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zoom RSS やまんばのお堂

<<   作成日時 : 2011/12/18 16:37   >>

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昔、あるところに太吉という少年がいた。
母親と二人暮しの、働き者で親孝行という評判の少年だ。
その太吉の住む村には、一つの決め事があった。
毎年、祭りのたびにやまんばに村の若い娘を一人差し出すというものである。
娘を集めてくじを引き、当たりを引いた娘を山の中にあるお堂へ置いてくるのだ。
そのお堂はいつからあるのかもわからない古い物で、やまんばが住んでいるとされていた。

やまんばの元へ差し出された娘の、その後のことは誰も知らない。
村の長老や大人たちは「やまんばに食われるのだ」と言っていたが、定かではなかった。
ただ一つ、言えることはある。
誰一人帰ってくることはない、ということだ。

そして今年も、恒例のくじ引きが行われた。
当たりを引いたのはお春という、太吉と仲の良い、貧しい家の少女だった。

「そんな。なんでお春が」

話を聞きつけ、太吉はお春の元へすっ飛んでいった。
お春は泣きもせず、いつものように野良仕事をしていた。

「おい、お春。仕事なんかしてる場合か。お前、やまんばに食われるんだぞ。怖くないのか」
「怖いけど、しかたなかろ。くじを引いて決めたことだもの」
「きっと、いんちきだ。みんなで口裏合わせて仕組んだに違いねえ」
「でも、あたいが行かねえと、おっとうやおっかあが村の人達にいじめられちまう。それに、怒ったやまんばが何するかわからねえ」

まっすぐな目できっぱりと言い切るお春を前に、太吉はそれ以上、何も言えなかった。

そうして祭りの日。
お春は今まで着たこともないような美しい着物に身を包み、髪にくしを入れられ、薄く化粧を施された。
これからやまんばに食われるという哀れな身の上であるのに、太吉は見とれてしまった。

「太吉、今生の別れだ。達者で暮らせよ」

村人達のかごに担がれ、お春はお堂へと連れて行かれた。

「待ってくれよ、こんなこと、いつまで続けるつもりなんだよ。このままじゃ、村がめちゃくちゃになっちまうだろ」

太吉は大人達の前に立ちふさがって訴えたが、

「太吉、やめておくれ。お願いだからもめ事を起こさないでおくれ」

母親にすがられては、引き下がるしかなかった。
太吉はもう悔しくてたまらなくて、祭りどころの気分ではなかった。

(くそっ。お春がやまんばに食われるってのに、おれには何もできないのか)

暗い表情で家に戻り、ずっとふさぎこんでいた。

そうして気の乗らない祭りが終わり、久々の酒に男どもが酔って高いびきをかき始めた頃。
太吉は作業用のなたを持ち、家を飛び出した。

(誰もやらないっていうんなら、おれがやる。お春を助けに行くんだ)

村に犠牲を強いるやまんばなど、この世からいなくなった方が良いではないか。
太吉は己の正しさを確信していた。

暗くて歩きづらい中、何度も転びながら山道を駆け登り、たどり着いたお堂には明かりがともっていた。
きっと、やまんばがいるのだろう。
お春を食べるため、支度をしているのかもしれない。

(そんなこと、させるもんか)

太吉はなたを握りしめ、足音を忍ばせてお堂へと近寄っていった。
やまんばの力というものがどれほどかはわからないが、弱いということはないだろう。
ならば一撃で、なるべく深手を負わせるのが得策というものだ。
お堂の入り口まで近寄り、おたけびを上げて戸を蹴破ろうとしたその時、太吉の耳に男達の笑い声が聞こえてきた。

「肉付きはよくねえが、まあ、器量はなかなかだ。今年は上玉だな」
「おう。去年は不細工だったからなあ、買い手を見つけるのは骨だったぞ」
「体は頑丈だったから、まだ救いはあったがよ」

男達は下卑た笑い声を上げる。

太吉は内心、首をかしげた。
これが、やまんばの正体だろうか。やまんばというのは男で、何人もいるものだったのだろうか。

「ひいふうみ……まあ、こんなもんか。おいばばあ、今年のぶんだ。受け取れ」
「はいよ。確かに」

老いた女の声が答える。
これがやまんばのようだ。
太吉の中で、再び正義の炎が燃え上がる。
やまんばはきっと、差し出された娘たちを、こうして売り飛ばしているのだ。
人を食らうより、なお性質が悪い。

