プラスマイナス1

アクセスカウンタ

zoom RSS K氏の家族

<<   作成日時 : 2011/05/31 18:02   >>

トラックバック 0 / コメント 0

その男の名を、仮にKとしよう。
K氏は今よりも科学の発達した時代に暮らす人間である。

ある休日のこと、K氏は朝食の席で妻にこう切り出された。

「ねえあなた、私、そろそろ子供が欲しいわ」
「うん、そうだな。結婚して四年も経つんだし、そろそろ子供がいてもいいな」
「さっそく、買いに行きましょうよ」

二人は、朝食を済ませるとそろって出かけた。

買うと言うと誤解を招くだろうが、金を出してどこかから子供を買い取って養子に迎えるという話ではない。
『子供工場』とでもいうべき施設があり、そこで二人の遺伝子を使って人工的に子供を作るのだ。
その方法は、施設で書類にサインを行い、遺伝子を提出して複数の受精卵を作り、どれを成長させるかを選ぶというものだ。
選ぶ基準は大まかに言うと性別、将来の顔立ち、身体の特徴、予想される性格や能力の傾向である。
そうしておよそ一年後、赤ん坊の状態まで成長したわが子を受け取るという仕組みである。
別に、二人の生殖能力に問題があるわけではない。この時代においては、誰もが行っていることだ。

昔、この世界にはとんでもない数の人間がいた。
環境などから見て、到底全員がまともに暮らしていける人数ではなかった。
当然、そこには貧富の差が発生し、人々は少しでも良い暮らしをするために終わりの無い競争に明け暮れ、時として、それは悲惨な戦争に発展もした。
何度目かの大きな戦争が起き、世界が本当に崩壊しかかって以降、誰もが文明的な生活を送れるレベルでの人工調整を行うようになったのである。
誰も彼もが無節操に子供を作り続けていたら、地上は人間でいっぱいになってしまう。
それなりの暮らしができる人数というのは、やはり限られているのだ。
当時の政府はそう主張し、政策を推し進めた。
そのやり方に反対する人間は当然いたが、「なら他に方法があるのか」と切り替えされては誰もが黙り込んだ。

この方法は、案外すんなりと受け入れられた。
そもそも自然にまかせて受胎し、長い妊娠期間を経て分娩することは大変な負担である。
しかしこの方法なら、欲しいタイプの子供を選ぶことができる。妊娠期間中の苦労もない。
しかも生まれてくるのは自分が選んだ、いわば理想の子供。
そんなわけで、現在、この方法が主流となっていた。

「ねえ、あなた、どんな子にする?」
「そうだなあ。僕は一番良い子を選ぶつもりだよ。見た目と能力なら、能力の方を重視するけど」
「あら。もし女の子だったらどうするのよ。かわいい方を選んであげなくちゃ、かわいそうでしょ」
「そういうもんかなあ」
「そうよ。ただでさえ思春期って、見た目のことで悩むんだから」

施設に向かう道すがら、妻と会話をしながら歩いていたK氏は道路の向こうに、別の夫婦がいるのを見た。
自分によく似た夫。髪の色さえのぞけば瓜二つな妻。そして、二人が楽しげに笑いながら押していく乳母車。
近い将来の自分達の家族像が、そこにあった。

――ああいうのを、昔はドッペルゲンガーとか言ったんだってな。
K氏は不意に考えた。
そっくりな見た目の人間がいても、不気味だとも何とも思わない。

選ばれる子供の多くは、容姿や身体能力、才能などに優れた面があるとみなされた者ばかりである。
その『優れた』という評価がくせものだった。
「これ以上なら優れている」「この通りなら優れている」という、ある一定の基準をもっての評価だからである。
一定の基準によって選ばれた子供は大人になると、自分よりさらに『優れた』子供を選んで世に残す。
その結果、世代を減るごとに人間は、だんだん、似通った形を作り始めた。
いつの頃からか、似たような顔立ち、似たような体型、似たような声色、似たような性格……そんな人間ばかりになっていったのだ。
いわば『優れた』人間だらけの世の中である。

――この時代、珍しいことじゃないさ。

K氏は目をそらし、妻の顔を見た。
さっきすれ違った娘さん、近所のおせっかいなおばさん、庭いじりが趣味の母、この前結婚式を迎えた妹、そのどれもによく似た顔立ちの妻を。

「あなた」
「ん?」
「私達、良い親になれるようにがんばりましょうね」
「ああ。きっと大丈夫だよ」

K氏は妻に微笑むと、前を向く。

そう、心配することはないのだ。
どこかの誰かのとよく似た両親になるに違いないのだから。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

K氏の家族 プラスマイナス1/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる