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zoom RSS 泉之国のたぬき娘 十六

<<   作成日時 : 2010/08/21 16:08   >>

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予想していた痛みは、ありませんでした。

「ぐっ……!」

うめき声。とすっ、と何かの落ちた音。
お陽の口をふさいでいた手が、ずるりとすべるように外れました。
刺されたのか切られたのかはわかりませんが、そのうち恐ろしいほどの痛みがやってくるのでしょう。
包丁でちょっと指を切ったのとは比べ物にならない痛みが。

お陽はぎゅっと目を閉じ、その痛みが来ることにおののいていました。

――しかし。

(あれ?)

お陽は、内心首をかしげました。
いつまで経っても痛みが襲ってこないのです。
おそるおそる目を開けてみると、先ほどと何の変化も無い風景が飛び込んできました。
戸惑いながら自分の体を見回してみると、驚いたことに体には傷一つなく、血の一滴も流れた様子がありません。

「……あ……っが……」

足元から聞こえる低いうめき声に目をやれば、うずくまって頭を抱えこみ、苦しんでいるカジカの姿がありました。
そのそばに、取り落としたらしい小刀と、覚えのない鉄の棒が一本落ちていました。

「カジカ……?」

ほんの少し前までのお陽なら、彼のそばにひざをついて「大丈夫!?」と声をかけていたことでしょう。
しかし、夢の中ではなく、現実で殺されそうになった今は。

「…………」

お陽はただ、棒のように突っ立っているばかりでした、
自分を殺そうとした相手に近寄れるほど、お陽の肝は太くありません。
それなのに何故か、カジカから離れることもできずにいました。
逃げてしまえば安心できるのに。

そこへ、草を踏んで駆けて来る者がいました。

「大丈夫か!?」

大次郎と花です。
駆け寄ってきた花は、お陽をカジカからかばように立ち、ぐいぐいと後ろに押して距離を広げさせました。
一方、大次郎は苦しむカジカに近寄り、落ちていた小刀と鉄の棒を拾い上げ、その辛そうな様子を見下ろしています。
しかし、その眼差しはとても心配している風には見えない、冷たいものでした。

「ついに尻尾を出したわね」

どうやら、先ほど拾い上げられた二つのうち、鉄の棒は大次郎の持ち物だったようです。
大次郎は鉄の棒を握り、それで空いた方の手の平を叩いています。
カジカは苦しげな呼吸を繰り返しながら半身を起こし、大次郎をねめつけました。

「仲良くしてるみたいだし、大丈夫だろうと思ったけど……違ったわ。おどろ薬師(やくし)は、どこまでいってもおどろ薬師ね」
「おどろ薬師、って……?」

やけに乾いて痛むのどをこらえて声を出せば、今にも泣きそうな声でした。
大次郎はお陽をちらりと見ると、ぐいっとカジカの襟首をつかんでひざ立ちの状態にさせ、着物の前をくつろげて胸元を露わにさせました。
ただでさえ肉付きの薄い体の、さらに肉のつきにくい部分です。鎖骨はおろか、あばら骨までうっすら見えます。
そのうなじから肩、鎖骨にかけて、青い何かの模様が描かれていました。
おぶさっていた時に見た、あの皮ふの青くなった所は、その模様の一番上の部分と見て間違いないでしょう。

「ほら、見て。この青い模様。これが証拠よ」

カジカは無言で大次郎の手を振り解くと、座り込みました。
うつむいた顔は髪に隠れていて、表情をうかがうことができません。

「おどろ薬師の連中はね、人の肝から丸薬を作って、売りさばいているの。死体を買い取って作っているんだけど、この模様を体に入れている一味はさらに下衆なの。わざわざ人を殺して作っているのよ!」

カジカを見る大次郎の目は、さげすんだものでした。

(そんな!)

人の肝から丸薬を作り出す、ということは。
自分を殺そうとした、ということは。

その二つが意味するところを理解した途端、お陽は世界がぐるぐる回り出したような気がしました。
自分の足で立っていられず、花の腕につかまります。

「うそ、でしょ……?」

お陽の声は、震えていました。
お願い、何とか言って……そんな気持ちをこめて見つめていると、カジカが、ゆっくりと顔を上げました。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
カジカの正体が臓器狙いの人殺しだったとは
驚きです。怖いなあ!

ここでカジカは何を言い出すんですかね?
銀河径一郎
2010/08/28 20:13
カジカについては元からこの方向で考えてたので、やっと書けたなというのが本音です。
怖いですか、そうですか、うふふふ(謎の笑い)

しかし、この話の佳境を書かないまま持ちこそうとしたら、仕事がえらいこっちゃになって更新どころじゃなくなりました、こんちくしょう。
……あっ、これはカジカの呪いか!?
鈴藤 由愛
2010/08/28 21:03
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