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zoom RSS 泉之国のたぬき娘 七

<<   作成日時 : 2010/06/20 14:35   >>

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少年は、見た目とは裏腹に大変な力持ちでした。
決して大柄とは言えないやせた体で「よいしょ」と荷物ごとお陽を背負い、ふらつくこともなく山道を歩き出したのです。

「ねえ、重くないの?」
「いいえ。全然」

少年は歩きながら、平然と答えます。

(人って、見た目によらないんだなあ)

一つ学んだお陽は、何とはなしに少年の首筋に目を向けました。
皮ふの下で脈打つ様のわかる、余計な肉のない首です。
苦労してるんだな、と少年の苦労をしのんでいると、

(……何これ)

お陽は目を見張りました。
その首筋の付け根のところ、襟からわずかにのぞいた部分に、紫色に染まっているところが見えたのです。
見間違いかと顔を少しずらして確認しましたが、やはりそれは紫色に染まっていました。

お陽の背筋に、ぞくっ、と寒気が走りました。
皮ふがこんな色になるななどと、ただ事ではありません。
どこかでぶつけてしまったのでしょうか。それとも、誰かに命を奪われかけたのでしょうか。
恐ろしい想像が頭の中を駆け巡りながらも、お陽は目をそらせなくなっていました。

「……あの……」

と、少年が気まずそうな声を上げて顔を向けきたので、お陽は思わずどきっとしてしまいました。

「えっ?」
「首筋に息をかけるのは、やめてもらえませんか」

そう言う少年の顔は赤らみ、困惑した表情を浮かべています。
どうやら観察に熱中するあまり、顔を近づけ過ぎていたようです。

「くすぐったいんです」
「ご、ごめん」

お陽の顔も、たちまち真っ赤に染まります。

「眠るなら、顔を横に向けて下さいね」

少年はぷいっと元通り顔を前に向け、歩き出しました。

「う、うん」

首筋のことは気になりますが、もう見る気にはなれません。
いっそ「これ、どうしたの?」と聞けばすっきりするのでしょうが、何だか気まずくて口をきく気になれません。

(あーやだやだやだっ、変な感じ!)

お陽は顔を横にして少年の背中に押し付け、寝たふりを決め込みました。



そうして、どのぐらいの距離を進んだのでしょう。
少年が、突然足を止めました。

「川に着きましたよ」
「んぁ?」

寝たふりをし続けて本当に眠くなっていたお陽は、寝ぼけまなこで目の前の風景を見ました。
さらさらと流れる水の音。
大きな岩がごろごろと並ぶ両岸の間を、きれいな水が勢い良く流れています。

「ここで少し休みましょうか。足を冷やせば、いくらか痛みも取れますよ」
「うん、ありがとう」

少年は、お陽を大きな石の上に降ろしました。
お陽は石の上に腰かけ、足を水にひたしました。

「うわっ、冷たい!」

その水の冷たいこと。
これなら、足のはれもすぐに引きそうです。

「あっ、そうだ。水筒水筒」

お陽は、荷物を降ろして空っぽの水筒を取り出しました。
先ほど少年に飲み干された水筒です。

「僕がやりますよ」

身をかがめようとしたお陽の手から、少年が水筒を引き抜きました。

「飲み干したのは僕ですから」
「……う、うん」

引き抜かれた時にわずかに触れた手がくすぐったくて、お陽はまた落ち着かない気持ちになりました。
気分を紛らわそうと、水面をばしゃばしゃと蹴飛ばします。

「そ、そういえば、名前まだ言ってなかったよね。あたし、陽っていうの」
「お陽さん、ですか」

水を汲み終えた少年は、水筒をお陽に手渡すと少し離れたところに座りました。

「やだなあ、ご丁寧に。呼び捨てでいいって」
「いえいえ、そういう性分なんです」
「ふーん……」

性分だというのなら、改めろと無理強いするのは良くないかもしれません。
お陽は意見を引っ込めることにしました。

「で、名前は?」
「僕は……」

少年は言いかけて、視線を川に移し、向こう岸にある石を指差しました。

「あれと同じ名前です」
「え?」 

お陽は目をこらしてよく見ようとしましたが、その方向に魚はおろか、羽虫一匹見つけられません。
それでも少年の指は間違いなく、その石をまっすぐに指しています。
もしやこの少年は石という名前なのだろうか、とけげんに思っていると、

「……もしかして、僕の名前が石だと思っていませんか?」

察したらしい少年に指摘され、お陽はぎくりと身を固めました。

「ま、まさかあ」

ごまかすように笑みを貼り付けるお陽に、少年は苦笑いを返しました。

「あの石の下にたくさんいますよ、カジカ」
「カジカ?」

カジカがどんな生き物かは、お陽も知っています。
カジカというのは、ぎょろ目に大きな口を持った不細工な顔で、茶色や黒のまだら模様のある小さな魚です。
お陽の父親の大好物で、旬の時期になるとよく川に行って捕まえたものでした。

「えっ、あなた、カジカっていう名前なの?」
「はい」

微笑む少年――カジカを見ながら、(変わった名前だなあ)と思うお陽でした。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
カジカ、ググりましたよ。
ナマズみたいな魚ですねぇ。皮をはいで天ぷらにしたら美味しそう(笑)
美しいラブストーリーは無理でも(いや、決めつけちゃダメですけど)楽しいラブコメになりそうですね。
なんとなくドキドキ☆
ia.
2010/06/22 01:36
カジカは塩焼きにしたり、天ぷらにしたりすると美味だそうです。
……いや魚の方ですよ!?(当然だ)
私に美しいラブストーリーは無理でござります。書いててたぶん「おえええ」ってなるから。
ラブコメ程度なら〜……まあ、「おえっ」ぐらいかな?
ドキドキ感が持続するようにがんばりまーす。
鈴藤 由愛
2010/06/22 15:10
紫色って、キスマークでもなさそうだし、なんだか怪しい訳アリみたいです! 

カジカは知ってましたよ。カジカの〜♪バンビ〜は♪可愛いなあ〜♪ってやつでしょ? (それは仔鹿だろ ←突っ込み用にコピペしてお使いください)
銀河径一郎
2010/06/22 22:18
キ、キスマークってそんなあなた!
うちは健全なブログですのよ!

ああ、あの有名な児童文学ですね。
母をなくし、父と暮らす少年がカジカのバンビに出会い、大自然の中で成長していくという感動の物語の。(それは仔鹿だろ←突っ込み用にコピペしてお使いください)
あれ、この使い方違うの?(おい
鈴藤 由愛
2010/06/23 22:04
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