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<<   作成日時 : 2012/06/09 15:04   >>

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……私はクイズショーの司会者をしている。
ただし、少々特殊な内容のため、一般に放映されていない。
ショーが見たければ、不定期に設置されるステージに出かけ、くじによる抽選で当たりを引かなければならないのだ。
だが内容が内容だけに高い人気があり、なんとかして観ようという連中が毎回激しい争奪戦を繰り広げていた。


「さあ、最終問題です!」

私は高らかに響くような声で宣言した。
緊張感のある音楽が鳴り、まばゆい光がステージの上を跳ねる。

「二人とも、覚悟はいいかな」

私はやや不適に笑い、向かい合って席につく二人の回答者を見た。
最終問題に勝ち残ったのは、二人の男。
この二人は、着ている服こそ違うものの、全く同じ外見をしている。
それだけではない。
彼らは身長体重といった数値的なものを始め、趣味趣向、細かい癖、食べ慣れない物を食べるとふくらはぎがかゆくなるという体質までも一緒である。

「ラスト・クエスチョン! さて、二日前に鈴木ヤスオはどこで何という洗剤を買った?」

私は手元のモニターに映し出された問題文を読み上げる。
すると、私から見て左側にいた方が、素早くボタンを押した。

「通勤途中にあるシックステンで、アラウッシュという洗剤!」
「正解! おめでとう、君が優勝だ!」

私は笑顔を作り、回答した男を手で指し示した。
観客の拍手と歓声が彼を包み込む。
正解した男は表情を輝かせ、両手で拳を握り、高く突き上げた。
スポットライトが彼を照らし、キラキラしたテープや紙吹雪が舞い散る。
まさしく、輝かしい栄光の瞬間だ。
答え損ねた方は、がく然とした表情で立ち尽くしている。

「優勝した君には……そう、鈴木ヤスオとして生きる権利をプレゼントだ!」

私は彼に、申請に必要な書類一式を手渡した。
たった今から「鈴木ヤスオ」という人間になった、クローンに。

このクイズショーは、クローン製造会社が作っているものだ。
生まれて間もないうちに採取した細胞からクローンを数体作り、その中から選び抜いて送り出すのである。
以前は一体だけを作っていたそうだが、ほんのわずかな外見の違いや本人より能力が劣っていたりといった問題が起きたため、選抜式を取るようになったらしい。

選抜の様子を簡単に言うと、初めに外見や運動能力などではじいて行き、最後に記憶の差異がないかをテストするというものだ。
当然、出される問題は元になった本人に関するものばかりである。
その最後のテストを、製造会社がクイズショーに仕立て上げて見せているのだ。
記憶は元になった人間からそっくりコピーされるのだが、どういうわけか個体差が生じてしまうらしい。
こうして、外見も能力も記憶も全てが本人と相違ないクローンだけが世に送り出されるのだ。

「テストに落ちた奴の分まで、しっかり生きてくれよ」
「ありがとう、ありがとう!」

優勝者は書類を手に、観客に手を振って退場して行った。

だがクイズショーは、ここで終わりではない。
むしろここからが本番である。

「さて、惜しかったねえ」

私は、最終問題で負けた――いや、テストに落ちた男に目をやる。
彼は顔色を失い、額に脂汗を浮かべて震えていた。
素早くステージの袖から白い服を着てマスクをした人間が数人現われ、テストに落ちた方を拘束する。

「は、離してくれ! 嫌だ、嫌だあああ!」
「かわいそうだが、鈴木ヤスオという人間を二人も存在させるわけにはいけないんだよ」

ステージの床が開き、金属製の箱が現われる。
横長の箱で、中は人一人入れるスペースで仕切られている。
前方は透明で中の様子がわかるようになっており、他の部分は金属で覆われている。
箱にはすでに四人の先客がいて、口々にわめき散らしていた。
クイズショーにたどり着く前に排除されたクローン達だ。
それを見て、テストに落ちたクローンはパニックを起こした。
ぎゃあぎゃあと醜くわめき、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにする。
白服の人間達は意に介さず、彼を空いていたスペースに押し込んで鍵をかけた。

「嫌だ、頼む、死にたくないよ! なんでだよ、俺だって、俺だって生きてるんだぞ、お前らとおんなじで、生きてるんだぞ!」

中に入れられたクローン達は、箱の中で暴れながら口々に叫ぶ。
罵声を浴びせる奴も、ただ泣きわめくだけの奴も、茫然とするだけの奴も、命乞いをする奴もいる。

私は司会者席を離れて観客席の前へと歩み寄り、ポケットから細長いペンを取り出して見せた。
ただのペンではない。
これにはスイッチがついているのだ。とても重要なスイッチが。

