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zoom RSS N氏の物語8

<<   作成日時 : 2012/05/05 17:00   >>

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俺達は怪物の手で、洞窟の中の広い場所に連れて来られた。
驚いたことにそこの岩は、緑色のエメラルドのような光を放っていた。
高い天井に明けられた穴から太陽の光が降り注いで、石を光らせていたんだ。
まるで、大聖堂か何かのような、神秘的な場所だったよ。
そこが観光名所だったら、誰もが心奪われてじっくり見て回りたいと思うだろうな。
だが実際には気味の悪い怪物どもの集会場で、俺達は殺されようとしているところだ。
その場所がきれいだろうが神秘的だろうが、感動もへったれもありゃしない。

俺達は、ひしめきあう怪物どもの輪の中に連れて行かれた。
そこには祭壇よろしく平らな石がいくつか置かれていて、他の連中とは違う、緑色の石をつけた槍をもった怪物がいた。
あいつらはフレッドとルーシーをそれぞれ石の上に寝かせ、俺を石の上に押さえつけた。
広場には怪物どもが大勢いるせいか、とにかく生臭い空気がたれこめていた。
まともに息を吸うと吐きそうで、俺はなるべく浅く、口だけで呼吸をするようにした。
緑色の石がいた槍を持った一匹が、ルーシーの体に手をかざし、何やら低くうなり声を上げた途端、状況が一変した。
周りの怪物どもがひれ伏しながら、ぐるるるああ、ぐるるるああ、って一斉にうなり出したんだ。
バラバラにうなるんじゃなく、一定のリズムを取っていたから、おそらく奴らにとっての何かの儀式なんだろう。

すると、ルーシーの体が、びくんっと跳ねた。
俺は最初、彼女が目を覚ましたのかと思った。
だが、そうじゃなかった。
ルーシーは声を出さず、釣り上げられたばかりの魚のように、何度も跳ねていた。
これが、目を覚ました人間の反応だろうか。
戸惑っていると、めきめきと嫌な音を立てて、彼女の体が内側からいびつな形に曲がり始めた。

「いぎゃあああああ!」

突然ルーシーが上半身を起こし、裂けそうなほどに開いた口から悲鳴を上げた。
きっと、激痛のせいで嫌でも目が覚めたんだろう。
……眠ったままの方が、きっと幸せだったろうに。
悲鳴は、やがてぬるぬるした液体にとって変わった。
ルーシーは大量にその液体を吐き続けていたが、しばらくすると玉子ぐらいの大きさの銀色の塊が混じるようになった。
すると、緑色の石のついた槍を持った怪物が動き出した。
液体の中に混じって吐き出されるそれを、一つ一つていねいに拾い集めていったんだ。
よく見ると、その銀色の物体は……小さいながらも怪物どもと同じ姿をしていた。
俺の頭の中に、怪物に出されたおかゆのことが浮かんだ。
まさか、あれのせいか、ってな。
だってそうだろう、考えられるとしたらそれしかないんだ!
あいつらが食わせたおかゆそのものが卵だったのか、混ぜられていたのか、それとも知らないうちに体に植えつけられていたのかはわからないが。

ルーシーは何度も何度も吐き出し続けて、ついに何も吐き出さなくなった。
それでも幾度かえずいた後、彼女は糸が切れたように倒れた。
ごろりと首がねじれて、俺の方を向く。

「ルーシー!」

俺の呼びかけに、彼女は応えなかった。
……その時にはもう、ルーシーは生きていなかったんだ。
裂けた口元は血と液体でぐちゃぐちゃで、見開かれたままの目は、まばたきをしていなかった。
俺は泣いた。
遭難してさんざんな扱いを受けた挙句、こんな死に方をした彼女が、かわいそうでしょうがなかった。

