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zoom RSS ふしぎな肉

<<   作成日時 : 2011/07/08 18:40   >>

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昔、あるところに一つの王国があった。
その国の王様は大変な大食いで、常に物を食べていないと落ち着かないというあり様だった。
謁見や会議の時はもちろん、部屋を移動する時のほんの少しの時間でさえ食べ物を持ち歩く始末である。
幸い、王様としての仕事ぶりは優秀だったので、呆れはすれど誰も文句を言わなかった。

ある時、この国に一人の商人がやってきた。
商人は珍しい物を色々と持っていて、たちまち人々の話題になった。

「ひとりでに音を奏でる箱だってさ」
「私は踊る人形を見たわ」
「七色に光るハンカチなんて、すごいよなあ」

そんな旅人の話を聞き、王様が興味を持った。

「その旅人とやら、ぜひ会ってみたいものだ。誰か、その旅人をここへ連れて来い」
「ははっ。おまかせ下さい」

かくして商人は兵士に連れられ、泊まっていた宿からお城へとやって来た。

「お前は何やら、珍しい物を持っているそうだな」

王様は、ブルーベリーパイをほお張りながら商人と謁見した。

「はい。ですがこれらは、こちらの国にないというだけで、私の国ではごくありふれた物でございます」
「ほう、お前の国では珍しくないというのか」
「そうです。こちらの国の感覚で言うところ、やや値の張る椅子程度の珍しさでしょう」
「ふーむ。お前はどこの国の出身だ? それほどの技術のある国なら、さぞ大国であろう」
「海の向こうの最果ての島です。実に小さな国です」
「ずいぶんと遠い所なのだな」

この会話を交わす間に、ブルーベリーパイは四切れ、王様の腹に納まっていた。

「ところでお前、何か異国の面白い食べ物を持っていないか?」
「はあ、食べ物ですか」
「わしは食べるのが何より好きなのでな。持っていたなら、高く買ってやるぞ」

商人たるもの、そう言われて売らないはずがない。
肩から下げていた大きなカバンを開けてごそごそと探り出し、やがて、白い木箱を取り出した。

「これなどいかがでしょう。食べても決してなくならない、不思議な肉です」

箱のふたを外し、王様にかかげて見せる。

「ほう、肉か。それは良い。わしは肉料理に目がないのだ」

王様は身を乗り出すが、いかんせん、距離がある。

「これ、見えぬではないか。近う寄れ」

商人はうやうやしく王様の前へと進み出ると、箱を差し出す。
箱を受け取った王様は、中をのぞきこんでぎょっとした。
箱の中の肉は、赤身の魚の肉によく似ていた。
しかし、普通の肉ではなかった。
肉だというのに目玉が二つついている。

「な、何と面妖な。これが肉だというのか」
「わかりやすく肉と表現しておりますが、より正確に申しますとこれは、こういう生き物なのです」
「これで生きておるのか。目玉はあるが……鳴いたり動いたりするのか?」
「いいえ。鳴きも動きもいたしません。時折目玉がぎょろりとすることはございますが」

商人は小さなナイフを取り出すと、その肉を一切れ、切り落とした。
確かに肉は悲鳴も上げず、血を流すことも痛みにのたうつこともしない。

「味は鹿の肉に似ております。生で食べても火を通しても、おいしゅうございますよ」

商人に切り落とした一切れを差し出され、王様は言われるがまま口にした。
確かにうまい。見た目の割に血の臭みもなく、つるりと食べることができる。
口に広がる、そのとろけるような食感は、たちまち王様をとりこにした。

「さあ、ごらん下さいませ。不思議なのはここからですよ」

商人が切り落とした部分を指し示す。
すると不思議なことに、切り落とした部分がもこもこと盛り上がり、元通りになったではないか。

「おお、これは便利なことじゃ。よし、買おう」

王様は大金を払い、肉を買った。
退場する間際、商人はこう言い残していった。

「王様、くれぐれも食べ過ぎないようにご注意下さいませ。一日に身を切り落としていいのは、せいぜい二回までですよ」
「心配はいらぬ。わしとて分別はつくぞ」

とは言ったものの、次の日から王様はこの肉を好んで食べた。
肉料理が食べたい時は料理人に渡して肉を使わせ、食事の合間合間の時間はこれを持ち歩き、ナイフで切り落として食べるのだ。
当然、他の料理やお菓子を食べる回数はぐっと減る。
しかし、仕事が減って困るかと思われた料理人達は、むしろ喜んだ。
今までは食べ物が途切れることのないよう、ほぼ休憩もなしに厨房に詰めていたのである。
そのめまぐるしい忙しさから解放され、彼らの仕事には余裕が生まれた。

そうして数日が経った頃。
会議の最中、肉を切り取って口に運んでいた王様は、突然、ぐっ、と低くうめいた。

「い、痛い。痛い痛い痛い痛い! 体が、体が痛いぃぃ!」

ナイフを放り投げ、のたうちまわって絶叫する。

「いかがなさいました、王様!」

周囲にいた家臣達が集まり、その身を案ずる。

「あの肉を売った商人、あいつはまだいるか?」
「確か宿屋にいるはずだ。すぐに捕らえろ!」

家臣達は急いで商人を捕らえ、詰問した。

「貴様、あの肉に毒でも仕込んでおいたのではあるまいな」
「おおかた暗殺しようとしていたのだろう、この下劣め」
「どこの国のスパイだ、殴って吐かせてくれるわ!」

家臣達に口々にののしられ、兵士達に槍でつつかれ、商人はため息をついた。

「王様は、一日に二度までという限度を守られていなかったようですね」

確かにあの時、商人は去り際にそんなことを言っていた。
家臣達はお互いに顔を見合わせた。

「一日に二度以上切るなとは、一体どういうことだ」
「あの肉は確かに物も言いません。動くこともありません。ですが、だからといって痛くないわけではないんです。だから、限度を超えて切りつけられると、恨むのです」
「恨むだと?」
「はい。その恨みが積もり積もって、がまんできなくなると、相手にその痛みをそっくりそのまま返すんです。今まで溜め込んだぶんを、一気に」

それで王様はあんなに痛がったのか……と家臣達は合点がいった。
だが聞くべきことはもう一つある。

「王様はどうすれば痛みから解放されるのだ。教えなければひどいぞ」
「時間が経つのを待つしかありません。自然に痛みが引くまで待つしかないんです。薬も何も効きません」
「なにっ」
「痛いだけですから、死にはしませんよ。しばらくは寝たきりで苦しむでしょうけど」

数日後、ようやくベッドから起き上がることができた王様は、それから食べることに対して多少、節度を守るようになったそうである。

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