「さあ皆さん、彼らの処遇を決めてください! 慈悲を与えるならば拍手を! 死を与えるならば、親指を下に向けて『ゲットアウト』と叫んでください!」

ドラムロールが鳴り始める。
観客席の空気が変わるのを、私は肌で感じた。
この、恐ろしい生き物が間近にいるかのような、ぞっとする感覚だけはいつになっても慣れない。

ドン、とドラムロールが止まる。

「処遇は!?」

『ゲットアウト!』

観客が声をそろえ、いっせいに親指を下に向けた。
私はペンについたスイッチを押す。
今までに、何人の……いや、何体のクローンを、こうして始末してきただろう。

――感傷的になってはいけない。
私は自分に言い聞かせる。

彼らに同情はいらない。
彼らは人間ではないからだ。
人間と同じ姿をしているだけで、人間としての権利は一切持たない存在なのだ。
言うなれば、血と肉でできたよくしゃべる人形。

重い金属音が響き渡り、天井から四角い鉄柱が下りてくる。
その鉄柱は箱とぴったり同じ面積だ。
やがて鉄柱は箱の中へと埋没していく。
箱の上は逃亡されないよう網をかけてある。その網は鉄柱と共に下へスライドする仕組みだ。
鉄柱が下りきったらどうなるか……それはいわずもがな、だろう。

中にいるクローン達は、下りてくる鉄柱から少しでも逃れようとしてか、できる限り身を低くする。
かなうはずもないだろうに、鉄柱を必死に押し上げている奴もいる。
だが所詮は無駄なあがきだ。
やがて鉄柱は彼らの体に到達する。

「ぎゃあああああっっっ!!」

同じ声がいくつも重なり合って聞こえる、胸のつぶれるような叫び声。
めきめき、ばりばり、ぶちぶち、という音がする。
みるみるうちに箱の下から赤い液体が漏れ出し、開いた床の下へとしたたり落ちていく。
生臭い血の臭いがむわっと立ち込め、否応無く鼻をついた。

私としては見ていて楽しいものでもないのだが、観客がこれを望んでいるのだから仕方が無い。
客相手のショーとはそういうものだ。

私は素早く観客席に目を走らせる。
観客は目をぎらつかせながら、興奮して歓声を上げている。
拍手と歓声に混じりながら、「ブラボー!」と叫ぶ声も聞こえる。
今日も大成功のようだ。
中には吐き気をこらえている人間もいるが、珍しくはない。初めてショーを見たなら無理もない反応だ。
牛や豚が潰され、肉にされる様を見て、気分を悪くするようなものだ。
だから気分が悪くなろうと、誰も「こんなのは間違っている。やめるべきだ」なんて言い出したりしない。

誰でもクローンを作ることが可能になってから、ずいぶんな年月が経つ。
以前のように死んだら終わりという概念が無くなった今、人々は昔のように死を恐れなくなった。
同時に命の価値は暴落し、生と死の境界は非情にあいまいになってしまった。
そもそも命に価値があるのは、同じものを二度とは生み出せないからなのだ。
それを、クローン技術はひっくり返してしまった。

今や、「事故や故意で人を死なせたら、クローンを作って弁償する」「人生でうまくいかなくなったらとりあえず死んで、クローンを作ってそいつにやり直させる」というのは非難される話ではない。
記憶や能力だって、元になった人間のそれと差異の無いクローンが選ばれるのだから滞りも不便もない。
命を奪う凶悪犯罪への認識も、以前とはずいぶん変わったことだろう。

だからこそ、代わりを持たず死んだらそれまでというクローンのテストがショーとして成立するのだ。
彼らはクローンから名を持った個人になろうと必死にあがき、生へのすさまじい執着を見せる。
そして、人々はその命を無慈悲に奪って喜ぶのだ。
相手の大事なものを、それと知って踏みにじるのはこの上ない快感なのだろう。
その証拠に、ショー開始以来『慈悲』が与えられたことは一度もない。

観客の歓声に耳を傾けていると、ショーの終わりを告げる明るい音楽が鳴り始めた。

「皆さん、いかがですか? 楽しんでいただけましたでしょうか」

私は笑顔を作り、観客に呼びかける。

「ではみなさん、次のショーをお楽しみに! またお会いしましょう、さようなら!」

手を振る私と観客を、下りてきた重い幕が隔てた。

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