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zoom RSS 人形の報酬

<<   作成日時 : 2012/01/28 16:43   >>

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ある国の王様へ、旅の商人がお目通りを願い出た。
「珍しい物を持っております」と言うので、退屈していた王様はすぐさま面会の許可を出した。

「こちらがその品でございます」

商人がうやうやしく差し出したのは、両手で持てる程度の大きさの、木製の人形が十二体納められた箱だった。
簡素な作りの人形で、目鼻はなく、三日月を寝かせたような赤い口が書かれたのみである。

「何じゃ、ただの人形ではないか」
「いえいえ。これは摩訶不思議な人形でして、箱の横についたつまみを引きますと、勝手に動くのでございます」

王様は言われた通り、箱の横についたつまみを引いてみた。
するとどうだろう、箱がひとりでに開いて、中の人形達がぴょんぴょんと床の上に降り立ったではないか。
床に降りた後も、人形達は跳ねたり駆け回ったり、生き生きと動いていた。

「おお、おお、これは素晴らしい。このようなもの、見たことがないぞ」
「さらにつまみを回せば、いくらでも人数が増えます」

言われるがまま、王様はつまみを回してみた。
すると、人形が二倍に増え、にぎやかさが増した。
一つ回すごとに十二体ずつ増える仕組みらしい。

「この人形達は、どんな事ができるのだ?」
「力仕事でも、細かい仕事でも、ご命じになれば何でもこなします。ただ、しゃべることはできません」

王様は、試しに命令してみることにした。

「お前達、踊ってみせよ」

すると、人形達は一列になって踊りだした。
肩を組み、ぴょん、ぴょん、と方向をそろえて足を上げる。

「では王様、今度はつまみを押し戻して下さいませ」

王様はまた、言われたようにした。
すると、踊っていた人形達はぱたりと動きを止め、ぞろぞろと箱の中に戻りだした。
そうして、人形達が元通りに並んで収まると、静かにふたが閉まった。
ついで、つまみがキリキリと音を立てて元の位置まで巻き戻る。

「うむ、これは良い物じゃ。買い取ろう、欲しいだけの金貨を与えようぞ」

上機嫌の王様に対し、商人が顔を引きしめた。

「王様。お買い上げ頂くにあたって、申し上げねばならないことがございます」
「何じゃ」
「この人形達は王様のご命令なら、どんなことでもこなしますが……決して戦争に用いてはならないそうでございます」
「ほう。そうした場合、どうなるのだ」
「それが、恐ろしい事になると伝え聞いているのみでして……。何せ、実際にそうしたという話を聞かないものですから、本当のところ、詳しくは存じません。ですがやはり、守るに越したことはないかと」
「ふむ。そうじゃな」

戦場で働くのは人間の兵士の仕事である。
使うことはないだろう、と王様は考えた。
そして、王様は大量の金貨を与え、人形達の入った箱を手に入れた。

「王様、くれぐれも注意事項はお守り下さいませ。戦争にだけは用いてはなりませんよ」
「わかっておる、わかっておる」

その後、王様は人形をさまざまなことに用いた。
遅れている国内の工事の人手にしたり、宴の席で躍らせてみたり、城内の仕事をさせてみたり、退屈な時に芸をさせてみたりした。
いずれの場合も人形達は良い働きを見せ、人々の苦労も軽減されることとなった。

しかし、ある時、隣の国が攻めてきて、戦争が起きた。
隣の国の兵士は体格も良く力があり、さらに最新式の武器をそなえているのでかなわない。
たちまち、王様の国は押されてしまい、ついに国境を破られてしまった。
このままでは負けてしまう。
敵国の王は残忍な性格で、負けた国をひどく虐げることで知られている。
国や民の将来を思えば、勝つことはかなわずとも、何とかして退ける他にない。
王様はついに、人形達を使うことにした。

