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zoom RSS エル氏のペット

<<   作成日時 : 2011/10/08 21:50   >>

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秋が終わりかけ、朝晩めっきり冷え込むようになったある日のこと。
遅寝をしていたエル氏は、小さなくしゃみの音で目を覚ました。
自分のものではない。
となると、思い当たる相手はただ一つ。
エル氏はベッドに起き上がり、掛け布団の上に乗っている「それ」を見た。
そこには、エル氏の飼っているペットが寝ているはずだった。
このペットには、飼い始めた頃からエル氏と同じベッドの上で寝る習慣があるのだ。
そして今日も変わらず、ペットはそこで寝ていた。
ただし、いつもとは違ってぐったりした様子である。

「おい、お前。具合が悪いのか」

エル氏はそっとペットを抱きかかえる。
――なんだか熱っぽい。
ペットは目をしょぼしょぼと動かすと、またくしゃみをした。
考えるまでもなく、何かの病気である。

「こりゃ大変だ。医者に連れて行かないと」

エル氏はいそいそと支度をして、ペットを専門の病院に連れて行くために出かけた。
向かった病院は以前にも診てもらったことがあり、年に一回のワクチンを打ってもらっている。
病院に到着して診察カードを出すと、受付嬢がすまなそうに微笑んだ。

「すみません、ただ今混雑してまして、一時間ほどお待ちいただくことになるんですが……」
「かまいませんよ」

冷え込む時期に具合が悪くなるのは、どうやら自分のペットだけではないようだ。
エル氏はそんなことを考えながら待合室の椅子に座り、足元にカゴを置く。
一時間の待ち時間の間に、エル氏は診察室に向かうペットを何匹も見た。
たいていは抗議するように絶叫しているが、状況がわかっていないのかはしゃぎ回るペットもいる。
はしゃいでいる奴はおそらく、健康診断かワクチン接種で来たのだろう。
元気なのは何よりだ、とエル氏は自然と目を細めていた。

それからしばらく経って、ようやくエル氏の順番が巡ってきた。
診察室に入ると、白衣を着た医者が手を消毒し、こちらを向いた。

「はいこんにちは。今日はどうしました?」
「その、熱っぽいのと、くしゃみをするので連れてきたんです」
「そうですか、さっそく診察しましょう」

医者がカゴから出そうと抱きかかえると、エル氏のペットはじたばたと暴れだした。
さらに足を突っ張り、カゴから出まいと頑張っている。

「ちょっと、押さえさせてもらいますね」

医者はそう言うと、奥からスタッフを呼んで診察台の上に体を押さえさせる。
ペットはしばらくもがいていたが、やがて顔の位置をずらして、エル氏をじっと見つめてきた。
「助けて」と言っているような、「何でこんなことするの」と言っているような、そんな目だ。
エル氏の胸が、ちくりと痛む。

「がまんしてくれ。もう少しだからな」

エル氏にできることといえば、見守るぐらいしかない。
もはや祈るような状態のエル氏の前で、医者はてきぱきと体温を測り、聴診器を当て、目や鼻、口の様子を観察する。

「カゼですね。ワクチンのおかげで症状は軽く抑えられてますが、これは特効薬がない、根絶の難しい病気なんですよ」
「不治の病ってことですか!?」
「いいえ、そこまでのものでは……免疫力が下がると症状が出るってことです。悪化させないためにも、ワクチンの接種は毎年きちんと行ってあげてください」

ペットは注射をされ、薬を処方されての帰宅となった。
エル氏はふかふかのクッションにペットを寝かせてやると、再び外出する。
薬を飲ませる時に使う、ペット用の缶詰を買うためだ。
エル氏のペットは缶詰の中身に混ぜると、おとなしく薬を飲んでくれるのだ。

店に到着したエル氏は、大小、価格も中身もさまざまな缶詰がずらりと並ぶコーナーの前に立つ。
この前買ったのは「パイナップル」とやらの缶詰だったが、今回もそれにしようか。
それとも病気だから、ちょっと高めの「桃」とやらの方にしようか。
迷った末に、エル氏は「パイナップル」「桃」両方を買った。

「しかし、特効薬がないなんて、ニンゲンの「カゼ」って怖い病気なんだなあ」

一つだけの目玉で空をにらみ、ぶよぶよした巨大な体の下から粘液を出して道を這いながら、エル氏は内心つぶやくのだった。

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
猫がカゼをひきました。
医者に連れて行きました。
私もカゼをひきました。
医者には行きませんでした。
だいじょうぶ、人間は死にゃしないから。
鈴藤 由愛
2011/10/08 21:55
エル氏のペット プラスマイナス1/BIGLOBEウェブリブログ
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