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zoom RSS 泉之国のたぬき娘 十五

<<   作成日時 : 2010/08/14 20:05   >>

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薄紅色の綿毛のような花を咲かせた木は、大次郎や花のいる位置からずいぶん離れたところにありました。
ここからだと、二人はかろうじて人だとわかる程度にしか見えません。

「はぁ〜……気持ちいいね」

木陰に入り、吹いてくるそよ風を浴びながら、お陽は思い切り背伸びをしました。

「お陽さん、この木、見たことありますか?」
「ううん、見たことない。きれいな花だね」

見上げながら、お陽は低い位置に垂れている枝をつまみました。
葉っぱは小さな葉が並んだ細い形。遠くから見ると綿毛のように見えた花は、まるで細い糸を集めたよう。
見たことがない上に、変わった木です。

「これ、ねむの木って言うんですよ」
「何だか眠くなりそうな名前だね」
「眠るから『ねむの木』らしいですよ」
「えっ!? 木が寝るの!?」

お陽は、夜な夜な木が地面からのそのそと出てきて寝転がるところを思い浮かべていました。
なんだ怖い光景です。

「あの」
「うん」
「たぶん、お陽さんが想像しているのとは、違うと思います」
「そ、そっか」

お陽が枝から手を離すと、カジカは小さく息をついて頭をかきました。

「……ついに、ここまで来ましたね」
「……うん」

急にひっそりとしたカジカの口調に、いよいよ別れが近づいてきているのだという実感が湧いてきます。
お陽は何だか悲しい気持ちになりました。

(お別れかあ……)

と、お陽の頭を駆け抜けるひらめきが一つ。

(そうだ、お礼しなくっちゃ!)

無事にここまで来れたのは、やはりカジカが一緒にいてくれたおかげです。
実際、すっ転んで足をくじいておんぶしてもらったり、火の番を交代でしてもらったり、いろいろと世話になりました。
「水をくれたお礼に」と送ってくれたのですが、そのお礼だとしても余りあります。
もし一人きりだったら、寺に着くまでに長い時間がかかったことでしょうから。

「あ! あのね、ちょっと待ってて!」

かといって、親が持たせてくれたお金をあげるのは、何だかお礼としてふさわしくない気がします。
それなら持ち物の中から何かをあげた方がいい、とお陽は考えました。

(ええと、何がいいかな)

お陽は背負っていた荷物を降ろし、がさごそと漁り始めました。
カジカに背を向け、荷物を漁ることしばし。
ようやく、底の方に真新しい手ぬぐいを見つけました。

「こんなのしかないけど……お礼にあげる」

振り向こうとしたお陽は、そのままの妙な体勢で固まってしまいました。

「お陽さん」

いつの間にか背後に回っていたカジカが、後ろからそっと腕を回してきたからです。
まるで、抱きしめるように。

「僕はお陽さんのこと、嫌いじゃないですよ」

その一言に、お陽は頭の中が真っ白になりました。
金縛りにあったように動かない体。心臓がはちきれそうです。
二人きりの、ましてやこの状況でそんなことを言うとしたら、それは何を意味しているでしょうか。

(ええええぇ!? ちょ、ちょっと、ちょっと待って! いきなり何言うのカジカったら!)

「い、いいいいいきなりそんなっ、だいたいあたし達、出会ってからそんなに経ってないし、もっとお互いのことを知ってからっ」
「だけど」

真っ赤になってあたふたしていたお陽は、突然、背筋の凍りつくような感覚に襲われて我に返りました。
気がつけば、抱きしめるように回されていた腕が、もはや「押さえ込む」と言った方が正しいほど力強く巻きついています。
やせた体のどこにそんな力があるのか、不思議なぐらいの強い力です。
お陽は、この時初めて、カジカのことを「怖い」と思いました。

「カジ、カ……?」

不安に震える声をしぼって振り仰げば、そこにはいつも通り、穏やかそうに目を細めたカジカの顔がありました。

「お陽さん」
「な、何?」

お陽が引きつった笑みを浮かべると、その細められていた目が、ゆっくりと開かれていきました。

「お陽さん……死んで下さい」

先ほどまでとは打って変わった、冷徹な声音でそう告げられた瞬間、お陽はカジカの腕の中から逃れようと暴れました。
身をよじり、カジカをぐいぐい押しのけ、足をばたつかせます。
しかし、一見非力そうな細い腕は、まるで頑丈な鎖のようにお陽を捕らえて離しませんでした。

「何言って……もごっ!」

何が何だかわからないまま悲鳴を上げようとした口を、カジカの手がふさぎます。
お陽はその手を引き剥がすべく爪を立てたり引っかいたりしたのですが、ぴたりと吸い付いているかのようで、どうあがいても外れません。

「悪く思わないで下さい」

カジカはお陽を押さえ込んでいた手の位置をずらし、何かを引き出しました。
それが何なのかわかった時、お陽は驚かずにいられませんでした。
その手に握られていたのは、夢の中でカジカが持っていた、あの白い柄の小刀だったのです。

なんで。どうして。あれは夢だったんじゃ。
色んな感情が一気に押し寄せてきて、お陽の頭は混乱しました。

「恨むなら、狸族に生まれたことを恨むんですね」

(やめて――!!)

お陽は、小刀が自分に向かって突き立てられようとする瞬間、ぎゅっと目を閉じました。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
えっ、ラブシーン!と思って赤面したら……怖いよぉ〜!
普通っぽい顔のカジカが豹変するから、なおさら恐怖感が増しますね。
狸族が恨まれていたのか。
やっぱりカチカチ山の呪い?あっ、それは前回か(笑)

違うとわかっていても、由愛さんが抱擁シーンを書かれるなんて照れちゃいます〜(笑)
ia.
2010/08/16 14:25
ああっ、書いている時は心を無にして意識しないようにしていたのに!<ラブシーン
指摘されたら恥ずかしいじゃないのおお(悶絶)

カチカチ山のことは頭の中にまだあって、色々考えるんですよねえ。
あれ出そうかなーとか。いや違う話だしーとか。
そして、カジカがお陽の命を狙ってきた理由は……まだ未定だ!(おい!)
鈴藤 由愛
2010/08/16 17:58
突然のピンチ!
絶対絶命じゃないですか!

ここまで殺さずに寺の近くまで来たのはせめてものサービスですか?

この後がまた大変そうだ!
銀河径一郎
2010/08/18 20:25
ここまで何の事件もない方がおかしいんじゃい!<絶体絶命
ということでピンチなお陽です。
この事態を誰にどう切り抜けてもらうか悩み中。うーん。

カジカがここまで殺さずに来たのは、いちおう理由あります。

次をお待ち下さいまし。
鈴藤 由愛
2010/08/19 04:31
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