怪物どもは喜んでいるようだった。
産院で、両親が子供に対面して喜んでいるような、そんな喜び方だ。
忌々しい、と思ったよ。
心の底から、この怪物どもを殺してやりたい、全滅させてやりたいって、そう思ったんだ。
でも俺の体を押さえつける力は馬鹿みたいに強く、まるでびくともしない。

その時、怪物どもが一斉に、同じ方向を向いた。
目を向けると、そこには怪物どもと同じ姿かたちの、だがうろこの色が違う奴らがいた。
たちまち空気が張り詰めるのを感じて、俺は理解したよ。
こいつらは敵同士だな、って。
案の定、二つの種族はわめき、吼えながら互いに槍で戦い始めた。
しめたと思ったよ。この混乱に乗じて、逃げ出せるかもしれないからな。

体を押さえつけていた連中が加勢に行くと、俺はこそこそとフレッドに近寄った。
怪物どもは敵に気を取られていて、俺のことなんて眼中にもない様子だったから、それほど苦労しないで済んだ。
俺はフレッドの元にたどり着くと、必死に体を揺さぶった。
もし、ルーシーみたいなことになっていたらと思うと心がつぶれそうだったが、それでも揺さぶり続けた。
しばらくそうしていると、フレッドのまぶたがぴくぴく動き出し、うっすら開いた。

「フレッド、フレッド!」
「……え? あ……ここはどこだ?」
「話は後だ、外へ逃げるぞ!」
「逃げるって、ルーシーはどうした」

俺は彼女の身に起きたことを説明し、亡き骸のある場所を指差した。

「そうか、ルーシーは……」

フレッドが、声をつまらせる。
俺の胸に、改めて悲しみとやるせなさがこみ上げてきた。
だが、感情にとらわれるわけにはいかない。
非情だが、チャンスを逃すことはできないんだ。

俺達はまず壁際までたどり着くと、そのまま壁伝いに逃げた。
途中、何匹かが俺達に気付いたが、声を上げる前に敵に攻め込まれていた。
広場を抜け出した後は、壁伝いに外を目指した。
どうやって外へ出る道を見つけたかって?
外から風が入り込んでいることに気付いて、ひたすら風上を目指しただけのことだ。
怪物どもは全員あの広場に集合していたようで、途中で鉢合わせすることもなかった。

洞窟を出る間際、俺は振り向いた。
ルーシーのことを、考えずにはいられなかったんだ。
申し訳なさと不甲斐無さで、胸がかきむしられるようだった。
一緒に逃げ出すどころか、亡き骸すら持ち出せなかったなんて。

「……仕方なかったんだ」

フレッドがいたわるように俺を見た。

「行こう。彼女のことを忘れるな」
「ああ」

俺達は洞窟から駆け出した。
ロバートの死体が目に入ったが、俺もフレッドも何も言わなかった。
ひどい話かもしれないが、彼のことはルーシーほどにはかわいそうだと思わなかった。

「この後どうする?」
「ねぐらに戻って、使えそうな道具と食料を回収する。その後ぐるっと島を回って反対側に行こう」
「反対側? どうして」
「あの洞窟は、おそらく広場が一番奥のはずだ。つまり岩山を貫通していない。なら岩山の後ろに回った方が見つかりにくいだろう」
「そうか!」

まったく、お見それしたよ。
逃げるのに精一杯だった俺と違って、フレッドはそこまで考えていたんだ。
ねぐらに戻ると、俺達は残っていた果物と釣り竿を持ち出して、すぐ出発することにした。
……当然、拳銃を持った男の死体は、まだそこに転がっていた。
見ているだけで反吐が出そうな、くそったれ野郎の死体だ。
俺は出発する前に、つばでも吐きかけてやろうかと思った。

「やめておけ。殴ろうが蹴り飛ばそうが、そいつはもう何も感じないんだぞ」

だがフレッドに急かされて、やめた。
どのみちこいつは地獄行きだ。そうに決まってる……そう自分を納得させて、俺はフレッドの後を追いかけた。

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