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zoom RSS 泉之国のたぬき娘 十四

<<   作成日時 : 2010/08/08 18:39   >>

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一行は、日が暮れる前に山を越え、山の中で見たかわら屋根のある場所に着きました。

「ここ、だよね」

お陽はつぶやきました。
長く続く石段の彼方にそびえる、大きな門。
その上から、山の中で見たのと同じかわら屋根が見えます。

「間違いないと思うわ。ちゃんと書いてあるもの」

と、大次郎が指差すのは石段の手前に立てられた石の柱。
見れば、確かに「誠城寺」と彫りこまれていました。

「いやあ、長い旅だった……」

花がしみじみとつぶやき、石の柱をなでています。

「ああ、早く和尚に会って手合わせ願いたい……一体どれほどの強さなんだろう……」

すっかり自分の世界に入り込んでいる花は、「あんたって、本当に武術馬鹿よね」と、あきれる大次郎に気付いてさえいない様子です。

(そっか、着いたんだ……)

お陽は、カジカをちらりと見ました。
三人から少し離れたところで、カジカはうつむき、何やら思案しているようです。

水をくれたお礼にと、誠城寺まで送ってくれたカジカ。
嫌な夢のことや舌打ちのことさえ無視すれば、穏やかで話しやすい少年でした。
目的地に着いたいうことは、もうじき別れるということでもあります。
そう思うと、お陽の胸に、急にさびしさがこみ上げてきました。

(お礼、言わなきゃ)

「あのね、カジカ」
「お陽さん」

さびしい気持ちを振り払ってお礼を言おうとすると、カジカが言葉をさえぎりました。

「お寺に行く前に、ちょっとお花見でもしませんか」
「お花見?」
「あの木に咲いている花がきれいですから。それに、最後ですし」

カジカはそう言い、細い指で右の方を指しました。
そちらの方に目をやると、薄紅色の綿毛のような花を咲かせた木がありました。

「うん、いいよ」

お陽がそう答えたのは、その花がきれいだからもっと近くで見たい、というよりも、「最後ですし」という一言が、胸にちくりと刺さったためでした。

「じゃあ行きましょうか」
「って、うえぇ!?」

カジがはおもむろに手を取ったので、お陽はぎょっとして目を丸くしました。

「どうしました?」
「て、手をつないで行くの?」
「いけませんか」
「その……そういうわけじゃないけど……」

正直に「恥ずかしい」と言えばいいのでしょうが、そう口にすることも恥ずかしく思え、お陽は真っ赤になって口ごもるばかりです。
それに引きかえ、顔色一つ変わらないカジカ。

(カジカって、ものすごく慌てたりすること、あるのかなあ)

思い起こせば、「気をつけた方がいい男は目がいやらしい」と聞いて、いやらしい目なのかどうか確かめようと顔をぐぐっと近づけた時は慌てていましたが。

「い、行こ、か」

とにかくこの状況を変えようと、つながれた手を引いた時。

「あらま。お二人さん、どこか行くの」

声をかけてきた大次郎を見ると、意味ありげににやにや笑っていました。

「う、うん。ちょっとお花見に行くの」
「そうなの。ふうん……」

大次郎は二人が手をつないでいるのに気付くと、意味ありげににやりと笑いました。

「ふうん……なるほどねぇ」
「何だ? どこ行くんだお前ら」

と、大次郎の背後から花がのぞきこんできました。

「まあまあ。そういうことなら私達は遠慮しましょ」

花を押さえ、大次郎が「行ってらっしゃい」とお陽の頭を二回、ぽんぽんと軽くたたきました。

「何が『そういうこと』なんだよ?」

首をかしげ、花が問いかけています。

「見てわからないの?」
「何を?」
「はあ……あんたは一生わからないままでいなさい」

歩いていくカジカとお陽の後ろで、また小さな言い争いが起きたのは、言うまでもありません。

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