プラスマイナス1

アクセスカウンタ

zoom RSS 泉之国のたぬき娘 九

<<   作成日時 : 2010/07/03 16:22   >>

トラックバック 0 / コメント 4

「考えすぎ、だよね」……お陽は確かにそう考えました。
しかし、次の日もその次の日も、お陽はカジカに殺されそうになる夢を見、その度に飛び起き、心配して様子を見ていたというカジカに頭をぶつけました。
続くこと、とうとう四日目になったのが今日のこと。
そのためお陽は、目を覚ましてからずっと気分が重くて仕方ありませんでした。

(あたし、どうしてこんな夢ばっかり見るんだろ)

お陽は、その疑問に頭の中を支配されていました。
怖い夢を見るだけなら、何度でも経験しています。
ですが、立て続けに同じ夢ばかり見るというのは生まれて初めてのことです。
旅立ったばかりで気が高ぶっている、というだけで、果たしてこんな事態に見舞われるものでしょうか。
不自然なような気がしてなりません。

それでは、一体何故なのでしょう?
お陽はその理由を探しながら、今日も今日とて誠城寺への道を歩いていました。

と、不意にカジカが足を止め、お陽に向き直りました。

「お陽さん、あそこの茶屋で休みませんか?」

あそこ、とカジカが指差した先には、一見の茶屋がありました。

「実は、お団子が食べたくて仕方ないんですよ」
「お団子?」

立ち止まったお陽は、うーんと渋い顔をして考え込みました。
団子を食べるというのは魅力的な話ですが、問題は財布の中身です。
旅立ちの時に両親からいくばくかお金を持たされてはいますが、決して無駄使いしていい額ではありません。

「あたしはいいよ、一人で行ってきなよ。無駄使いできないもん」

我慢しようと決めて首を横に振ると、カジカが「いえいえ」と言いました。

「お団子の代金ぐらいなら出しますよ。一人で食べるのもなんですし」
「わあいっ、じゃあ食べる食べる!」

今までの重たい気分はどこへやら、お陽の顔がぱあっと輝きました。

「あんこの載ってるやつがいいな! あ、でも蜜の方が安かったらそっちにするね」

その様子を一言で言うなら、まさに「単純」。
団子一つでこうも変わるか、というほどの浮かれっぷりでした。



さて、茶屋には先客がいました。
ずいぶんと大柄な女性と、対照的に刀を持っているほっそりした男性の二人組です。

「すいません、お茶とお団子を二人前」
「はいよ、かけて待ってておくれ」

茶屋の女将の声で二人に気付いた先客が、長椅子の端に詰めて場所を開けてくれました。
お陽は大柄な女性の隣に腰かけ、ふっと顔を上げたその瞬間――信じられない物を見てしまいました。
思わず石地蔵のように固まり、大柄な女性を、穴の開くほどじいっと見つめます。
お陽に衝撃を与えたもの、それは女にしては大柄だとか顔立ちが何だか男っぽいだとか、ほっそりした男性と話す声が低くて妙にしゃがれてるだとか、そんな程度のものではありません。

(このお姉さん、のどぼとけがある……!)

のどぼとけ――女性にはあるはずのない物。
そう、隣に腰かけてふっと顔を上げた瞬間、お陽の視界にそれが飛び込んできたのです。

「どうかした? お嬢ちゃん」

あまりに見つめるものですから、不思議に思ったのでしょう。
大柄な女性……と言っていいのかわからない人物が、お陽に向かってにこりと微笑みます。

「え、ええと」

お陽はまごまごしてしまいました。
正直に「着てる物は女物なのに、どうして、のどぼとけがあるの?」と聞いてしまっていいのでしょうか。
気になることは気になる問題ですが、答えを聞くのが恐ろしくてたまりません。

