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<<   作成日時 : 2012/02/04 17:17   >>

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ある日、残業帰りの暗い夜道を歩いていたら、前から『ハンバーグ』が全力疾走してきた。
ハンバーグっていうのは誰かのあだ名じゃない。
そのものずばり、ハンバーグだ。
玉ねぎとミンチと玉子とパン粉が材料の、こんがり焼いてソースをかけて食べる、丸くて平べったいアレだ。
驚くべきことにそいつにはマンガちっくな顔があり、ほっそい小さい手足を駆使して、一生懸命走っていた。

い、一体何事だ。
目をこすってもう一度見てみたが、ハンバーグがこっちに走ってくることに変わりはなかった。
ハンバーグってさあ……生き物じゃないよ、なあ?

「助けてください! 追われてるんです!」

意外にかわいい声をあげて、ハンバーグが俺に助けを求めてきた。

「な、何だよお前」
「このままだと食べられてしまいます! お願いです、かくまって下さい!」

ええいやめろ、肉汁とソースまみれの体でズボンにしがみつくな。

「とりあえず離れろ。ほれ、そこのポストのかげにでも隠れてな」
「は、はい」

ハンバーグがとてとてとポストのかげに移動するのを見届けたところで、けたたましい足音が聞こえてきた。
誰か来たらしい。

「すいませんっ、この辺でハンバ……何か変な物見かけませんでしたかっ」

駆け寄るなり詰め寄ってきたのは、見たところコックとおぼしき男だった。
あんた今、ハンバーグって言いかけたよな、絶対。

「あの、一体何が」
「何か見たかって聞いてんでしょ!」

目が血走っている。
コックは精神的に相当、キているようだ。
関わると面倒だ……はぐらかそう。

「い、いえ。見てないですけど……」
「そ、そうですか」

俺の言葉に、コックは案外あっさり引き下がった。
もっとしつこく絡んでくるかと思ったが……まあいいや、さっさと家に帰って風呂入って寝よう。

「もういいですか。俺、家に帰るとこなんで」

立ち去ろうとしたら、がしっ、と肩をつかまれてしまった。

「あんた……そのズボンのすそに付いてるもの、何ですか?」

コックの声が、明らかに低くなっている。
しまった。さっきハンバーグにしがみつかれた時に付いたんだ。

「こ、これは、その」
「さあ、痛い目にあいたくなかったら、ハンバーグの居所を正直に吐くんだ」

コックが恐ろしい形相で俺をにらみながら、背中からすっと何かを取り出す。
丸くて平べったくて持ち手のついたそれは……フライパンだった。
お前、それ背負って走ってたのかよ。
痛い目にあわせるってのは、それで俺をぶん殴るってことかよ。
全くもって御免仕る!

「うっ、うおおおお!」

俺は、全速力で逃げ出した。
こんな猛ダッシュは学生の時以来だ。たぶん明日は筋肉痛だろう。

「待て、逃げられると思っているのか!」

コックが追いかけてくる。
ぶん、という音が聞こえたので反射的に頭を下げると、頭のきわどい辺りを何かがかすめた。
おおおおお前っ、本気でぶん殴るつもりだなっ!?
打ち所が悪くて死んだらどうすんだよ、手加減くらいしろよコラ!
くっそー、どうして俺がこんな目に!
とにかく、どっかでコックを引き離さないと。
ぶちのめせれば一番良いんだろうけど、フライパン対素手じゃあ分が悪いもんな。

「ええーい!」

出し抜けに、あのハンバーグの声がして、

「ぐえっ」

コックの声がして。
追いかけてくる気配がしなくなったので、おそるおそる振り返ると、コックが伸びていた。

「やった、うまくいったぞ!」

ハンバーグがコックの体の上で、ぴょんぴょん跳ねている。

「な、何がうまくいったんだ?」
「はい、ぼくのソースですべらせて、転ばせたんです。転んだひょうしに頭をぶつけたみたいですね」

なあ、さっき追われてた時にそれをやれば良かったんじゃねえか?

「先ほどは、ありがとうございました」

ハンバーグがくにゃりと体を曲げる。
人間で言うと、頭を下げたようなもんか。

「いや、いいってことよ。で、お前、これからどうするんだ」
「ぼくはこれから、ハンバーグ王国に帰ります」
「は?」
「ハンバーグ王国ですよ。ハンバーグ達の住む、温かくて平和な楽園です」

何というか、肉汁とソースの匂いで満たされてそうな国だな。

「ぼくはデミ・グ・ラスソース・ハンバーグ十三世、ハンバーグ王国の王子なんです」
「あ……そ、そうなんだ」

もう、何が何やら。
デミグラスソース・ハンバーグの他に、チーズハンバーグとかおろし醤油ハンバーグもいるんだろうか。
さしずめ、ハンバーガーとは同盟関係ってところなんだろうか。

しかし、十三世ってことは血縁っていう概念があるってことだよな。
ハンバーグなのに、どうやって子孫残してんだろうか。

「それが何でこんな所にいるんだ?」
「人間の世界の様子を視察に来ていたんです。でも人間につかまってしまって……お供が身を呈して時間稼ぎをしてくれている隙に、逃げ出したんです」

身を呈して、ってことは食べられたんだろうな、そのお供とやら。

「その辺うろついてるハンバーグなんか、食べようと思うかねえ」

疑問が素直に口に出た。
だって、外をうろついたハンバーグって、ほこりまみれだろ。
衛生的にどうよ。

「ハンバーグ王国の民を食べると、ハンバーグ作りに関して天才的になれるらしいんです。だから、人間のコックの間では、ハンバーグ王国の民は希少価値があるんですよ」
「ふ、ふーん」

料理人の姿勢として、それは有りなのか。
腕前ってのは、日々努力して磨くもんじゃないのか。

「そうだ。お礼に今度、ハンバーグ王国にご招待します」
「えっ」

何だよハンバーグ王国って。
ハンバーグの大地にハンバーグの家やハンバーグのお城があって、ハンバーグの花が咲くようなところなのか?
で、道を行くのはこいつみたいなハンバーグ、と。
うーむ、野菜やフルーツ成分皆無な国なんだろうなあ。

「あなたの都合の良い時に、ハンバーグに向かって次の呪文を十回、となえて下さい」

黙り込む俺にかまいもせず、ハンバーグは小さな両手を高々と上げて、

「ハンバーグ、ハンバーグラ、ハンバーゲスト!」

声高らかにそう言った。
こ、これを十回も唱えろというのか、おい。

「これを十回となえれば、ハンバーグ王国への扉が開きますよ」
「お、覚えとくわ」

ああ、人前じゃ絶対やらないけどな!

「それじゃ、いつでもいらして下さいね。国を挙げて歓迎しますから!」

ぴょん、と一つ跳ねて、ハンバーグは姿を消した。

――その後。
俺がハンバーグを見かけるたび、異様に緊張するようになったのは言うまでもない。

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