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zoom RSS 悪あがき

<<   作成日時 : 2011/08/25 14:06   >>

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「いたか?」
「いえ、見当たりません」
「くそっ、どこに隠れたんだ」
「まだ遠くには行っていないはずだ。とにかく探せ!」

バタバタと何人かが走り去っていく足音。
人の気配がなくなったのを確かめ、俺は息を吐いて起き上がった。
俺がいるのは、ビルとビルの間にある、細いすき間だ。
そこで布をかぶってうつ伏せになり、じっとしていたのだ。
追っ手であるあいつらの目から逃れるために。
まあ、あいつらがすき間に入り込んできたりしたら一発でアウトだったろうが、バレなかったのだから良しとしよう。
俺は左右を確認し、すき間から抜け出した。

俺があいつらに追われるのには、理由がある。
実は、俺はクローンなのだ。それも、移植手術に使われることが決まっている。

この時代、医療目的に限っては法的な手続きを踏めば、誰もがクローンを作ることができる。
とはいえ、いきなり丸ごと一体のクローンを作ったりはしない。
コストがかかってしまうし、無駄になる部分が多すぎるからだ。
そのため、たいていは必要な臓器だけを作って、移植をする。

しかし、俺のオリジナルの人間は、必要な臓器だけを作る、というわけにはいかなかった。
飛行機事故にあったというそいつは、全身に大やけどを負い、内臓にも大きなダメージを受けていた。
集中治療室で生命維持装置につながれて、どうにか命をつないでいるという。
そんな息子を助けるために、オリジナルの両親はクローン一体を、つまり俺を作る決意をしたのだ。
必要な臓器をさまざま作るよりも、新しい体を作った方が早い、と踏んだわけである。

息子を助けたい一心での両親の行動。世間的には美談だろう。
だが、殺され体を奪われるクローンの、俺の気持ちはどうなるのだ。
自分が、誰かのパーツになるためだけに生まれてきた存在だと知って、納得できるものだろうか。
俺は納得などできない。一度生まれてきた以上、俺の命は俺のものだ。
このままおとなしく、はいどうぞと体を差し出してたまるか。
生まれた背景や事情だの、知ったことじゃない。
だから俺は逃げたのだ。
このまま、どこまでも逃げて、逃げて、逃げ続けてやる。
最後の最後まで、悪あがきしてやる。







「そうか、患者はまだ見つからないか」

白衣を着た男が、電話で相手とやり取りを交わしていた。

「彼の両親も相当精神的にまいっているよ。毎日祈り続けて、やっと手術が成功した矢先にこれだからね」

こめかみに手をあて、眉をしかめる。
顔に浮かぶのは、苦悩の表情だ。

「ああ、引き続き捜索してくれ。警察にも連絡はしたが、何せ事件性がないからね。あまり期待しないほうが良さそうだ」

男は電話を切り、ふうっとため息をついた。

「一体どういうことだろう。オリジナルの脳を移植したのに、自分の事をクローンだと思いこんでしまうなんて……こんな事例、聞いたことが無いぞ」

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