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<<   作成日時 : 2012/06/02 10:11   >>

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ああ、勇者様。
私は村のほとりにある聖なる泉で、得体の知れぬものを見てしまいました。

この世の全てを映すと言われている、聖なる泉。
泉の水面には額縁のような物が映っていて、その中で小さな小さな人形が動き回っていました。
その人形達は、一目見て誰が誰だかわかるほど作りこまれた物でした。
しばらく見ていた私は、それが村の皆と同じ姿だと気付きました。
額縁に映りこむ風景も、村の中のものでした。
さらに驚いたことに、人形達の行動や台詞は、勇者様がこの村に来て盗賊退治を引き受けて下さった時と、全く同じものだったのです。

実に不気味で、見ていて薄ら寒くなるような光景でした。

泉に映る額縁の前には、一人の男がいました。
男は額縁を見つめながら、奇妙な板を握りしめていました。
後ろ姿しか見えなかったので顔はわかりませんでしたが、よれよれな服を着た不健康そうな雰囲気の男でした。

そのうち場面は移り変わり、勇者様が盗賊の一味と戦い始めました。
男の手に握られた奇妙な板の、出っ張りのような部分が押されるたびに、額縁の中の勇者様は剣をふるい、魔法を唱え、道具を使っていました。
しばらく戦いの場面は続いていましたが、盗賊の一人が後ろから勇者様に切りかかった直後、どこか絶望的な気持ちにさせる音楽が鳴り響き、額縁の中は真っ黒になりました。
すると男が奇妙な板を放り投げ、声を荒げたのです。

「くそっ、また死んだよ。バランス悪過ぎだろ、クソゲーだクソゲー」

泉が映したのは、そこまででした。

あれは一体何だったのでしょう?
現実の勇者様は、盗賊の隠れ住むというアジトに向かってさえいないというのに。
もしや、私は未来を予知してしまったのでしょうか?

魔王を打ち倒し、お姫様を救い出して下さる使命を持った勇者様が、あんな盗賊相手に負けてしまうだなんて、とても信じられません。
ですが、盗賊が卑怯な手を使えば苦戦するのは確かです。
私は、自分の見たものを勇者様にお伝えしようと決意しました。
杞憂に終わろうとも、取り合ってもらえなかったとしても、それで勇者様に注意を促すことができれば無駄にはならないはずですから。

それなのに、ここに至って私はがく然としました。
私は、これらのことを打ち明ける術を持っていないのです。
どういうわけか、私は決まったこと以外話すことができません。
それなら手紙を書いて渡そうと思いましたが、机に近寄ることすらできませんでした。

今日も私は、村の井戸の前で、話しかけてくる勇者様にこう言うばかり。



『ああ おそろしい!
 とうぞくがいるかぎり あんしんして
 くらすことなんて できないわ   
 ゆうしゃさま どうか
 とうぞくを たおしてください!  』


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