しかし、その人物はお陽の物言いたげな顔と視線から察したようで、

「ああ、もしかして、これ?」

と言いつつ、自分ののどぼとけを指差しました。

「私は、れっきとした男よ。この格好はまあ、趣味ってやつね。私、美しく着飾るのが大好きなの」

その人物は、うふん、と片目を閉じます。 
途端、お陽の体を何ともいいがたい衝撃が貫きました。

「なんで男なのに女の格好するの!?」

理解不能、の四文字がお陽の脳内を駆け巡ります。
お陽にとって身近な男性は父親のみですが、父親は間違っても女物の服を着たりしません。

「うふふ。世の中には色んな奴がいるってことよ」
「やめやがれ、気味悪がってんだろうが」

そう言ってたしなめる、隣のほっそりした男性……と思いきや、よくよく見れば、こちらはのどぼとけがありません。
どうやらこちらは男性ではなく、女性のようです。

(逆、逆だよ! この人達、着る物間違えてるよー!)

お陽は頭がくらくらしてきました。
このくらくらを手っ取り早く解消するには、原因となるものから離れてしまうのが一番です。
お陽は、すくっと立ち上がると二人組からカジカをはさんだところに座り直しました。
隣で会話を聞いていたというのに、カジカは運ばれてきたお茶を涼しい顔ですすっています。
よほど肝がすわっているのか、それとも他人の話に興味がないのか、あるいはこの手の話に慣れっこなのか……よくわかりません。

「どうしました?」
「……なんか、よくわかんないけど、あの人達、怖い」

お陽はカジカを盾にして、男女の様子をうかがいます。

「やあね、怖くなんかないわよぉ。出てらっしゃいな」
「いたいけな少女をからかって遊ぶんじゃねえ、この大猿っ」
「いつもながらきゃんきゃんうるさいわね、子犬ちゃん」
「何だと、もういっぺん言ってみやがれ」
「子犬ちゃん。おまけでもう一回言ってあげるわ。こ・い・ぬ・ちゃん。きゃははっ」
「てええめえええ!」

二人組はやいのやいのと言い合いを始めます。
そこへ「お待ちどうさま」と団子が運ばれて来ました。白玉団子の上にあんこが載ったものです。
普段なら大喜びしているところですが、今のお陽にそんな心の余裕はありません。

「ねえ、早く食べてとっとと出発しようよ」

これ以上ここにいて、この二人組を見ていたら気が変になりそうです。
お陽はカジカの袖を引っ張り、耳打ちしました。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
都会の人なら男装や女装にも免疫があるだろうけど、お陽は田舎の箱入り娘だから、さぞ怖いでしょうね。
でも悪い人じゃなさそうだし、楽しい展開になりそうですね。
仲間が増えていくRPGゲームみたい。

RPGといえば、主人公は勇者とか奉られて、結局はパシリみたいなことをやらされるんですよねぇ。やだ、やだ。
ia.
2010/07/03 17:11
都会はまだまだこんなもんじゃないですよね<男装、女装
しかし田舎住まいの私はお陽を笑えない。自動改札を通った回数も一桁だ。
実は深いことを考えずに書いていたら登場していた二人組。今後どう扱おうかしら。むう。

あー。勇者っていうより、ただの何でも屋状態になりますよね。<RPG
行った先のダンジョンでイベントが起きて通れなくて、また街まで戻って何かしないといけないとか、非常に嫌なパターンですよ。
解決しないと先に行けないから請け負うけども。
鈴藤 由愛
2010/07/03 21:40
大柄な女性が登場したところで、来たな、タヌキだろ、尻尾が出てくるぞ、と思ったのに(^^;

男女入れ替わりカップルはどんな展開を呼ぶんでしょうか。先が気になります!
銀河径一郎
2010/07/09 20:12
たぬきかあ、そういやもう一匹ぐらい出てきても良いですねえ。
この男女あべこべ組(何)は、何も考えずに書いたら出て来たキャラなので、コメントで面白いアイディアをもらったら採用するかもですよ。
ただ、カップル(恋人)にはしないつもり。
鈴藤 由愛
2010/07/10 14:53
泉之国のたぬき娘 九 プラスマイナス1/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる