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zoom RSS 泉之国のたぬき娘 六

<<   作成日時 : 2010/06/05 16:19   >>

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「疲れたでしょう、荷物持ちますよ」
「大丈夫だってば!」
「遠慮しなくて良いんですよ」
「してない!」

そんなやり取りを続けながら、一体、どれ程の道のりを歩いたことでしょう。
「いい」「かまわないで」「いらない」……少年が何かを言うたびに、お陽はありとあらゆるお断りの文句を並べ立てました。
しかし、少年は気にする風もなく、てくてく後を着いて来ます。
これでは一緒に誠城寺へ向かっているようなものです。
おまけに、早足で歩き続けたお陽はそろそろ息が切れてきましたが、少年の方は平然としていて、二人の距離はだんだんと縮まっていました。

「何でそんなにむきになるんですか?」
「何でもな……わあっ」

お陽は木の根っこに足を引っかけ、ずでっと前のめりに転びました。

「大丈夫ですか!?」

駆け寄って来た少年が、手を差し伸べてきます。
お陽はその手をつかもうとして、はっとしました。

(いけないいけない! やたら親切な奴には気をつけろって、おとっつぁんが!)

指先が触れるか触れないか、といった寸前で手を引っ込めます。

「いい、一人で立てるから」

立ち上がろうとしたお陽は、足首にずきりと痛みを覚えてうずくまりました。
どうやら、転んだ拍子に足首をひねってしまったようです。

(どうしよう)

どうにか痛みをこらえて立ち上がったものの、これでは一歩も動けません。
いっこうに動こうとしないお陽を見て、少年が首をかしげています。
黙っていたら変に思われるとわかっていても、適当な言い訳が何も思い浮かびません。
気ばかりあせって、お陽は「う〜」だか「ん〜」だかわからないうめき声を上げました。

「あの……もしかして、足、ひねりました?」

そうこうしているうちに、少年が勘付いたようです。
お陽はうつむいて、小さくうなずきました。

「はあ……だから道中何かと危険だって言ったのに。良いですか、これがもし一人旅だったら、誰にも助けてもらえないんですよ? 通りがかった人に助けてもらえれば良いですけど、場所が悪かったら、命を落とすことにもつながりかねないんですからね……!」

(何で怒られなきゃいけないんだろ、あたし)

しかも、ついさっき会ったばかりの人間に。
お陽は少年のお説教を聞きながら、なんとなくみじめな気持ちになりました。

「聞いてます?」

そのみじめな気持ちに浸っていると、少年が声を低めて、ずいと身を乗り出してきました。

「だ……だって」

お陽は気まずさと気恥ずかしさから顔を上げられず、着ている服の袖口をいじくりました。
まるっきり、すねて半べその幼い子供です。

「だって、何ですか」
「だって、やたら親切な奴には気をつけろって、おとっつぁんが言ってたんだもん……」
「……は?」

少年が、ぽかんと口を開けてお陽を見ました。

「もしかして、それで遠慮していたんですか?」

言葉を口にする気にもなれず、お陽は黙りこくってうなずきました。
はああ……と少年のつくため息が聞こえます。

「それ……意味が違うと思います」
「……そうなの?」
「そういう奴は、親切なだけじゃないですよ。もっとこう、恋仲の相手がいるか聞いてきたりとか、どんな奴が好みか聞いてきたりとか、やたらべたべた体を触ってきたりとか……」

少年はもごもごとつぶやきながら、だんだん顔を赤くしていきました。

「そ、そう! 目がいやらしいんだと思いますよ」
「目?」
「そう、目」

お陽は、顔を上げて少年の目をじいっと見つめました。
一見、穏やかそうに細められた、切れ長な二重まぶたを。

「……何ですか?」

見つめられた少年が、うろたえたように視線をそらします。
かまわずに見つめ続けますが、目を見ても、正直いやらしいかどうかわかりません。

(う〜ん……)

もっとよく見れば、わかるかもしれません。
そう考えたお陽は、出し抜けに少年の顔を両手で挟み、ぐぐっと近づけてみました。

「ちょっ! な、何するんですか!」

細めていた目を見開いて慌てる少年の声を無視して、間近でその目を覗き込みます。

「……わかんないや」

悩みの色濃い顔と声色で、お陽は少年の顔をぱっと離しました。
顔を真っ赤にした少年は、後ろを向き、すーはーすーはー何度か深呼吸を繰り返した後、

「まあ……そのうちわかりますよ。とにかく僕は、そういういやらしい事は考えてませんので」

小さく咳払いをし、ぶっきらぼうに言葉を返してきました。

「ところで、歩けますか」

少年はお陽の足首を見つめます。

「どうだろ」

お陽は足を一歩踏み出してみて、ずきっとした痛みに襲われました。

「いっ、いたたた」

痛みは相変わらず。
思わず片足を上げて、ぶらぶらと揺らします。

「痛い……」
「じゃあ、おんぶして行きましょう」
「えっ、ええっ」

たぶん大丈夫な相手、とわかっても、やはり知り合ったばかりの人間に身をゆだねるのは気が引けます。
お陽はちょっと後ずさりしました。

「このままじゃ歩けませんよ。どうします」
「で、でも」
「嫌なら置いていきますけど?」

この時お陽には、少年が怖い目をしたように見えました。
逆らっても良い事はなさそうだ、と直感できるような、そんな目を。

「おながいします」

お願いしますと言おうとして、どもってしまうお陽でした。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
こ、これは……もしかしてドジっ子ヒロインが恋に落ちるパターン?
いや、でもこの少年もその方面には鈍そうですね。
お陽は色気がなさ過ぎるし。
「おながいします」って(笑)
男性読者へのサービスとして温泉シーンでも入れますか(笑)
ia.
2010/06/06 00:42
作者の「恋愛書けない」呪いがモロに出たキャラ設定なんですなあ(遠い目)
色気のある子より、あほんだらな言い間違いをやらかす子の方が書きやすい&楽しいという。
この二人で恋愛はやれるのだろうか。

温泉シーンかあ。想像したら照れるなあ(何故に)
鈴藤 由愛
2010/06/06 09:21
私が男の子ならこういう展開にはならないと思います、へへへ。なぜ? それを聞くのは野暮ですがな。

もっと食べないと女の子をおんぶする体力を回復できないからです!(笑)
銀河径一郎
2010/06/06 23:23
では、これでも食って体力を回復してくだされ。
つ ポテチ

コメントの前半を読んで、いかがわしいコメントを想像してしまいましたよ、もう。
ちなみに、私は女の子程度ならおんぶできる自信があります。どすこいどすこい。
鈴藤 由愛
2010/06/07 20:18
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