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zoom RSS N氏の物語6

<<   作成日時 : 2012/05/03 17:04   >>

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俺もフレッドも、後ろを振り向かずにひたすら走った。
あんな怪物が追いかけてくるっていうのに、振り向く気になんてなれるもんか。
走って、走って、走って……ねぐらにたどり着いた。

「な、何だよお前ら!」

飛び出てきた俺達を見て、拳銃を持った男が珍しく慌てた声を上げた。
あいつ、のんきなことにルーシーを組み敷いていやがった。

「怪物だ、怪物が来る!」
「怪物だと? ハッ、お前らとうとう頭がいかれたのか」

拳銃を持った男は、はなから信じやしなかった。
同じ立場なら、俺だってそうだったろう。
だが、草をかき分けて近寄ってくる気配がすると、さすがにあいつもぎくりとした。
だがすぐに、顔をしかめてつばを吐いた。

「……ロバートだな。全員そろって俺をだまそうってわけか」

起き上がって拳銃を握りしめると、うっそうと草木の茂る方へ身構える。

「ロバートはもう死んだ! あいつらに殺されたんだ!」
「うるさい、くそっ、なめた真似しやがって!」

その強気な態度も、怪物どもが現われるまでだった。
草をかき分け、奴らがぬっと現われると、あの男はたちまち動転した。

「う、うわあああっ! 何だよこいつら!」

あいつは拳銃で、醜い絶叫を上げながら続けざまに撃った。
だが、怪物どもには全く効いていなかった。
おそらく当たりはしているんだろうが、あいつらの体には傷一つ付かないんだ。
拳銃の中の弾を撃ちつくしても、怪物どもは無傷のままだった。
俺は絶望したよ。
だって、今ある中で一番強い武器が通じないんだぜ。
もう駄目だ、どうあがいたってあいつらには勝てない、殺されて終わるんだって思った。

怪物どもは拳銃で撃たれている間、立ち止まったまま動かなかった。
まるで、こっちのすることを観察しているかのようだった。
絶対に自分に痛い目を見せたりしない虫を、手の平に乗せて見ているような、そんな風だった。
拳銃を持った男は、しばらく弾切れのまま引き金を引いてから、ようやく弾がないことに気付いたようだった。
上着から弾を取り出してこめようとしていたが、手が震えて上手くいかないのか、ぼろぼろと小石の上に落としていた。

「くそっ、くそっ、何なんだよ、くそったれ!」

口汚くわめき散らすその足元で、ルーシーがぶるぶる震えていた。
俺は後ずさりながら、逃げる方向を吟味していた。
前は怪物がいる、後ろは海、なら左右どちらかにしか逃げられない。
皆で同じ方向に逃げるよりは、バラバラに逃げた方が助かる確率は高いかもしれない。

「フレッド、どっちの方向に逃げる?」

俺は声をひそめて、フレッドに呼びかけた。
と、その時、先に怪物どもが動き出した。
拳銃を持った男に、槍を投げつけたんだ。
その槍が拳銃を持った男の胸を貫いたと思うと、続いて二本目が顔面に突き刺さった。
あいつは仰向けに倒れた後、しばらくピクピク動いていた。

「きゃーっっ!」

ルーシーが悲鳴を上げた。

「おいっ、早くこっちへ!」

フレッドの声は、ルーシーに届いていないようだった。
……届いていたとしても、動けなかっただろうな。
声をかけた頃には、もう目の前にまで怪物どもがやってきていたから。
きっと無残な殺され方をするんだろう。
哀れな女性だ。
船が沈没して、乗っていた救命ボートが転覆して、無人島に流れ着いて、ひどい目にあい続けて……こんな最期を迎えるなんて。
そう思ったら、胸が締め上げられるように痛かった。

ところが怪物どもは、意外にも彼女を殺さなかった。
両脇から彼女の腕をつかみはしたものの、それ以上ひどいことは何もしなかったんだ。
一体どういうことだろう。
疑問に思っていると、いきなり背後から地面に押さえつけられた。
とんでもない馬鹿力だった。
顔をねじって見上げると、怪物が俺を見下ろしていた。
ぺたぺたと濡れた足音がして、視界に奴らの数が増えていく。
あいつら、まだ海の中に仲間がいたんだ!
海に囲まれた無人島の中には、初めから逃げ場なんてなかったんだ。

「やめろっ、離せ……ぐあっ」
「フレッド!?」

俺は、声のした方を見ようとした。
だけど、フレッドに何が起こっているのかを見届ける前に、俺は何かで思い切り頭を殴られた。
痛いのなんの。目から火花が出るどころか、頭の中が真っ白になるぐらいだった。
……俺の意識は、そこでぷっつり途切れてしまった。

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