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zoom RSS N氏の物語7

<<   作成日時 : 2012/05/04 16:10   >>

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次に気がついた時、俺は岩をくり抜いたような所に寝かされていた。
そこはとにかく生臭くて暗い場所だった。
所々にくくりつけられたたいまつの明かりがなかったら、何も見えなかっただろう。
体を起こすと強烈な頭痛が襲ってきて、思わずうずくまったよ。
そこで思い出したんだ、怪物に捕まったんだ、ってな。

「……気がついたのか」

フレッドの声がして、俺はきょろきょろ見回した。
そこで俺は初めて、この場所が牢屋のような所だと気付いた。
天井も床も壁にもすき間や穴はなく、唯一開いた部分は何かの植物の細い枝で作った柵でふさがれていた。

「フレッド、どこだ?」
「ここだ」

返事があった方に顔を向けると、たいまつの明かりが届かない位置に、フレッドらしい人影が見えた。

「無事だったんだな」
「ああ」

フレッドはあれから何があったかを話してくれた。
俺達は怪物どもに運ばれて、あの洞窟に連れて来られたそうだ。
この牢屋のような場所は、洞窟の中ってことだ。
フレッドは気絶した振りをして、様子を探っていたらしい。

「……こんなところ、早く出よう」

俺は柵をつかみ、力まかせに揺すり、蹴ってみた。
だが見た目は細く、何かの植物の枝で作られているはずの柵は、やたらと頑丈でびくともしなかった。

「無駄だ。俺も何度も壊そうとしたが、全然駄目だった」

そう言うフレッドの声は力なく、何だか弱々しかった。
無人島でのサバイバルと、こんな事態になったことで心身共に参っている風だった。

「でも、ここにいたらどんな目に遭わされるか」

それが、それだけが恐ろしかった。
俺の頭の中には、大鍋に放り込まれるとか、邪教の信者のように生け贄に捧げられるだとか、そんな場面ばかりが思い浮かんでいた。

「もうおしまいよ」

その時、ルーシーの震える声がした。
見ると、フレッドの後ろに隠れるようにして、ルーシーがうつむいて膝を抱えていた。

「ここで死ぬんだわ。私達、あの怪物に食べられてしまうのよ」

ルーシーは俺を見ようともせず、うつろな目で半笑いの表情を浮かべていた。
俺は、彼女が心に負った傷の大きさを思った。
今さらながら、罪悪感でいっぱいになった。

「ルーシー、その……すまなかった。あの男からかばったり、助けたりできなくて……」
「今さら何よ!」

暗がりの中から、ぎらりと光る二つの目が俺をにらんだ。

「私があの男に好き放題されている間、あなたは一体何をしていたの!?」

糾弾されて、俺は黙り込んだ。
ルーシーがひどい目にあわされている間、俺は何をしていただろう。

「何もしなかった。助けようとも、かばおうともしなかった。自分可愛さに私を差し出したんでしょう! 許してもらおうとしないでよ、人でなし!」

わあっと声を上げて、ルーシーが泣き出した。
俺が気絶している間も泣いていたんだろうな。声がかすれて、ばあさんみたいだった。
フレッドは、そのルーシーの背中をひたすらなでていた。
父親が幼い娘を慈しむような、そんな手つきだった。

そこへ、ペタペタと足音が聞こえてきた。
たいまつの明かりで生まれた大きな影を揺らしながら現れたそれは――怪物だった。
ルーシーが「ひいっ」と目を見開いて、岩の壁に張り付いた。
俺は、怖いのをこらえて前へ出た。
確かに今までは、撃ち殺されるのが怖くてあの男の蛮行を止められなかった。
だから、今後は彼女のことを守ってやろうって決めたんだ。

怪物は柵の下のすき間から丸い皿を差し入れると、去っていった。
皿にはおかゆのような物が大量に盛られていて、温かそうな湯気が立っていた。
あいつらとしては、餌をやってる、ってことなんだろうな。
俺はルーシーとフレッドのそばへ、それを持って行った。

「な……何よ、これ」
「食え、ってことだろう」
「嫌よ、あんな怪物のよこした物なんて、食べられるはずないじゃない!」
「でもここで飢え死ぬよりは、生き延びてチャンスを待った方が……」
「だいいち、これって罠じゃないの? 毒入りじゃないって証明できる!?」

フレッドとルーシーが言い争いをする。
――俺は、覚悟を決めた。
皿の上のそれをつかみ、口に入れたんだ。
おかゆのようなそれは、少し味の濃いチーズみたいな味がした。
ルーシーとフレッドが息をのむ気配を感じながら、俺は、もし毒入りだったら起きるだろう体の異変を待った。
……でも、体には何の異変も起きなかった。
とりあえず、即死するような強い毒は盛られていないようだった。

「……大丈夫みたいだ」

すると、ルーシーは皿をつかみ、手づかみでがつがつ食べ始めた。
涙を流して、時々むせたりしながら、それでもおかゆを口に運んでいた。
途中、俺やフレッドに「食べるか?」と言わんばかりに視線をよこしたが、二人とも譲った。
フレッドの方は知らないが、俺の場合は……言っただろう、今後は彼女のことを守ってやろうと思ったんだ。
だから、俺が毒見をした分以外を食べさせてやるのは当たり前なんだ。

ルーシーはすっかり食べ終えると、うつらうつらし出した。
皿に残った分をフレッドが食べている間、俺はその寝顔を見ていた。
妙な気持ちだったよ。事態はちっとも良くなっちゃいないのに、不思議と心が落ち着いて、安らかな気持ちになるんだから。
もし俺に弟や妹がいたら、きっとあんな気持ちなんだろな。
恋だったかもしれない?
馬鹿言え、そんな状況じゃないんだぞ。

「これから一体どうする」

フレッドが、指についた分をなめ取りながら俺に尋ねてきた。

「どうする、って言われても。何とかしてここから逃げるしかないだろう」
「だが救助が来なきゃ、また怪物に捕まるぞ」
「せめて、怪物から身を隠せる場所があればなあ」
「フレッド、入り口からどうやってここまで入ってきたか、覚えてるか?」
「あいにく、細かいところは覚えていない。気絶した振りをしていたから、きょろきょろ見るわけにもいかなかったしな」
「そうか」

俺達の会話は、そこで終わった。
黙りこくっているうちに、フレッドの方もうつらうつらしてきて……俺は一人で考え事に没頭した。
ここからどうやって出ようとか、あいつらの弱点は何だろうとか、武器を奪えないかとか、そんなところをな。
どのぐらい、そうしていただろう。
また、ぺたぺたと近寄ってくる足音がした。さっきよりも大勢の足音だ。
やがて柵の前には、槍を持った怪物が集まってきた。

「フレッド! ルーシー!」

俺は大声で叫んだが、フレッドもルーシーもぐったりとしたまま、動こうとしなかった。
とっさに、おかゆのことを思い出したよ。
毒じゃなくとも、あれには何か眠くなるような物が入っていたんじゃないのか、ってな。
誰かの役に立つつもりで、自分だけが難を逃れるなんて!
俺は自分が情けなくて、涙が出たよ。

奴らの一匹が柵の前の岩壁に手を当てると、あれだけ揺すっても蹴っても駄目だったのが、一瞬で引っこんだ。
奴らは槍を突き出して入ってくると、俺を地面に押さえつけ、ルーシーとフレッドを抱えて行った。
そして俺の両腕をしばり上げ、首にロープのような物を巻きつけると、力づくで引っ張っていったんだ。

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