「恐ろしい事が起こるというが、一体何が起こるというのだろうな」

不安とともに箱のつまみを引き、何度かつまみを回して、増やした人形達に指示を出す。
戦場に送られた人形達は、これまた良い働きを見せた。
彼らはひたすら目の前の敵兵に群がり、ただ一つある口で肉体を食らい尽くしたのである。
人形達が去った後には鎧と、骨が残るばかりだった。
大きさで見るならば、それはさながら、アリと巨大な動物の戦いのようだった。
しかし、アリはアリでも凶悪な習性で知られる軍隊アリそのものだった。

敵陣は、たちまち崩壊した。
大砲で吹っ飛ばされようと、火で焼かれようと、王様が箱のつまみを回せば、またいくらでも増えて戻ってくるのだからたまらない。
おまけに単なる木製の人形のくせにやたらと頑丈で、なかなか倒れないのだ。

いやそれよりも、第一に、敵兵の精神がもたなかった。
物を食べる立場であり、食べられる立場になることが日常でない人間にとって、我が身を食らわれるというのは耐え難い恐怖だったのだ。
それが、さらに非日常である戦場で行われるとなれば、精神的ダメージは計り知れない。
しかし、人形達は逃げ出す敵兵も容赦なく追いかけ、食らいついた。

「何て人形だ」
「俺、敵じゃなくて良かった」

王様の国の兵士達までもが震え上がるほどだった。

「あの商人の言う『恐ろしいこと』とは、このことであったか」

しかし、勝利は勝利である。
見た光景のおぞましさに震えながら、王様は箱のつまみを押した。
ぞろぞろと箱に戻る人形達を、正視することはできなかった。

その夜、自陣にある自分のテントで王様は考え込んでいた。
この人形さえあれば、自軍の勝利は確実だ。
だが、今後、あの恐ろしい光景に耐えられるだろうか。
敵国には降伏を勧めよう、と決意をしたところで、王様は足元に何かがいることに気付いた。

「ひっ」

思わず声が出る。
無理もない。足元にいたのは、箱に収めたはずの人形達なのだから。

オウサマ オウサマ ホウシュウヲ ヨコセ。
ハタライタブン オレタチニハラエ。

人形達は不気味な声で、口々に言った。

「ほ、報酬じゃと? 金か? 宝石か? そ、それとも服なのか? 飲み食いしたいなら、今すぐ料理番に……」

チガウ ソンナモノジャナイ!

人形達の口調が強まる。
王様は冷や汗をたらした。
違うと言われても、人形達の求める報酬など見当もつかない。

「な、ならば何が欲しいというのだ。申してみよ、今すぐというわけにいかぬ物でも、必ず用意するぞ」

人食いの人形達が目の前にいると思うと、歯の根が合わない。
自然と、王様は後ずさっていた。

ハラエ ホウシュウ ハラエ
イマスグ ハラエ 

人形達が王様を取り囲む。
後ずさる背中にテントの布が触れ、王様は心臓が跳ね上がった。

オレタチノ ホシイモノ ヨコセ
チカラヅクデモ モラッテイクゾ!!

「やめろ! 来るなっ、う、うわあああーっ!!」
「陛下!?」

叫び声を聞いた家臣が、王様のテントに飛び込んだ。
しかし、テントには王様の姿はなく、着ていた服が散乱しているのみである。

「どちらに行かれたのか……」

テントを見回した家臣は、例の人形が入った箱を見つけた。
戦場で見た時は単色の木製のはずだったが、今は一体一体、それぞれ一つずつ違う色をした部分がある。
一つは腕、一つは足、一つは胸……といった具合に、そこだけがまるで人間の素肌のような色をしているのだ。
やはり気味の悪い人形だ、と目をそらそうとした家臣の目に、端の一体が映った。
その人形は、頭の色が違っていた。

……いや、色が違う、というよりも。

その頭は、髪の毛があり、耳や目鼻や口があり、まるで実物の人間のように精巧に作られているのだ。
家臣には、それが王様にそっくり……いや、そのもの、といった風に見えた。

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