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zoom RSS マッチ売りの少女と男

<<   作成日時 : 2011/08/05 10:04   >>

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雪の降るクリスマス。
貧しい身なりの少女が、路上でマッチを売っていた。
カゴに入れられたマッチは降り続く雪のせいで湿り、使い物になりそうもない。
普通なら、「今日はもう商売にならない」とあきらめて帰るところだ。

しかし少女は、そうするわけにはいかなかった。
マッチが売れないまま家に帰ったら、食事を抜かれるどころではない。
父親にしこたま殴られてしまうのだ。
暴力への恐怖は、年端もいかぬ少女の脳みそを完全に支配していた。
逆らうだとか逃げ出すだとか、そんな建設的な考えも浮かばぬほどに。

足を止めてくれる人もいない中、少女は懸命に呼び込みを続けていた。

「おい、マッチを売っているのか」

突然声をかけられて、少女は驚いて顔を上げた。
見ると、無精ひげを生やした目つきの悪い男が立っている。

「は、はい」

怖いなあ、と思いながら、少女はうなずいた。

「今どれぐらいある」
「こ、このカゴ一つ分、です」

少女はカゴを持ち上げ、男に見せた。
(きっと、またいらないって言われるんだ。だって雪で濡れているんだもの)
先ほど、別の男に「このマッチは濡れてる、使い物にならない」と断られたことを少女は思い出していた。

「そのカゴのやつ、全部もらおうか」

思わぬ言葉に、少女は再び驚いて男を見上げた。

「ほ、本当ですか?」
「ああ、今、マッチがたくさん欲しいんでね」
「で、でもその、マッチは雪で濡れてて……」
「かまわねえよ。ほら、これで足りるかい」

男はマッチをごっそりとカゴから取り出すと、少女に紙幣を渡した。
足りるどころか、充分おつりが来る額である。

「あの、おつりを」
「いや、いらん。取っておけ」
「ありがとうございます!」

少女は男の背中に向かって何度も頭を下げ、見送った。
今までで一番マッチが売れた瞬間だった。



マッチを買った男は通りを突っ切り、少し裏手に入ったところで立ち止まった。
そこには数人の男がいて、寒空の下で首を引っこめていた。

「おい、どこ行ってたんだよ」
「ああ、さっきそこでマッチを売っているガキがいたからな。全部買い占めてきたんだ」

男は彼らにマッチの束を見せる。

「それ、しけってるんじゃないのか?」
「しけってるがな、火にくべりゃあ使えるだろうよ」
「とにかく全員そろったからな。行くぞ」

男達は連れ立って歩き、やがて一軒の大きな家の前で立ち止まる。

「さあて、作戦決行だ」
「もたもたすんな。手早くやれよ」

はしごを使って家の壁を素早く超え、男達は動きだす。
あちこちに油をまいて周り、その後から火をつけていく。
マッチを買った男は、その火が大きくなったところへマッチを放り込んでいった。

「工場主の奴め、安月給でこき使いやがって」
「俺達のことなんか、人間だなんて思ってやしねえんだ」
「なめられてたまるか。俺達の怒りってものを、思い知らせてやる」

男達は、この家の主人が持っている工場の従業員だった。
しかし安月給で長時間働かされ、ケガをしても保障もなくクビされ、ロクに休みももらえないので、日に日に恨みを募らせていたのである。

「しかしお前、マッチを買うぐらいなら油でも買ってくればいいのに。その方がよく燃えるだろ」
「マッチの工場を持ってる奴が、マッチの火で焼かれたらおもしろいだろ?」
「ちげえねえ」
「おい、そろそろ逃げるぞ」

男達は、大きくなる炎を背後に、再びはしごで壁を越えると雑踏の中に紛れ込んだ。

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