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zoom RSS 臆病者の復讐

<<   作成日時 : 2012/07/28 20:23   >>

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――考えるよりも先に、体が動いていた。

銃弾を浴びて、私は倒れた。
痛さと熱さが全身を貫いて、私の世界を塗りつぶす。
息苦しくて咳きこむと、目の前に赤い血が飛び散った。

遠くに、銃を抱えて逃げていく兵士の後ろ姿が見える。
ああ、私、あいつに撃たれたんだ。

その私の体を、抱き起こす人がいた。
八年間、ずっと一緒にいた人。
初めて会った時はちっぽけな男の子だったのに、背が伸びた今は別人のよう。

「姉ちゃん!」

そう、彼は私のことをいつもそう呼んでいた。
血の繋がりのない私を。

彼は、道端で死にかけていたのを私が拾って、弟にしたのだ。
あの時の彼は、まるで捨て猫のようだった。
汚れて飢えて、目がしょぼついていた、弱りきっていった。

事情を聞いた人は、みんな私のことを「優しいお人よし」って言う。
こんな戦争中に死にかけた子供を拾うなんて、後で売り飛ばす商人ぐらいのものだから。

だけど、私が拾ったのは、優しさや同情や哀れみからじゃない。
復讐のためだ。
彼じゃない……彼の父親への。

私が生まれ育った村は、彼の父親が指揮していた兵士達に滅ぼされた。
あの男は、村に敵のスパイがいるらしいという情報を鵜呑みにして、みんなを殺した。
ひどい話だ。結局、スパイなんかいなかったのに。
私はたまたま、村外れの麦畑にいたから、見つからずに逃げ出すことができた。

誰が次の王様になるかなんて、私達から見れば遠い世界の話でしかないのに。
それなのに、彼らはそんな理由で国をめちゃくちゃにするほどの戦争をして、私達の生活をぶち壊したのだ。
あの男は、その一方の派閥の犬だった。
犬だから、飼い主の命令を疑いもせずに従うのだ。
人としての判断はしない。

理不尽な理由で殺された村のみんな――父さんや母さん、兄さん達を思うと、悔しくて悲しくてたまらなかった。
もう戻ってこないものを思い返すたび、私は泣いた。
ありふれた、退屈だけど平和な生活を。そこにいた人達を。見慣れた風景を。

――償いをさせてやらなきゃ、気がすまない。
わびるだけじゃ足りない。
償うというならその命で償え。

私はへどが出るようだけれど、あの男とお近付きになって、油断させてから殺そうと考えた。
使用人としてもぐりこんで、ひたすらおとなしく忠実にしていれば、チャンスはあると思った。

でも、使用人としてもぐりこむ前に、あの男は戦場で死んだ。
後に残されたのは、あの男の妻と幼い息子。
私が一家の姿絵を手に入れた頃には、母子そろって行方不明になっていた。
その二年後だ。彼を道端で偶然見つけたのは。

彼を見つけた後、私は神様に感謝さえした。
あいつの代わりに息子に復讐すればいい、という思し召しだろう、と。
どんな復讐をしてやろうか、彼を見つめながら考えたのを覚えている。

今ここで死ぬまで殴り倒して、罵声を浴びせようか。
それとも少年を愛好する輩に売り飛ばしてやろうか。

でもそうしなかったのは、彼がほとんど死に掛けていたから。
決して、かわいそうだったからじゃない。
すぐに死なれたら、復讐にならない。
それじゃあ、みんなが味わった苦しみの半分も味あわせてやれない。
苦しんで苦しんで苦しんで、苦しみぬいてくれなきゃ復讐にならない。
だから私は、少し時間のかかる復讐を選んだ。
この子を信用させた後、できるだけひどいやり方で裏切って、捨ててやるのだ。
八つ当たりと言われようと、そうしなければ気が済まない。
あいつの息子として生まれたことが運のつきだ。

持っていたお金をつぎこんで、ご飯を食べさせて、きれいにしてやって……優しくしてあげるうちに、彼は私になついた。
復讐のための準備は、一年もしないうちに整った。
あとは、できるだけひどいやり方で裏切って、捨ててやるだけ。

……でも、「できるだけひどいやり方」は、なかなか思いつかなかった。
私を信用して見上げてくる目や、つないだ手の温かさが、復讐から私を切り離すのだ。

持っていたお金の大半をつぎ込んだのは、復讐のためなのに。
彼があいつの孫でさえなかったら、放っておいたのに。
たとえうわべだけでも、親切になんて絶対にしなかったのに。
結局、私はずるずると、八年間も迷ってしまった。

「しっかりしろ! くそっ、なんで俺なんかかばって……!」

……かばった……? 誰が? 私が? 誰を?

ああ。

今にも泣きそうな彼の顔を見上げているうちに、私はやっと理解した。
私に復讐なんて、しょせん無理だったんだ。
だって私は臆病だから。
誰かに慕われる心地よさを手放したくなかった。
彼を裏切って捨てて、また一人ぼっちになるのが、怖かったのだ。

だから、八年間も迷い続けて――挙句、夢中で彼をかばってしまった。

「あいつらあぁ……殺してやる! 殺してやる殺してやる殺してやる……っうあああああああーーっっ!!」

意識を手放す寸前、私はそんな叫びを聞いた。

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
あんまり上手く書けなかった
鈴藤 由愛
2012/07/28 20:25
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