「そういや、おととし売った奴な、奉公先で孕まされたんだが、そこの旦那が堕ろせって言っててよ。次、連れてくるから頼んだぜ」
「近いうちにしておくれ。あまり日を置かない方が、楽でいいからね」

「やまんば、お春を返せえ!」

太吉は戸を蹴破り、中に踏み込んだ。
中は、土間と囲炉裏があるだけの、あまり調度品のない質素な作りだった。
白髪頭の老婆と、人相の悪い三人組の男が囲炉裏を囲み、すみの方でお春がうつむいて座り込んでいる。

「お春、助けに来たぞ!」
「太吉っ」

お春が顔を上げたその時、太吉は男達の一人に殴り飛ばされ、土間に倒れこんだ。

「村の連中、取り返しに来やがったか」
「いや、このがきだけだ。頭に血ぃ上ってんだろ」
「ばかな奴だ。痛めつけてやれ」

三人は太吉を殴り蹴り、さんざんに痛めつけた。

「やめて、やめてけれ。お願いだ、太吉にひどいことしねえでけれ」

お春が泣きながら頼み込むが、聞き入れられることはなかった。
太吉が抵抗をする気力も体力も失った頃、ようやく三人は痛めつけるのをやめた。

「ったく、なんて奴だ。女に肩入れしやがって」
「今日はこの辺でずらかろうぜ」

男達はお春の腕をつかみ、力まかせに立たせる。

「じゃあな。ばばあ、次に来る時まで生きてろよ」
「お前がいねえと商売しづらいからな」

倒れ伏す太吉の前を、お春が通りがかる。
お春は目にいっぱい涙をため、物言いたげに太吉を見たが、無理やり引っ張られて結局、何も言えずに連れられて行った。

(お春……お春)

みじめさと悔しさと情けなさ、それがない混ぜになって太吉を襲う。
あふれる感情は大粒の涙となり、汚れた頬を伝い落ちた。

「さ、歩けるだろ。お前も帰りな」

やまんばが太吉の元に歩み寄り、身をかがめる。

「殺してやる……お前が、お春を売ったんだ。絶対、絶対許さねえ」

ぶるぶる震える手で、太吉はやまんばの足をつかんだ。
だが。

「はっはっはっは、あたしがあの娘を売っただぁ? そりゃあ、ちがうね!」

やまんばは大声で笑い、太吉の手をひねり上げた。

「あたしは、お前のとこの村長に頼まれて、人買いに娘を渡してんのさ」
「う……うそだ……なんで、そんなこと」
「さあね。隣近所の村に見栄を張りたいんじゃないのかね。娘の身売りが多い村ってのは、あんまり評判が良くないらしいから」

あっさりとした口調のやまんばに、嘘をついている様子はない。
だが、話の内容は、とてもではないが素直に受け入れられるようなものではなかった。
村長が、このことを――お春が売られることを承知していた、などと。

「あたしや、あの野郎どものことを村の大人に告げ口してみるかい?」

すうっと目を細め、やまんばがささやく。

「無駄だよ。村長だけじゃない、長老も、あの娘も、お前の親も、村の大人なら誰もが知ってるんだからね」
「な……に?」
「娘を売りたいっていう親が、村長に言うんだ。で、村長はその年の祭りの時に、売られる娘が選ばれるよう、くじに細工をする。そういう仕組みなんだよ」

太吉はパッと身を起こし、立ち上がった。
それから、わああああと大声を上げてお堂を飛び出し、山道を転がり落ちるように駆けて行った。
悲鳴とも、絶叫ともつかない声。
それは夜が明けるまで、山のどこかから上がっていたという。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
これは切ない話ですね。
いや、政治家ってみんなそうなんですよ。
見栄を張ったり、隠し事をしたり。
やってられないですよね。
ia.
2011/12/26 02:19
子供には大人の世界の都合はどうこうできませんからね。
同じ大人でも、住む世界が違うとどうにもできない事があるわけで。
意見を言ったり抗議したりはできるんですが、聞いてくれるかどうかはあっちの都合によりますから。
鈴藤 由愛
2011/12/26 20:26
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