっちおいでよ……」とばかり、俺が手招きをするというわけだ。
客側から見たら怖いだろうけど、俺は壁一枚隔てたところから手を出すだけだから何とも思わない。

結果は大成功だった。
ここまで「こんなの作り物でしょ」とたかをくくってやってきた客が、子供部屋に来た途端、悲鳴を上げて逃げていくのだ。
ほどなくおばけ屋敷は大人気となり、だらだらする暇もなくなった。
自分の関わった事が話題になり、人気を得ると気持ちが良いもんだ。

だが後日、いつものようにバイトに来ると、友人とおばけ屋敷担当の人が深刻そうな顔を付き合わせ、書類を見ていた。
あいさつをすると、友人は俺と担当の人との顔を交互に見て、おそるおそる、といった調子でこう言って来た。

「なあ、お前、働いてて何ともないか?」
「別に何ともないよ。何かあったのか」

友人は担当の人をちらりと見ると、俺に書類を渡した。
それはおばけ屋敷に関するお客様アンケートの束だった。

・子供部屋で、たくさんの手が壁から伸びていて怖かった
・戸棚が開いて、中から誰かがこっちを見ていた
・子供の足だけがパタパタ走っていくのを見ました。子供のスタッフがいるんですか?
・一瞬だけ見える女の子は3Dですか? 消える間際にこっちを見るのがすごい怖いです
・人形の目を光らせるのはいただけないです。ちょっと不謹慎じゃないですか?
・床に人の顔が浮かび上がったんですが、あれが一番怖かったです
・わらべ歌が止まった途端、近くの障子に血が飛び散ったんですけど、次に見たら消えていました。でも絶対、見間違いじゃない!
・人形達の影から誰かがずっとこっちを見ていた
・たとえ人形とはいえ、首吊り死体をぶら下げておくのはちょっと……しかも回転してこっち見るし

そんな調子で出るわ出るわ、用意していない演出の数々。
肝心な、俺の手に関する「怖かった」というのは一つも無い。

「ちょっとこれは……お祓いでもしてもらおうか」
「えっ、してなかったんですか」
「作り物だから大大丈夫だろうって、上がね。うん、報告してくるよ」
「建物が古いから、何か呼んじゃうんですかねえ」

担当の人と、友人の会話を聞きながら。
俺の、この中途半端な能力に関するゆううつさは、当分晴れそうもない気がした。

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