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zoom RSS 泉之国のたぬき娘 十二

<<   作成日時 : 2010/07/24 17:35   >>

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お陽が次に目を開けた時、辺り一面に白いもやがかかっていました。
ひんやりとした空気と、そして時折聞こえる小鳥のさえずり。
たき火の跡から漂う燃えかすの臭いが、つんと鼻をつきます。
それは誰がどう見ても、早朝の風景でした。
身を起し、しばらくぼうっとしていたお陽は、不意に「あれ?」と首をかしげました。

(あたし、今日、夢見たっけ?)

夢というのはカジカに殺される夢のことです。
カジカに出会ってからというもの、毎夜悩まされてきた悪い夢。
もしや今、その夢の中にいるのかと思って頬をつねれば、現実だと告げる確かな痛みがありました。
と、いうことは。

(今日は夢を見なかったってこと?)

お陽の目が、きらきら輝き出しました。
夢にうなされることなく朝を迎えられる日が、ついにやって来たのです。
「やったあ」と声を上げてから、お陽は自分の口をふさぎました。
自分は起きていても、他の三人はまだ寝ているはず。声を上げるのは迷惑でしょう。
実際、大次郎が迷惑そうに「うぅん」とうなりながら寝返りを打ちました。
その声に、木に寄りかかって寝ている花の体がびくっと小さく跳ねます。

(あれ?)

お陽はそこで、カジカの姿が見当たらないことに気付きました。
木の後ろにでも寄りかかって寝ているのかとのぞいて見ますが、やはりいません。

(どこ行ったんだろう……?)

散歩にでも出かけたのでしょうか。
お陽は探しに行くことにしました。


カジカは、ごろごろした岩だらけの所にいました。
手前の方の石の上に座り、何やら考え事をしています。

「カジカー!」

お陽が駆け寄ると、カジカは顔を上げてにこりと笑いました。

「ああ、お陽さんですか。おはようございます」
「おはよ! ねえねえ聞いてよ、あたし、今日は悪い夢見なかったの!」
「そうですか。良かったですね」
「うん! カジカも良かったね」
「え?」
「だって、あたしの様子見てて頭突きされなくて済んだじゃない」
「……そうでしたね」

と、カジカがそっとお陽の首の付け根に手を触れました。

「何?」

お陽がきょとんと見上げれば、

「いえ、くもの糸が付いていたので」

カジカはあっさりと答え、指を上の方ににずらしました。

(……顔、近いなあ)

お陽は何となく、間近にあるカジカの顔を見ていました。
一見、やせ細っているとしか言いようのないその顔は、恐ろしく特徴のない顔立ちでもありました。
人は、眉の太さや目の大きさ、鼻の高さ、唇の厚みなどに、それぞれ特徴を持っているものです。
カジカには一切それがありません。全てが「中間ぐらい」としか言いようがないのです。

と、カジカの髪が頬に触れ、お陽は頭の中が真っ白になりました。

「わあ!」

(近い、近い、顔近いったら!)

距離の近さを認識した途端、お陽は恥ずかしくてたまらなくなりました。
真っ赤になって離れようとしますが、カジカは指先に力をこめてきます。
くもの糸がそんなに気になるのでしょうか。
「いい、自分で取るから」と言おうとした、その時でした。

「あ〜らお二人さん、朝早いのねえ」

突然後ろから声をかけられて、お陽は「ひゃあ!」と声を上げ、カジカは無言で手を離しました。

「それとも二人っきりになりたくて早起きしたのかしらん? ごめんなさいねえ気がきかなくって」

うふふふ、と気色悪い声を上げるその人は、大次郎です。

「そ、そんなんじゃないです!」

お陽は慌てて否定しました。

「あら本当? なーんか良い雰囲気だったわよぉ?」
「違うの、くもの糸を取ってくれてただけなの!」

もはやていねいな言葉を使うほどの余裕はありません。
ねえ? とカジカを見れば、「はい」とあっさりした同意の言葉を述べただけで、「じゃあ僕、朝げ用のたき木拾いに行きますから」と野宿をした方へ戻って行ってしまいました。

「むきになるところがまた怪しいわねえ」
「本当にくもの糸を取ってもらっただけだってば!」
「それにしちゃ、ちょっと長いこと触ってなかったかしら」
「そんなの知らないっ」
「触られて嫌だった?」
「知らない知らないっ」

おかげでお陽は一人、大次郎にからかわれ続けたのでした。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
いますよね、全てが普通で特徴のない顔の人。って、今回のポイントはソコじゃない!(笑)
カジカ、怪しいなぁ。夢を見なかったのは、夢じゃないから?
どうでもいいけど、大次郎はイッコーさんのイメージです(笑)
ia.
2010/07/24 22:34
その言葉を受けて、今、十一話を読み返してきました。<イッコー
うわあああぜってー一緒になんか寝たくねええええ!(悶絶)
今後、テレビでイッコーさん見るたび悶絶しそう。

全部のパーツが普通という人は似顔絵の描きづらい顔だそうです。
ということを昔聞いて、いつかキャラに使おうという野望がありまして、今回カジカの設定にしました。

あの夢の真相は、もう少し先に明かします。くすす。
鈴藤 由愛
2010/07/24 23:05
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