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zoom RSS 泉之国のたぬき娘 十三

<<   作成日時 : 2010/07/31 21:23   >>

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それからの道のりは、順調そのものでした。
道中、大次郎と花がどうでもいいことで言い合いになるぐらいのもので、何事もなく誠城寺へと続く道を進むことができました。
カジカに殺されそうになる夢はあれから一度も見ておらず、夜はきちんと眠れるようになったため、身も心もすっかり回復しています。

そうして、誠城寺まで残すところあと少し、という所まで四人はやって来ました。

「あっ、もしかしてあれかな?」

お陽は、山肌の木々の間にかわら屋根を見つけました。

「あれとは何だ?」
「誠城寺。たぶんあれだと思うよ」
「何、どこだどこだ!?」

花が隣に駆け寄ってきて、お陽の指差す方を食い入るように見つめます。

「あのかわら屋根か?」
「うん」
「ああ……長い道のりだった……やっと誠城寺にたどり着ける……」

感極まった口調の花が、こぶしを握りしめて震えました。

「そりゃあねえ。誰かさんったらひどい方向音痴なんですもの」

ねえ? と後ろから大次郎がお陽の肩に手を置きます。

「一緒にいるお前が嘘を教えるからだろうが!」
「だまされるのは二度目までにしなさいな。同じ相手から十回以上もだまされるなんて、学習能力に問題ありよ」
「馬鹿だって言うのか!?」
「自覚があるなら、もう少し何とかして頂戴。私、笑いをこらえるのに苦労してるのよ」
「な、な、なんだとっ!」
「もう、やめなよ!」

放っておくと延々言い争っていそうな二人を、お陽は両手を振り回して止めます。
ここまでの間に、お陽は大次郎や花とすっかり打ち解けていました。
着ている物が変わっているだけで、中身はまともだとわかったからです。

ただ、お陽には最近気になることが一つありました。
カジカが話の輪に加わろうとせず、気がつくと一人離れてこちらを見ているのです。
その上話しかけるとどこか上の空で、あいまいな答えを返すばかり。
今も、三人から少し離れた位置にいて、やり取りを見ています。

(カジカ、どうしたんだろう)

もしかして具合が悪いけれど、気を遣わせまいとして隠しているのでしょうか。
心配になったお陽は、「大猿!」「うるさいわよ子犬ちゃん」と言い合う二人を放っておくことにして、カジカに歩み寄りました。

「カジカ、具合悪いの?」
「え?」

カジカが目をわずかに見開いています。
その反応に、お陽は頬をぽりぽりかきました。

「……違うの?」
「違いますよ。どうしてそんな事を聞くんです?」

訊き帰され、お陽はもじもじと袖口をいじくりました。

「だってカジカ、何か変だから」
「変、ですか?」
「うん。最近、一人でいるじゃん」
「ああ、ちょっと考え事をしていただけですよ」
「……本当?」

ちらりと目を上げると、「はい」と微笑むカジカと目が合いました。

「おい、早く行こうぜ!」
「あっ、うん!」

急かす花に返事をし、お陽はカジカを振り返ります。

「何でもないなら良いの、じゃあねっ」

心配し過ぎただけだ――とほっとしながら駆け出した、その時。
お陽の背後から、ちっ、と舌打ちの音が聞こえました。

(え?)

お陽の足が、思わず止まりました。
あの音はまぎれもなく、舌打ちの音。そして今、背後にいるのはカジカ一人。
ということは、今の舌打ちはカジカのもの、ということになります。

あの穏やかそうなカジカが、いら立ちを吐き出すような真似をするなんて。
お陽の背中を、冷たいものが走りました。

(う、ううう嘘よ! カジカはそんなことするような人じゃ……)

振り返って事実を確かめるのは怖いことですが、そうしなければいつまでも恐怖心が残りそうです。
覚悟を決めてゆっくり振り返ると、カジカはいつもの目を細めた穏やかそうな顔をしていました。

「あれ、どうかしましたか?」
「な、何でもない!」

慌ててそっぽを向き、お陽は考えました。
舌打ちと思ったあれはきっと聞き間違いで、例えばそう、木の枝か何かを踏んだ音かもしれない、と。

(だって、本当だったら怖いもん!)

気のせい気のせい気のせい……自分に言い聞かせながら、お陽は花の元へ駆けたのでした。

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
カジカ、相変わらずミステリアスですね。
毎回お陽をビビらせつつ、次回へ。どうなるんでしょう?
イッコーさんの相方は誰のイメージかな?(笑)
ia.
2010/07/31 23:33
カジカはまだまだ謎の存在。
そろそろ明かしたいんだけども、いかんせん誠城寺にたどり着いてくれない……。
しかし、大次郎がイッコーとあだ名される日が来ようとは(遠い目)
実はキャラを作る時、特に誰かをイメージはしないんですよぅ。
アニメとかマンガ的な絵で考えてることはあるんですが。
オタクだもんな。オタクだもん。
鈴藤 由愛
2010/08/01 08:21
そうなんですか?
アニメキャラしかイメージできない小説もありますが、由愛さんの書かれるものは立体的な映像が浮かびますよ。
今回は全体的には水戸黄門のイメージ(笑)
うっかり八兵衛、出てほしいw
ia.
2010/08/01 14:21
はい。
なのでできるだけ思考を現実的にして、アニメアニメした書き方しないように気をつけてます。
好きなんですけどね、現実じゃありえないっしょっていうだけの設定とか。

水戸黄門ですか。
むしろこの編成だと、うっかり八兵衛はお陽担当のような気が。
そして何故か黄門さまをやっている大次郎が目に浮かぶ。
「んもう、助さん格さん、こらしめてやんなさい!」
わあ、違和感がない。
鈴藤 由愛
2010/08/01 16:52
いよいよ誠城寺が見えてきましたね!

和気藹々とゆくかと思いきや、ここへ来てカジカが気になる舌打ち? どうなるんだろう??
銀河径一郎
2010/08/05 01:01
旅に困難は付き物ですからね、そうそう気楽にはたどり着かせませんよ(悪党)

カジカの本性が、こうしてだんだん露呈していくのですよ……ククク<舌打ち
鈴藤 由愛
2010/08/05 20:59
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