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zoom RSS N氏の物語4

<<   作成日時 : 2012/05/01 20:36   >>

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それからの生活は、まるきり奴隷のようだった。
拳銃を持った男は、俺達三人の男を下僕扱いした。
あいつは俺達に色んな仕事をさせて、まるで王様のように過ごしていたよ。
食料集めに川の水汲み、火の番をさせるだけじゃない。
あいつは柔らかい草を集めて、その上に大きな葉っぱを乗せたベッドをこしらえさせたり、椅子代わりにするために、平らな石を運んでこさせたりもした。
その間、あいつはルーシーを手荒に扱い、気まぐれに俺達を脅したりして過ごしていた。
ルーシーは毎日、ずっと泣きっぱなしだったよ。日を追うごとにやつれていった。
気の毒だったが、誰も、どうにもしてやれなかった。
……ああ、臆病で最低だよな、俺。

あの男はさらに悪いことに、食料を自分の気分しだいで分配した。
あいつが一番多く食料を取って、次がルーシー。それで残った分が、俺達三人の分ってわけだ。
俺達は割り当てられた分を何とか平等に分け合って食べていたんだが……ある日、その構図が変わってしまった。
ロバートが釣竿を作って、魚を取ってきたんだ。
それまで果物しか食べられなかった生活に、魚がお目見えしたんだぞ。
拳銃を持った男は機嫌を良くして、ロバートをルーシーと同じぐらいの順位にしてやるって言ったよ。
お気に入りになった、ってわけだ。

そんなわけで、次の日からロバートが魚釣りをしている間、俺とフレッドが全ての労働をこなすことになった。
労働の負担が増えたっていうのに、食料の分配が減るんだから、ひどい話だろ。
俺とフレッドは毎日、二人だけになるのを見計らって、愚痴をこぼしあったよ。
寝ているところを襲って、拳銃を奪ってしまおうって話もしたが、あいつは拳銃をいつもズボンのベルトに挟んでいるから、取り上げるのは難しそうだった。

俺の希望はもはや、一刻も早く救助が来てくれることだけだった。
毎日暇があれば海に目をやり、船が通りかからないかと見ていたんだが、影も形もなかったな。
そして俺とフレッドは、前より少ない食料を分け合う羽目になっちまった。
もっとたくさん集めてくれば、食べる量も増やせたかもしれないが、救助が来る前に果物を食い尽くしてしまったら元も子も無い。
だから俺達は、みじめさを耐えることにしたっていうわけだ。
とにかく救助が来るまでだ、ってな。

……遭難してから、おそらく十日は過ぎた頃だと思うが。
食料集めに出かけて、いつものように海を眺めていたら、水平線に影を見つけたんだ。
船かもしれないと思って、俺は期待に胸をふくらませたよ。
助けが来たんだ。やっとこんな暮らしからおさらばできるってな。

「おいフレッド、あれ、もしかして船じゃないか?」

俺はそばで果物を集めていたフレッドに声をかけた。

「何だって?」

フレッドはすぐやってきて、俺の隣に立った。

「何かいることは確かだな。くそっ、望遠鏡があれば」

フレッドは悔しそうに顔をしかめていた。
俺はいても立ってもいられなかった。
もし船だったら、何としてでも気付いてもらわないといけないからな。
どうやってこっちに気付いてもらおうか考えて、俺は着ているシャツを脱いで、大きく振った。
光を反射できる物は持っていなかったから、少しでも目立てるようにって考えたんだ。
大声は出せなかった。出なかったんだ。
こき使われているうちに、とにかくおとなしくしているのが当然みたいになったらしくてな。
だが、その影が一つ増え、二つ増えするのに気付いて、俺はシャツを振るのをやめた。
船団を組んでいるっていう考えもあるだろうが、その場合は塊みたいに見えるはずだろう?
増えていくのは変だ。

「……何か変だな」

俺とフレッドは顔を見合わせた。
見ているうち、塊はだんだん数を増やしながら、こっちに近づいてくる。
島に上陸する気なんだと気付いて、俺達は慌てて木の陰に隠れた。

どのぐらい、そうやっていただろう。
ついに塊の集団が、砂浜にまでやってきた。
――見た時の衝撃は、忘れられないよ。
それは、平均的な大人ぐらいの大きさで、全身にびっしりうろこの生えた、何とも奇妙な生き物――いいや、怪物だったんだ!
顔は魚に似ていて、人間でいう手や足の部分には大きなひれがついていた。
想像してみろ、それが、槍を片手に海から続々と砂浜に上がってくるところを!
俺はもう震えるばかりで、声を上げないようにするのが精一杯だった。

怪物どもは砂浜に上がると、一列になって島へ入ってきた。
おそらく先頭の奴がリーダーなんだろう。時々振り返っては、ぐるるるあ! って変な鳴き声を上げていた。
こっちに来たらどうしようと思ったが、幸い、奴らは俺達のいる場所から離れた所を歩いて行った。
あんな奴らに見つかったら、どんな目にあわされるかわからない。
怪物どもの姿が完全に見えなくなるまで、俺達はじっとしていた。

「何てこった。皆に知らせないと」
「待て」

怪物どもがいなくなったのを見計らい、立ち上がりかけた俺の腕を、フレッドがつかんだ。

「ちょうどいい。あいつらに、あの拳銃を持った男を殺させよう」
「フレッド!?」

俺は心底驚いた。
身近な人間の口から「殺す」なんて言葉が出来ると、ぎょっとするものなんだ。

「じゃあこのまま、いつ来るかもわからない救助を待ちながら、こき使われ続けるっていうのか」

想像してみて、俺はとてつもない嫌悪感に襲われた。
ほんの少しだけ味わった希望の味は強烈で、不満を感じないようにと麻痺していた頭が、明快に動きだしていたんだ。
とてもじゃないが、それまでのように黙々と働くなんてできそうもない。
止めるだとか反対するだとか、そんな気持ちはみじんも湧いてこなかった。

「だけど、一体、どうやって」

俺は声をひそめて尋ねた。
あの怪物どもに人間の言葉が通じるとは思えない。

「それはこれから考える。だが、あいつらを使えれば、俺達は手を汚さなくて済むんだ。これはチャンスだろう」

フレッドの目が、きらりと光った。

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